ちょっと優しくしただけで異常なのかよ……。

「なぁ、さっきから何してんの」

既にスマホに戻ってしまったが、元気ならまあいい。ただその、指をパチンと鳴らすような仕草だけは気になる。

「んー……べんきょう?」

――――こいつが勉強?
四六時中サッカーボールを追いかけてるようなヤツなのに、んなアホな。

「臣ってさ、モテるよな」

むくりと起き上がったアホが、枕を抱きながら伏し目がちにこちらを見下ろす。

口以上におしゃべりで、鬱陶しいほどに何かを訴えてくる顔。きらいじゃない。

「…………」
「…………なに?」
「ブラのホック、どうやって外すか教えて」

――――は?

コントの類ではなく、冗談抜きで、シーツの上を頬杖がズルリと滑った。

こいつ、やっぱりまだ熱あるだろ。それとも高熱で脳ミソやられたか。

「ふつーに背中に手ぇ回して外せばいいじゃん」
「ばーかばーか。片手でさり気なくやるもんだろー」

枕に乗せられたふくれっ面を見上げたまま、呆れた、と鼻を鳴らすようにため息を吐く。

「体験談見てたら、うまくできなくて彼女に笑われたとかあってさ。しかもフロントホック?とか難関すぎ」

……うぜぇ。
バカはお前だ。彼女もいないくせ、に――。

「え、彼女できた?」
「いや? でもいずれできるじゃん?」
「……片っ端から断ってなきゃ、とっくにできてるだろ」

何気なく口から出た、といえば嘘だ。そう言わなきゃいけない気がした。

人受けが良い顔で、人懐っこい性格で、運動も平均以上にこなしてしまうのが俺の幼馴染だ。残念なところがあるとすれば、単純でバカ。それも愛すべきバカだから、そこらの同級生よりは告白イベントも多い。

何かきっかけさえあれば、学校イチの美女と付き合う未来もあるはず。

誰でもいい。一刻も早く彼女を作って欲しい。心の片隅で、何年もそう願っている。

「それ考えてたんだけど、臣のせいでもあるよな」
「は? 意味わかんねぇ」
「告白されてるときに、こう……なんていうか、臣のほうがキレイな顔してるよなーってなるんだよね」

その“キレイな顔”とやらを歪めたところで、見返される瞳は微動だにしない。どうやら本気で言っているらしい。

「せめてうちのキングと比べろよ」

高校のミスターコンで2連覇している友人を引き合いに出し、残酷な言い分を笑って濁す。

「たしかにありったけの褒め言葉が備わった顔だけどさぁ……いやほら、臣のことは最初マジで女の子だと思ってたし。一応あれがオレの初恋なわけじゃん」

知ってるよ。俺が『雅臣です』って言うまでの、流れ星レベルの初恋だろ。

「……え、怒った?」
「いや怒ってねぇよ」

不安げに顔色を伺ってくる仔犬のようなアホをかわしながら、スマホでメッセージを1通送る。ものの数秒で既読になったかと思いきや、返ってきたのは着信だった。

「悪い、ちょっと電話」