夏休みの後半のほとんどを三枝と過ごすことになるなんて、休暇前の自分に言ったら嘘だと信じなかっただろう。新学期初日、電車に揺られながら考える。

 都合よく記憶を改竄してないかと疑いたくなるが、スマホのカレンダーに入れている予定を見返すと、やっぱり三枝で埋まっている。どこかに遊びに行くとかじゃなくて勉強尽くしな毎日だったけど、せっかくの夏休みの過ごし方がそれでよかったのだろうか。

 いつも通りの時間に学校に到着して、日焼けしたクラスメイトに声をかけられながら席に着く。夏を満喫したんだなとすぐに分かる、長期休暇の余韻がまだ抜け切っていない雰囲気。


 「くるちゃん、おはよ」


 荷物の整理をしていれば、頭上から声が降ってくる。何度か席替えをしたのに、何故かいつも隣同士になる相手だ。顔を上げれば、眠たそうな眼と目が合った。


 「おはよ、今日は遅刻ギリギリじゃないんだ」
 「んー、くるちゃんに早く会いたかったから」
 「っ、まだ寝惚けてんのかよ」


 朝っぱらから甘ったるい言葉を受け止めてしまって、失敗したと後悔する。ふいと視線を逸らしてなんとか反応を返したけれど、こんな顔は絶対に誰にも見せられない。

 三枝と話せて嬉しい。それなのに、苦しい。相反する複雑な気持ちに何が何だか分からなくなりそう。


 「頼、髪伸びたね」
 「センター分けも似合っててかっこいい」
 「ありがと」


 新学期早々、目をハートにした女子たちに囲まれる姿も見慣れたものだ。もしかしたら、この中に三枝の好きな人がいるのかもしれない。そう思ったら、途端にズキンと痛む心臓の存在をうるさく感じる。感情なんて、なくなったらいいのに。そしたら、何かに動じることも無く、平穏に過ごせるはずだから。