少し悩んだ後、二年C組のテントの方へ足を進めるが、そこに探し物はなかったようで、ぐるりと進路を変える。
「うそ、頼こっち来てる!」
「やばいやばい!」
女子たちがキャーキャー騒ぐ中、運営テントにたどり着いた三枝は俺の前で立ち止まる。
「くるちゃん、来てっ」
「うん」
少し息を切らせて、懇願するように言われては頷くしかなかった。右手を握られて一緒に走り出すと、背後から黄色い悲鳴が上がる。ざわめきは次第に大きくなるけれど、俺は三枝の背中を見つめ続けた。
三枝よりずっと足が遅いからまずいと思っていたが、他の人はお題に手こずっているようでまだ誰も螺良のところには戻ってきていない。一番に到着したことにほっとしていると、三枝が握り締めすぎてぐしゃぐしゃになった紙をにんまりしている螺良に手渡した。
「さぁ、二年C組の三枝頼が一番に帰ってきました! これでお題が合っていれば、一位でのゴールとなります! さぁ、頼、連れてきたのは何ですか?」
「……くるちゃん」
「なるほどね」
睨みながらぼそりと答える三枝に、ふむふむと頷く螺良が紙を開封して中を確認する。俺も何だろうと覗こうとしたら、繋がれたままの手を引かれてその場に留まらされた。
まぁ、螺良が読み上げてくれるか。その場で大人しくアナウンスを待っているが、螺良は紙と三枝の顔を見比べてなかなか口を開こうとしない。もしお題と合っていなければ、探し直しになるから早くしてほしいのに。
「頼、そういうことでいいんだよね?」
「ん」
「傷付けたら俺が怒るから」
「分かってる」
マイクを通さずに、真剣な顔で会話をする二人。たかが借り物競争なのに、そんなに真面目になる必要がどこにあるのか。一人だけ頭上にクエスチョンマークを浮かべていると、それに気づいた螺良が「大丈夫」と言いたげに微笑みを向けてくる。
「三枝くん、お題もクリアとなったので、見事一位でのゴールとなります! おめでとうございます!」
螺良のアナウンスにグラウンド全体に更なるざわめきが広がる。人気者の一位に湧く声とお題を疑問に思う声、その両方が重なっているのだろう。かくいう俺も、当事者のくせに状況を把握できていなくて、その声に乗っかりたいぐらい。
「ありがとう、くるちゃん」
「いや、連れて行かれたのは全然いいんだけど、お題は何だったの?」
「さぁ、何だろうね」
コースから退場後、三枝に尋ねるも、作り笑いではぐらかされた。何だよ、それ。イライラが募る。三枝も螺良も俺に黙ったまま二人で楽しんで、巻き込んだくせに部外者扱いかよ。