言いながら気づいたのだろう。聡の口の中には、ちゃんとお菓子がある。

俺が立ち上がってブランコの鎖を掴むと、聡はきゅっ、と目と唇を閉じた。

フルフルと鎖が微かに揺れ、聡の緊張が伝わってくる。
前回は頑なに口を守っていたのに、聡の両手は鎖を握ったままだった。

「俺も。ずっと一緒にいたいと思ってるよ」

鼻先に触れるだけのキスをして、聡から離れる。

ブランコを囲うパイプに腰掛けて向き合うと、聡は腑抜けた表情で固まっていた。その丸まった瞳と視線がかち合った瞬間、聡は悔しそうに、そしてどこか気恥ずかしそうに顔を歪ませる。

「言っとくけど、オレはまだ諦めてないからな」

――――なにそれ。

聡の微笑ましい強がりの裏で、急に俺が照れくさくなった。

嬉しくないはずがない。どんなカタチであれ、俺に向かってきてくれるなら嬉しいに決まってる。

「聡、好きだよ」
「うるせぇ」
「こういうのは先手必勝だろ。守ってばっかじゃ勝てねぇぞ」

サッカーみたいに、とは例えられなかった。これまでに何度か、同点引き分けで悔やんでいる聡を見ている。

でも俺の願いは、勝ちより同点が近いだろう。

「オレのほうが好きだし。……付き合う気はないけど」

ぼそぼそとぎこちない対抗に、笑みが零れそうな口元を拳で隠す。

そもそも俺は、聡と付き合いたいとは一言も言っていない。いまはただ俺と同じように、腐れ縁じゃなきゃよかった、と思う瞬間があればいい。まだ、その段階だ。



―fin―