理由は何も分からないが、どうやら俺は三枝頼という問題児であり、人気者でもある彼にいつの間にか懐かれていたらしい。

 一年生の頃は全く授業に出ていなくて、進級するための出席日数がギリギリだったというのに、今年の三枝は真面目に授業を受けている。提出物もちゃんと出しているようだし、午前中は気だるげにしているものの、遅刻するようなこともなかった。

 最初は気まぐれかと疑っていた教師陣も、一ヶ月もそんな態度が続けば心を入れ替えたのだと、素直に感激する他なかった。

 問題児卒業かと思われた三枝だったが、俺はその行動に疑問を抱く場面に遭遇していた。授業中、不意に隣から視線を感じるときがある。そんなとき、ちらりと盗み見れば、なんとも形容し難い表情で俺のことを見つめている三枝と高確率で目が合うのだ。


 「なに?」
 「……なんでもない」


 分からない箇所があって、聞きたいことがあるのか。忘れ物をしたから、教科書を見せてほしいのか。何かしら理由があってこちらを見ているのだろうと思って小声で尋ねても、きゅと口を結んだ彼は曖昧に微笑んでまた黒板の方を向き直るばかり。

 一回ならまだしも、それが何回も続くと疑問は募るばかりで、心の奥がむずむずしてたまらない。俺と話したくないから誤魔化されているのか、つまりそれって嫌われているのだろうかとも思ったが、休み時間になると別人のように「くるちゃん」と絡んでくるからそういうわけでもないらしい。

 二重人格かと疑いたくなるほどの変わり様。三枝頼という人間の扱い方が分からない。気づけば学校だけじゃ飽き足らず、家でも三枝のことを考えるようになってしまった。認めたくはないが、頭の中の七割を占める悩みの種。だけど、三枝のことで悩んでいると本人にバレるのは癪で、俺は何も気にしていない風を装って、ポーカーフェイスを貫いていた。