「……臣ってさ、男が好きだったの?」
「べつに」
「じゃあ女も好き?」
「いや、べつに……」

ただの一問一答なのに、言い淀んでしまった。

俺にだって人並みに好みはある。でも好きになった人はこいつしかいないわけで。さすがに空気を読むだろ、これは。

点々と街灯が灯っているおかげで、暗がりなりに聡の表情はうかがえた。

聡は俺の声に下心が透けていると言うが、聡の場合は、喋らなくても色々とうるさい。今だってムッとした顔で、どこか不機嫌なような、決まりが悪いような雰囲気を出している。

「なに?」
「や、いい。この話は終わり。オレは男だ」
「知ってるけど」

他意のない返事だったが、終わりだと言った口が不満げにへの字を描く。

「あのさ、そんな反応されると気になるんだけど」
「……幼馴染じゃなかったら、って思ったことある?」

――――え?

「臣がオレを好きだって知って、正直嬉しい部分もある。でも付き合うってなったら色々変わるじゃん? オレは、臣とずっと一緒にいたい。この腐れ縁を失いたくない。大事にしたい」

ブランコの鎖を握る聡の手に、ぎゅっと力がこもった。

精一杯、寄り添おうとしてくれている。これまでは過剰なほど反発してたのに。

「俺のはさ、お前のアホみたいな初恋とは違うよ」
「はぁ? なにその喧嘩売ってくる感じ」

肩肘張らない口ぶりに戻った聡が、いじけたようにブランコを揺らす。

「少しずつ好きになった。お前が俺との絆を大事にしてくれてる間、俺は好きだなって想ってきた。お前のおかげでこの腐れ縁があるんだから、大事なのは当たり前なんだよ」

ずっと引っかかっていたことがようやく解った。聡への想いは、恋や友情で区別できない。友情の先に待っていたもの、もしくは底に埋まっていたものが恋だった。

俺の選択肢は友情か恋かではなく、友情を取るか、友情ごと捨てるか。友人として接することはできても、好きになるなと言われたら物理的に離れるしかない。

このさきも聡が腐れ縁を紡いでくれるなら、その縁が切れる瞬間まで、俺の片想いも許してほしい――。


静か過ぎる夜の空気をため息で汚し、ブランコから腰を上げる。

「聡、『トリックオアトリート』って言ってみ?」
「は? ……トリック、オアトリート……?」

疑いの眼差しに微笑みながら、パーカーに入っていた一粒のキャンディを手渡す。

「なにこれ?」
「よく行くカフェあるじゃん? あそこのレジでそれ言ったら貰った」
「臣が言ったの? 似合わねぇ」

聡はケラケラと笑い、キャンディを口へ入れた。

……そんな笑うほどか?
機嫌を取るつもりが反撃されて、その場にしゃがみ込む。なんか、ムカつく。

「トリックオアトリート」
「ふふっ。はいはい、笑って悪かったって」
「……トリックオアトリート」
「おお、臣って声もイケメンじゃん」

拍手までして俺をからかっている気でいるアホを、じっと見上げる。

「なぁ、どっちがいい? お菓子寄越すか、イタズラされるか」
「は? オレ何も持って、な……」