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本音を言ってしまえば、気が乗らない。だけど、もし行かなかったら絵上さんを傷つけるよなぁと思ったら、俺に残された選択肢はひとつだった。
放課後、いつもとは全く違って沈んだ気持ちを抱えたまま図書室に出向く。荷物は教室に置いてきたから身軽なはずなのに、どうしてこうも足が重いのか。早く帰りたい、そう考えている時点で失礼なのは分かっているけれど、どうしようもなかった。
「あ、来てくれたんだ」
先に来て待っていた絵上さんが俺に気づいて、ほっとしたようにはにかんだ。その瞬間、良心が痛む。どんな顔をすればいいのか分からなくて、作り笑いで誤魔化した。
「突然呼び出してごめんなさい」
「ううん、大丈夫。また何かお困りごと?」
「その、委員長に伝えたいことがあって……」
「うん」
「……好きです、付き合ってください」
がばっと頭を下げる絵上さんの耳が真っ赤に染まっている。一生懸命で、ストレートな告白が胸に刺さった。それはキュンときたとか嬉しいとかじゃなくて、俺もあいつにこんな風に言えたらなって羨望。
クズだなと自分でも思う。女の子が勇気を振り絞って告白しているのに、俺の脳内のど真ん中を陣取っているのは男なのだから。ここまできたら、もう認めてしまうしかなかった。この不毛な恋を殺す前に、本当は一瞬でも認めてあげたかった。
黙り込んだままの俺を気にして、絵上さんが顔を上げる。俺の表情を確認した彼女は、今にも泣きそうになりながら笑った。
「……困らせてごめんなさい」
「ちが、」
「ううん、顔見れば分かる。本当は、告白する前から振られるんだろうなって分かってたの」
「…………」
「だから、私のエゴで優しい委員長を困らせちゃってごめんね」
「……俺は優しくなんかないよ」
「ふふ、そういうところだよ。……最後にお願い、ちゃんと振ってくれないかな」
強がって平気なフリをしているけれど、明るい声は震えている。
「……ごめん、絵上さんとは付き合えない」
「うん……、ありがとう」
俺なんかよりずっとずっと優しくて、強い絵上さん。傷つけると分かっていて紡ぐ声はひどく掠れていた。それを聞いて、無理に笑って見せた彼女は「じゃあ、私は行くね」と足早に去っていった。最後まで涙は見せなかった。
「……きつ」
重たい鉛玉を詰め込まれたみたい。間違った道を進んだって分かってる。でも、自分に嘘をついて絵上さんと付き合ったとしても、どうせ最後には傷つけて傷つくだけだ。それをきっと絵上さんも分かっていた。