そうして、始まってしまえばあっという間に過ぎ去ったテスト期間。今回も変わらず一桁の順位をキープすることに成功した俺に、八割以上も丸で埋め尽くされた答案用紙を向ける三枝の笑顔は花丸満点だった。
「委員長は流石だけど、頼も今回すげーじゃん」
「ふふ、くるちゃんのおかげ」
螺良に自慢げに話す三枝に、最早問題児の影はなかった。
「枢木、ほんっとうにありがとう!」
「え?」
「三枝の成績がかなり上がったのは、枢木が面倒見てくれたからだろう」
「いや、俺は何もしてないですよ。三枝が頑張った証拠です」
桃ちゃん先生担当の英語のノートを職員室まで運ぶ手伝いをしている道中、突然隣で頭を下げられる。土下座でもしそうなら勢いに驚いて、思わず足を止めた。
少し手伝ったとはいえ、俺ばかり感謝されて、誰よりも頑張った三枝の努力が担任にすら認められないのは納得いかなかった。きっぱりと否定すれば、桃ちゃん先生は慌てたように「それは勿論」と頷く。
「でも、枢木が一緒に勉強していなかったら、きっと三枝はあんなに頑張れなかったと思うから、何もしてないってことはないんじゃないかなって先生は思うなぁ」
「桃ちゃん先生は、去年から俺のことを買い被りすぎなんですよ」
「そんなことないよ。そうやって自分を卑下してばかりで、枢木の自己評価が低すぎるんだよ。自分でも分かってるでしょ?」
「……残念ながら、否定はできません」
「ふふ、ほらね。去年からずっと、枢木はいつもクラスメイト全員のことを考えて、みんなのために動いてくれてたでしょ。こんな頼りない先生だから、枢木の存在はすごく有り難かったし、何度も助けられてたよ。ありがとう。でもだからこそ、もっと自分を認めて、よくやったって褒めてあげてよ」
「…………はい」
「枢木のしてきたことは、ちゃんと誰かのためになってるんだから。下向いてないで、胸張って生きなさい」
桃ちゃん先生に出会って、一年とちょっと。まさかそんな風に思われていたなんて、ちょっと感動してしまって目頭が熱い。
ぐと唇を噛み締めながら、再び歩き出した先生の背中を追いかける。下駄箱近くの廊下に差し掛かったとき、桃ちゃん先生が再びはたと足を止めた。
「あ、待たせてたんだね。それならそうと言ってくれたらよかったのに」
「ん? 何の話してますか?」
「そういうのはいいよ、枢木。あんなに否定しておいて、やっぱり仲良しだったんじゃないか。運ぶのもここまででいいから、早く行ってやりなさい」
全くもって何を言っているのか分からない。困惑している間に手に持っていたノートたちが奪われていく。
はいはいありがとねと、勝手に切り上げてスタスタ歩いて行ってしまう後ろ姿に「はぁ?」と投げかける。けれど俺の声は届かなかったのか、何もそれに対する答えは返ってこなかった。