学校中の女子に告白されているこの男に、これほどまでに思われている人って一体何者なんだ。今年から空き教室に行かずに自分の教室で大人しく授業を受けているということは、もうこの学校にはいないのだろうか。次々に浮かんでくる疑問が思考を邪魔して、さっきからちっともページが変わっていない教科書の内容なんて全く入ってこない。

 俺だけが半ばパニックで、三枝はいつも通り余裕の表情。窓の外を眺めて頬杖をつく姿が大人びて見えて、目の前にいるはずの三枝を遠く感じた。


 「今でも好きなの?」
 「……もちろん」
 「っ、」


 柔らかな笑顔で頷く三枝に何故か少し胸の奥が軋んで、何故か俺が泣きたくなった。だって、こいつがあまりにも優しい顔で笑うから。大好きなんだって、その表情から伝わってくるから。


 「くるちゃんはそんな顔しないでよ」


 三枝の手が伸びてきて、少し伸びて目にかかるようになった前髪を震える指先で払う。駄目だよ、三枝。そんな風に優しく触れられたら、きっと誰だってお前に恋してしまうから。


 「別に、元からこんな顔だし」


 なんだか無性に顔が熱くなって、視線をばっと窓の外に移した。俺と三枝、友人未満の関係のはずなのに、どこか空気が甘ったるい感じがして、落ち着かない。

 だって、こんなの、俺たちには似合わないだろう。この状況をどうにかしようと、俺は敢えてふざけた口調で話しかけた。


 「つーかさ、何で急に勉強しようと思ったわけ? お前、テスト勉強やるようなタイプじゃないだろ」
 「はは、やっぱ俺ってそういう風に思われてるよね」
 「まぁ、うん」
 「そろそろちゃんとしなきゃと思ってさ。後悔したくないから、全部ちゃんとやるって決めただけ」


 その瞳に強い意志を覗かせて、三枝はにっと笑う。


 「どうせ受験するなら、好きな子と同じ大学がいいじゃん」
 「うーん、そうかな。まだあと二年もあるのに、ずっと好きでいるかなんて分かんないと思うけど」
 「好きだよ、ずっと」
 「っ、」


 間髪入れずにさらっとそう言われて、自分が告白されたわけじゃないのにドキッと心臓が跳ねた。顔がいい男の真顔は圧がある。