比嘉へ
きっとこれで上手くいくと思う。
俺もいろいろ考えたし、おじさんがあんなことになってすごいショックだったし立て続けにまた俺もってのは悩んだけど時間がないから思い切った。
悲しまなくていいよ、てか悲しまないで。
時々思い出してくれたら嬉しい。
あすみちゃんとモナちゃんとおじさん、みんなでいた時間を時々思い出して。
短い人生、俺にとって心の底から笑えたのはみんなでいたときくらいだった。
悔いはない。
大好きだ。
みんなが大好きだ。
みんなが幸せになってほしい。
俺ずっと死にたかったんだし、元々こんなことがなくてもこんな結末になってたわけだし、マジで悲観したり責任感じたりだけはやめてな。
比嘉は頭がいいからいい大学に入るだろう。
そしたらいいところに就職して人の役に立ついい大人になるだろうな。
その姿を見れないのは残念だけど、その日を楽しみにしてるよ。
あとあすみちゃんのことだけど、幸せになれるように比嘉、見守ってあげてな。
あんな男じゃなくてあすみちゃんにはもっといい男がいると思う。
あんな男のことは早く忘れていい恋をしてほしい。
もしも子どもを育てるなら助けてやってよ、俺も助けたかったんだけどできなくなっちゃったから。
だけど、まぁとにかくあすみちゃんなら大丈夫!
あと、モナちゃんはどうなるんだろう?
いなくなるのかな?
もしもの世界線、何度も考えたんだ。
たとえば俺たちがたまたまあすみちゃんとモナちゃんとおじさんと出会って友達になる。
そしてファミレスで飯食ったり花火したり誕生日会したりするんだ。
どうだ?
そんなに悪くないだろ。
他人からはそう見えてただろうな。
俺はこっちでおじさんを探す。
モナちゃんのことも探すから心配いらない。
モナちゃんには仕事が忙しいって追い出されるかもしれないけど。笑
じゃあな
元気で。
坂崎より
僕はもう感情を失ったロボットだ。目から水分は出てくる。だけど息は正常。ただ目から水分が出ているだけ。
シンイリが珍しく膝から離れない。
もうとっくにおやつは食べ終わったというのに。
「シンイリ、お別れだ」
「にゃー」
シンイリは熱心に毛繕いを始める。
それと同時に僕のことも舐める。
慰めてくれているのか?
「シンイリ、下りてね」
そしてシンイリを膝から下ろす。
僕は立ち上がる。
窓を開けると秋風がぴゅうと部屋に入り込んだ。
冷たい風が頬を叩く。
僕は大きく深呼吸をする。
「たー、いたー、けいたー、けいたー、けいたー」
遠くからだんだん近づいてくる声。
愛しい人の声。
泣き叫ぶようなそんな声で僕の名前を呼ぶ。
さすがに幻聴だと思う。
もう時間だ。
それは間違いない。
もしかしたらモナは空が飛べるかもしれない。
そうであっても全くおかしくはない。
モナが来る前にやらなきゃ。
「シンイリ、愛してるよ」
僕は窓に左足をかけた。
あすみちゃんへ
あすみちゃんの子、守ってあげられなくてごめん。あすみちゃんの彼氏のこと、あすみちゃんのお母さんの彼氏のこと、ちゃんと話も聞いてあげられずなんの力にもなれなかった。
あすみちゃんからは貰ってばかりだったね。
あすみちゃん、ひとりにさせてごめん、あすみちゃんの優しさならあすみちゃんは誰からも愛される人になる。
あすみちゃんの未来は明るい。
だから信じて、大好きだよ。
僕の友達のあすみちゃんへ。
坂崎へ
坂崎のこと、守れなくてごめん、坂崎のこと救えなくてごめん、なのに僕を守ってくれてありがとう。救ってくれてありがとう。
こんな友達ができて僕は世界一の幸せ者だ。
坂崎のいない毎日は悲しいだろ、もっと一緒にいたかったよ、大好きだからな。
俺と関わらなければ坂崎は今頃まだ部屋の中にいて、いつか部屋から出て外の世界へ出られたかもしれない。
俺ってほんとお節介なくせにポンコツだよな。
関わっちゃってごめん。
ずっと友達な坂崎へ。
おじさんへ
おじさんはどんな人生を過ごしていましたか?
僕とは年も違うしたまたまあの日あの公園に行かなければ出会わなかったかもしれないね。
おじさんの過去になにかがあって、おじさんは普通のみんなと違う生き方をしていた。
だけど普通ってなんだろうね。
普通ってのは友達と笑ってご飯食べたり花火したりすることだよね?
おじさんは普通に生きてたね。
僕のためにあんな怖い思いさせてしまってごめんなさい。
僕はおじさんのことが大好きだよ。
年の離れた大切なお友達へ。
モナへ
あの日顔を上げたのはやっぱり僕のミスだよ。
そしていつまでもモタモタして自分の死を考えなかった、それも僕のミス。いろいろあって全部ぐちゃぐちゃでいいことなんてないけど、僕はこうなってひとつだけよかったことがある。
それはモナ、君に出会えたことだよ。
こんなこと照れくさくてなかなか言えないけど気持ちは最初から今も変わらない。
好きだ。
大好きな人へ。
七階から下を見るとさすがに足がすくむ。
ふらつく足元、右足もなんとかかける。
大きく深呼吸をしていちにのさんで飛び降りる。
大丈夫、これでもう終わる。
全てはこれで終わるから。
意を決して踏み込んだ、時だった。
「なーー」
怒ったような声が聞こえた。
僕はもう手を離した後だった。
これで終わる、そう思った。
刹那目の前に黒い塊が見えた。
シンイリ?
まさか。
スローモーションのように地面まで運ばれていく中、加速して落ちてきたシンイリが僕に追いついた。
わけがわからず呆然とする中、すぐに我に返りシンイリを抱きしめようと両手を出す。だけどシンイリの方が体重が軽い分、スピードに追いつかない。
まずい、このままじゃシンイリの上に落ちてしまう。
「いたー、けいたー、けいたー」
近づいてきているモナの声。
「シンイリー、やだよシンイリー」
僕の声は空を飛ぶ。
シンイリは丸い紙のようなものを咥えているのが見えた。
死の権利の譲渡書類だ!
「無駄だ、シンイリ、ちゃんと着地してくれ」
その譲渡書を持っていてもシンイリに譲渡はできない。
その譲渡書は本物ではあるけど過去に体験した死と同じ性別や同じ間柄ではないとそれは……それは……。
いや、過去に僕はモナカの死を……経験している。
モナカはメスでシンイリもメス。
モナカは黒猫でシンイリも黒猫。
モナカは僕の飼い猫でシンイリも僕の飼い猫。
「嘘だ、いやだ、シンイリー」
地面が近くなる衝撃に備え目をギュッと瞑る。
さすがにそこまでで僕は意識を手放した。
「うわっ、どっちだ」
「けいた……」
「どっちが下だ? 猫か?」
「えっと、はい」
「譲渡書類もある、経験した死の間柄もクリア、比嘉慶太は無事生きられることが決まった」
「待ってくださいジョウシ」
「なんだ」
「ほぼ同時です」
「確かに……」
「無効です、これは無効ですよ」
「なんだよシンイリから昇格するの嬉しくねーのか? シンイリ」
「やり直しです、これはダメです」
「そうだな、確かに譲渡したはずなのに両方同時に死んでるのはまた厄介な案件になるなら、これ上に書類通すと面倒なことになるぞ、そんなことやってる暇ないしなー」
「ジョウシ!」
「あれ? お前らまーだこの兄ちゃんひとりに構ってたのか」
「センパイ!」
「これ、お前どう思う?」
「俺なら関わりたくない案件、どっちが先に死んだかビデオ検証、書類提出、裁判まで持ってくし一年くらいかかるぞ」
「だよな、それはさすがに仕事も詰まってるしな」
「お願いします、助けてあげてください」
「まぁ、なんていうか、ここにいる全員が見なかったことにしたら無効にはなるわな」
「だな、そして約束の一ヶ月は過ぎてしまった」
「どうなるんですか? その場合」
「ん? 差し戻しってやつよ」
「つまりこの一ヶ月のシンイリの努力は無駄っていうこと」
「え? それって」
「あの日に時を戻すぞ」
「あ、はい、ありがとうございます」
「まぁ、でもここまでの仕事が全部チャラってのも可哀想な話だよな」
「んー、じゃあ」
「いいです! 全部チャラでいいんです」
「あ、ほんと? お前の役職シンイリから抜け出させてあげようと思っただけなんだけど」
「え? それはお願いします!」
「ふっ、現金なやつ。じゃあ次の司令を命ずる! 誰か目が合った人の命を貰ってこい! シンイ……じゃなくて、えっとお前の名前は……ミライ……だったな、確か、ミライ! 一ヶ月前に戻って今度は慎重に誰かの命を貰ってこい」
「はいっ!」
「どうせまた飛び込むやつ待つだけで長い時間かかりそうだな」
「あっそれと」
「きゃっ」
「うわ、なにやったの、こいつに」
「ミライの記憶を消した。兄ちゃんの記憶は消さない、兄ちゃんよく考えるんだ、目が覚めてお前はどう判断する?」
きっとこれで上手くいくと思う。
俺もいろいろ考えたし、おじさんがあんなことになってすごいショックだったし立て続けにまた俺もってのは悩んだけど時間がないから思い切った。
悲しまなくていいよ、てか悲しまないで。
時々思い出してくれたら嬉しい。
あすみちゃんとモナちゃんとおじさん、みんなでいた時間を時々思い出して。
短い人生、俺にとって心の底から笑えたのはみんなでいたときくらいだった。
悔いはない。
大好きだ。
みんなが大好きだ。
みんなが幸せになってほしい。
俺ずっと死にたかったんだし、元々こんなことがなくてもこんな結末になってたわけだし、マジで悲観したり責任感じたりだけはやめてな。
比嘉は頭がいいからいい大学に入るだろう。
そしたらいいところに就職して人の役に立ついい大人になるだろうな。
その姿を見れないのは残念だけど、その日を楽しみにしてるよ。
あとあすみちゃんのことだけど、幸せになれるように比嘉、見守ってあげてな。
あんな男じゃなくてあすみちゃんにはもっといい男がいると思う。
あんな男のことは早く忘れていい恋をしてほしい。
もしも子どもを育てるなら助けてやってよ、俺も助けたかったんだけどできなくなっちゃったから。
だけど、まぁとにかくあすみちゃんなら大丈夫!
あと、モナちゃんはどうなるんだろう?
いなくなるのかな?
もしもの世界線、何度も考えたんだ。
たとえば俺たちがたまたまあすみちゃんとモナちゃんとおじさんと出会って友達になる。
そしてファミレスで飯食ったり花火したり誕生日会したりするんだ。
どうだ?
そんなに悪くないだろ。
他人からはそう見えてただろうな。
俺はこっちでおじさんを探す。
モナちゃんのことも探すから心配いらない。
モナちゃんには仕事が忙しいって追い出されるかもしれないけど。笑
じゃあな
元気で。
坂崎より
僕はもう感情を失ったロボットだ。目から水分は出てくる。だけど息は正常。ただ目から水分が出ているだけ。
シンイリが珍しく膝から離れない。
もうとっくにおやつは食べ終わったというのに。
「シンイリ、お別れだ」
「にゃー」
シンイリは熱心に毛繕いを始める。
それと同時に僕のことも舐める。
慰めてくれているのか?
「シンイリ、下りてね」
そしてシンイリを膝から下ろす。
僕は立ち上がる。
窓を開けると秋風がぴゅうと部屋に入り込んだ。
冷たい風が頬を叩く。
僕は大きく深呼吸をする。
「たー、いたー、けいたー、けいたー、けいたー」
遠くからだんだん近づいてくる声。
愛しい人の声。
泣き叫ぶようなそんな声で僕の名前を呼ぶ。
さすがに幻聴だと思う。
もう時間だ。
それは間違いない。
もしかしたらモナは空が飛べるかもしれない。
そうであっても全くおかしくはない。
モナが来る前にやらなきゃ。
「シンイリ、愛してるよ」
僕は窓に左足をかけた。
あすみちゃんへ
あすみちゃんの子、守ってあげられなくてごめん。あすみちゃんの彼氏のこと、あすみちゃんのお母さんの彼氏のこと、ちゃんと話も聞いてあげられずなんの力にもなれなかった。
あすみちゃんからは貰ってばかりだったね。
あすみちゃん、ひとりにさせてごめん、あすみちゃんの優しさならあすみちゃんは誰からも愛される人になる。
あすみちゃんの未来は明るい。
だから信じて、大好きだよ。
僕の友達のあすみちゃんへ。
坂崎へ
坂崎のこと、守れなくてごめん、坂崎のこと救えなくてごめん、なのに僕を守ってくれてありがとう。救ってくれてありがとう。
こんな友達ができて僕は世界一の幸せ者だ。
坂崎のいない毎日は悲しいだろ、もっと一緒にいたかったよ、大好きだからな。
俺と関わらなければ坂崎は今頃まだ部屋の中にいて、いつか部屋から出て外の世界へ出られたかもしれない。
俺ってほんとお節介なくせにポンコツだよな。
関わっちゃってごめん。
ずっと友達な坂崎へ。
おじさんへ
おじさんはどんな人生を過ごしていましたか?
僕とは年も違うしたまたまあの日あの公園に行かなければ出会わなかったかもしれないね。
おじさんの過去になにかがあって、おじさんは普通のみんなと違う生き方をしていた。
だけど普通ってなんだろうね。
普通ってのは友達と笑ってご飯食べたり花火したりすることだよね?
おじさんは普通に生きてたね。
僕のためにあんな怖い思いさせてしまってごめんなさい。
僕はおじさんのことが大好きだよ。
年の離れた大切なお友達へ。
モナへ
あの日顔を上げたのはやっぱり僕のミスだよ。
そしていつまでもモタモタして自分の死を考えなかった、それも僕のミス。いろいろあって全部ぐちゃぐちゃでいいことなんてないけど、僕はこうなってひとつだけよかったことがある。
それはモナ、君に出会えたことだよ。
こんなこと照れくさくてなかなか言えないけど気持ちは最初から今も変わらない。
好きだ。
大好きな人へ。
七階から下を見るとさすがに足がすくむ。
ふらつく足元、右足もなんとかかける。
大きく深呼吸をしていちにのさんで飛び降りる。
大丈夫、これでもう終わる。
全てはこれで終わるから。
意を決して踏み込んだ、時だった。
「なーー」
怒ったような声が聞こえた。
僕はもう手を離した後だった。
これで終わる、そう思った。
刹那目の前に黒い塊が見えた。
シンイリ?
まさか。
スローモーションのように地面まで運ばれていく中、加速して落ちてきたシンイリが僕に追いついた。
わけがわからず呆然とする中、すぐに我に返りシンイリを抱きしめようと両手を出す。だけどシンイリの方が体重が軽い分、スピードに追いつかない。
まずい、このままじゃシンイリの上に落ちてしまう。
「いたー、けいたー、けいたー」
近づいてきているモナの声。
「シンイリー、やだよシンイリー」
僕の声は空を飛ぶ。
シンイリは丸い紙のようなものを咥えているのが見えた。
死の権利の譲渡書類だ!
「無駄だ、シンイリ、ちゃんと着地してくれ」
その譲渡書を持っていてもシンイリに譲渡はできない。
その譲渡書は本物ではあるけど過去に体験した死と同じ性別や同じ間柄ではないとそれは……それは……。
いや、過去に僕はモナカの死を……経験している。
モナカはメスでシンイリもメス。
モナカは黒猫でシンイリも黒猫。
モナカは僕の飼い猫でシンイリも僕の飼い猫。
「嘘だ、いやだ、シンイリー」
地面が近くなる衝撃に備え目をギュッと瞑る。
さすがにそこまでで僕は意識を手放した。
「うわっ、どっちだ」
「けいた……」
「どっちが下だ? 猫か?」
「えっと、はい」
「譲渡書類もある、経験した死の間柄もクリア、比嘉慶太は無事生きられることが決まった」
「待ってくださいジョウシ」
「なんだ」
「ほぼ同時です」
「確かに……」
「無効です、これは無効ですよ」
「なんだよシンイリから昇格するの嬉しくねーのか? シンイリ」
「やり直しです、これはダメです」
「そうだな、確かに譲渡したはずなのに両方同時に死んでるのはまた厄介な案件になるなら、これ上に書類通すと面倒なことになるぞ、そんなことやってる暇ないしなー」
「ジョウシ!」
「あれ? お前らまーだこの兄ちゃんひとりに構ってたのか」
「センパイ!」
「これ、お前どう思う?」
「俺なら関わりたくない案件、どっちが先に死んだかビデオ検証、書類提出、裁判まで持ってくし一年くらいかかるぞ」
「だよな、それはさすがに仕事も詰まってるしな」
「お願いします、助けてあげてください」
「まぁ、なんていうか、ここにいる全員が見なかったことにしたら無効にはなるわな」
「だな、そして約束の一ヶ月は過ぎてしまった」
「どうなるんですか? その場合」
「ん? 差し戻しってやつよ」
「つまりこの一ヶ月のシンイリの努力は無駄っていうこと」
「え? それって」
「あの日に時を戻すぞ」
「あ、はい、ありがとうございます」
「まぁ、でもここまでの仕事が全部チャラってのも可哀想な話だよな」
「んー、じゃあ」
「いいです! 全部チャラでいいんです」
「あ、ほんと? お前の役職シンイリから抜け出させてあげようと思っただけなんだけど」
「え? それはお願いします!」
「ふっ、現金なやつ。じゃあ次の司令を命ずる! 誰か目が合った人の命を貰ってこい! シンイ……じゃなくて、えっとお前の名前は……ミライ……だったな、確か、ミライ! 一ヶ月前に戻って今度は慎重に誰かの命を貰ってこい」
「はいっ!」
「どうせまた飛び込むやつ待つだけで長い時間かかりそうだな」
「あっそれと」
「きゃっ」
「うわ、なにやったの、こいつに」
「ミライの記憶を消した。兄ちゃんの記憶は消さない、兄ちゃんよく考えるんだ、目が覚めてお前はどう判断する?」