「まずはクラス委員長、やりたい人は手を挙げて」
「…………」
桃ちゃん先生の言葉に、さっきまで大騒ぎしていたクラスメイトは一斉に口を閉ざす。しーんと静まり返った教室。下手に口を開けば槍玉に挙げられる、それをみんな分かりきっているのだ。
「立候補する人はいないか……」
桃ちゃん先生が残念そうに教室中を見回す。ぱちんと目が合った気がして、去年も泣きつかれたことを思い出した。
「じゃあ、この人がいいんじゃないかって推薦できる人は? 一週間も過ごせば、クラスメイトの人となりぐらい先生より分かっているだろう」
これまた口を開きにくいことを言う。友だちの名前を出せば裏切ったのかと後の友情に響くし、逆に全く絡んだことのない名前を出せば嫌がらせと思うだろう。
そんな状況で名前を挙げるのは――……
「枢木がいいと思いまーす」
そうだよな、お前たちは俺のことを嫌ってるもんな。
悪意があからさますぎて、最早笑えてくる。
やってやったぞと謎の達成感に包まれ、ドヤ顔でこちらを見てくるのが正直鬱陶しい。三枝の取り巻きたちは、どうしても俺に一泡吹かせたいらしい。
「枢木、どうだ?」
「まぁ、他にいないならやってもいいですけど」
「他に推薦したい人がいれば、手を挙げて」
桃ちゃん先生の声に反応することなく、クラスメイト全員が視線を逸らすばかり。
「じゃあ、枢木に決定。みんな、拍手!」
「あの、先生。一つだけいいですか」
「うん、何だ?」
「推薦された側だけが役職につくのは不公平なので、推薦した人も何か委員会に入るべきだと思います」
真面目くさった顔でそう言うと、隣から噴き出す音が聞こえた。
去年もやったし、別に委員長をやりたくないわけじゃないからどうだっていいのだけれど。ニヤニヤした顔で、わざとらしく拍手している奴らが気に食わない。
誰もやりたがらない役職に就いたのだから、というのを建前にすれば、周りも「確かになぁ」と頷いた。
「委員長がこう言ってるんだし、風紀委員とかやっとけば」
「あ、いいじゃん」
「俺も螺良に賛成!」
最初に乗っかってきた螺良の言葉に「賛成」の声が繋がる。隔週で早朝に登校して、生徒の制服チェックをしないといけない風紀委員は、委員長の次に圧倒的不人気だ。
「じゃあ、風紀委員も決まりだな。よろしく」
反論する暇もないまま、決まってしまった風紀委員という役目に、先程までとは打って変わって肩を落とす取り巻きその一、改め味田。
そんな彼の様子を気にすることなく、呑気な桃ちゃん先生は話を進める。