「前置きが長くなってしまったので、そろそろ発表しましょう。今年の二年C組の出し物に、我々はメイドカフェ・執事喫茶を提案します!」
紅野さんが高らかに宣言する後ろで、墨田が黒板いっぱいに『メイドカフェ・執事喫茶』と殴り書きをする。思ってもいなかった提案に、みんなが「え……」と口を開けて固まった。
「去年、王子様を遠くから見ていることしかできなくて、歯痒い気持ちになりませんでしたか?」
「それが今年は、金を払えば三枝に接客してもらえる。会話もできるし、ツーショットだってできてしまう」
「どうしよう、一気にめちゃくちゃありな気がしてきた」
「しかも、滅多に見られない執事姿を、君たちは働きながらでも拝めるわけだ」
「はい、決まり」
「メイドカフェと執事喫茶やるしかないじゃん」
墨田と紅野さんの演説を聞いたクラスの女子たちが、一斉に賛成の声を上げる。この空気の中、反対の声を上げられる男子はいない。
「まぁ、面白そうだしいいんじゃね?」
「あ、螺良、お前も執事やってもらうから」
「え、嘘でしょ」
「はぁ……、お前だってモテること知ってるんだからな、サッカー部のエース様」
適当に興味本位で声を上げたせいで、螺良が標的にされる。三枝には負けるけれど、螺良の人気が高いのも事実。納得の人選だった。
「頼、何も言わないけど、お前はこれでいいの?」
「やれって言われたことをやりますよ、俺は」
螺良の問いかけに顔を上げた三枝が淡々と答える。多分、こういう扱いにも慣れてしまったのだろう。横目で見た表情は少し冷たくて、客寄せパンダ扱いの三枝に同情した。
「なんか紅野さんって、去年頼のファンクラブを作ろうとしたことがあるらしいよ」
「へー」
「頼に反対されて未遂で終わったらしいけど、あれだけ熱意があったら非公式に立ち上げててもおかしくないよなぁ」
休み時間、席までやってきた螺良の話す内容に相槌を打ちながら、人は見かけによらないものだと紅野さんを観察する。さっきまでの生き生きとした表情はどこへやら、見慣れた大人しい紅野さんに戻っていて、どっちが本当の紅野さんなのか混乱する羽目になった。
結局、全クラスが集まる実行委員会で見事メイドカフェ・執事喫茶の権限を勝ち取ってきた二人は三枝ファンから崇められていた。隣のクラスの実行委員から聞いた情報によると、そこでもうちのクラスの演劇部コンビは熱弁を奮って、みんな呆気にとられたらしい。
学校中に三枝ファンがいるのだ、名前を出したら何でもOKが出ていたに違いないと思いつつ、そこまで漕ぎ着けたのは二人の力量と熱意のおかげなのだから、きっと三枝ファンのクラスメイトは彼らに素直に感謝するべきなのだろう。
そうして出し物が無事に決まり、文化祭が近づいてきた。準備にも熱が入り始める。キッチン担当に決まった俺は裏方に徹しようと、当日までやることがないから装飾担当を手伝っていた。みんなで力を合わせて作業して、実際に形になっていくのが楽しかった。