あれから3年の時が経った。
 俺と真希は一緒に住んでいる。

 毎日のように同じベッドで、くっつきながら眠っている。
 安心したように眠る幼さの残る彼女の寝顔を見つめるのが、俺の大好きな時間だ。

 彼女は俺にとって世界で一番大事な存在だ。

 俺はあの日札幌から帰宅してすぐに、結婚したい人がいることを両親に伝える為に実家に行った。
 俺の父と兄は、元々商社に勤務していた時の真希と面識があり最初から好印象を持っていたようだった。

 俺が将来的に子供を持つ予定はないことを伝えると、一瞬母は顔を顰めた。
 しかし、兄が「もう3人も孫がいるんだから良いだろ」と言うと「確かに」と笑いながら納得してくれた。

 真希はうちの両親との顔合わせをするのに緊張していたが、俺は問題ないと思っていた。
 彼女は人として非常に魅力がある人だからだ。
 予想通り、五十嵐一家はあっという間に真希に好意を持った。

 雨は1年程で社内管理システム『HARUTO』を上回るシステムを開発した。
 彼の開発したシステム『RAIN』は次々と『HARUTO』に置き換わり各社で導入され始めた。

 雨は、施設育ちの中卒の男の子が天才的な発明をしたと一躍時の人となった。
 歴史に残るとも言われた川上陽菜の存在は、システム開発者としては忘れられた。

 おそらく、自分が一番注目され続けたい彼女に対して一番の復讐を彼はした。
 そして、彼女は今、3人を殺害した罪で服役している。

 真希が化け物とまで称したように、川上陽菜は自己愛の塊のような化け物だった。
 彼女の言い分は常人では理解しがたい程、身勝手極まりなかった。
 彼女は極刑を恐れて、途中から精神異常者を装い出したが当然認められなかった。

 雨は起業ををし、札幌に本社を構え東京の仕事を真希に任せた。
 2人は毎日のようにオンライン通話をして仕事やプライベートの話をしている。

 俺は真希にはゆっくりして欲しかったのに、彼女は弟の期待に応えたいのか忙しくしていた。
 そして、雨は度々東京を訪れては彼女に甘えている。

 マリアは渋谷区に引っ越して沢田法子と正式にパートナーになった。
 彼女が親にレズビアンであることを打ち明けて、堂々とするようになったのは真希の影響だろう。

 原裕司は定期的に真希に近況を連絡してきていた。
 真希は既読スルーを続けているが、彼はめげていないようだ。

 彼女は彼の連絡によって、慕っていた彼の母親が平穏に暮らしていることに安堵していた。
 もちろん、彼は俺たちの結婚式には呼ばない。
 彼女も、結婚したら流石に元彼からの近況報告はシャットアウトするといっていたので一安心だ。

 そして、今日、俺と真希は結婚する。

 式の当日は午前中の雨が嘘のように上がり、空は雲一つない青空が広がっていた。

「真希ちゃん、すごい綺麗、本当におめでとう!」
 控え室で真希の前職の先輩が彼女にかけた言葉に、彼女が嬉しそうに笑っているのが見えた。

 いつも俺が心で「可愛い」を連発していることを感じ取って、彼女が自信を持ってくれたのなら嬉しい。

 式に来てくれた列席客の多くが、真希の幸せを願っていることに彼女は気づいているだろうか。

 俺は彼女は妬みや恨みといった暗い感情とは真逆の温かい感情も、他人にもたらすことができる女性だと思っている。
 俺は彼女に出会い初めて人を愛おしいと思い、一生守りたいと思えるまでの感情があることを知った。

 彼女の弟である雨が彼女の手を取り、バージンロードを歩いて俺の元まで彼女を連れてくる。
 雨が俺にこっそり小声で「姉ちゃんを宜しく」と囁いたのがわかった。

 目の前にきて向き合った彼女に太陽の光が降り注いでいて、まるで女神のようだと思った。

「汝、五十嵐聡は、この山田真希を妻とし、病める時も、健やかな時も、貧しい時も、豊かな時も、喜びあっても、悲しみあっても、死が2人を分つまで愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に、誓いますか?」

 神父がゆっくりと誓いの言葉を読み上げる。

「はい、誓います」

 俺を微笑みを浮かべながら見る真希の幸せそうな笑顔を見て、この笑顔をずっと守りたいと思った。

「汝、山田真希は、この五十嵐聡を夫とし、病める時も、健やかな時も、貧しい時も、豊かな時も、喜びあっても、悲しみあっても、死が2人を分つまで愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に、誓いますか?」

「はい、誓います」

 真希が俺との未来を誓ってくれたことに、俺は胸がいっぱいになった。

 誓いの口づけをする瞬間、俺は一瞬迷って彼女の頬にした。

 すると、彼女はにっこり笑って俺の唇に自分の唇を重ねてくる。
 一瞬何が起きたのかわからなかったが、周りからの祝福の拍手に我に返った。

 きっと、俺に気遣って彼女はまた無理をした。

 彼女に無理をさせたくないと思うのに、その気遣いが嬉しくて俺は彼女を誰より幸せにすることを改めて心に誓った。