翌朝も変わらず雨が続いていた。いつもなら登校ついでに3軒先の、聡の家のチャイムを押す。だが今日は、ビニール傘をさした聡が門扉の脇でしゃがみ込んでいた。

「体調は?」
「サイアクだよ。でもこうでもしなきゃオレのこと避けそうだし。オレはそのままでいたいのに、既に疎遠になったら意味ないだろ」

俺は性格まで女々しく映っているのか、とじんわりと笑いが込み上げてくる。

「カッコイイじゃん」
「うるせ」

突っぱねるように言った聡は続けざまに、いくぞ、と立ち上がった。

――こういうところだ。隣に並んだ聡を見て、どこか満たされた気持ちになる。これを腐れ縁とするなら、底に感じる愛おしさの行き場がない。

「そーいえば姉ちゃんにブラ返した?」
「あー、洗濯機に突っ込んでたらクソ怒られた」
「なんで?」
「知るかよ」

不機嫌そうな横顔に、頬を引きつらせながら意味ありげな視線を送る。

「ば――ッ! ……キモイこと言うなよ? 姉ちゃんのだそ」

耳が紅い。ただの冗談でこうもウブな反応をされると、精一杯フツーを装っているのがわかる。

「聡」

半ば無意識に名前を呼ぶと、聡の傘がピクッと震えた。

「……その……下心透けてる感じで呼ぶの、マジでやめて」

はにかんだ聡の横顔が、雨をまとったビニール傘に隠れてゆらゆらと滲む。

今日が雨でよかった。濡れないように、傘がぶつからないように、聡の理想どおりの距離を保って並んで歩ける。いまは。