「雨くんは、これからどうするの?」
「俺はシステム開発の仕事に就くつもり、『HARUTO』を超えるシステムを絶対開発してやるんだ」
私はその前向きな言葉を聞いて、嬉しくなった。
「雨くんならできるよ。私も早く仕事探さなきゃな」
「真希姉ちゃん、ちょっと肩の力を抜いてみて。真希姉ちゃんは存在するだけで、俺にとっては希望だったんだよ。存在を知った時、自分のことを大切に可愛がってくれる人がいたって感動した。ずっと心の拠り所だったんだ」
私の弟はその言葉が、どれだけ私にとって嬉しいかを知っているのだろうか。
私は祖父が亡くなった後は、自分が死んでも誰も悲しまないと思っていた。
「真希はいるだけで俺のことを幸せにしてくれてるのだから、俺の側にいるのを仕事にしてくれよ」
すかさず泣きたくなるくらい嬉しいことを、言ってくれる聡さんに私は胸がいっぱいになった。
(大切な人の側にいるだけ⋯⋯人には言えないけれど、ずっとやりたかった仕事だ⋯⋯)
「2人とも私を甘やかし過ぎかな。雨くん、寂しくなったらいつでも会いにきてね。私も会いに行くから」
私は溢れそうになる涙が落ちないように、少し上を向きながら雨くんに語りかけた。
「本当に? 絶対だよ。札幌って寒そうに見えて地下が発達してるし、美味しいお店もまだ沢山あるから。絶対に会いにきてね」
雨くんは私と似ているところがある。
彼も私と同じで自分に価値があるか不安なのだ。
私は雨くんに会いに行きたいと言っているのに、街の宣伝を始めてしまった。
これから姉として、彼がどれだけ素敵な子か伝えていってあげたい。
♢♢♢
私たちは雨くんと別れると、空港に向かうことにした。
「1泊くらい泊まって行かないのか? 札幌でも観光もしてないし」
「聡さん、さっきから沢山仕事の連絡きてますよね。流石に東京に戻った方が良いですよ。それに早くマリアさんにも会いたいです」
「真希がそういうなら、そうするか⋯⋯」
聡さんは観念してスマホで航空券の予約をし始めた。
「雪?」
10月なのに流石雪国といったところか、もう雪が降り始めている。
「真希、やっぱり雪だるま作ってから帰った方がいいんじゃないか?」
「聡さん、札幌の中心部はロードヒーティングが整備されてるからこれくらいじゃ雪だるまを作るほど積もりませんよ。また改めて一緒に雨くんに会いにきましょ」
本来なら平日で聡さんは仕事があるのに、2日間も突然仕事を休ませてしまった。
それに、雨くんがいるこの地を私は聡さんと何度も訪れたいと思っていた。
(だから、今は一旦お別れだね)
ふと自分のスマホを見ると、電源が入れられるようになっていて裕司から沢山連絡があるのに気づく。
「真希! 原さんなんてブロックしちゃえよ」
私のスマホを覗き込みながら、聡さんがヤキモチを焼いていた。
「既読スルーするに決まってるじゃないですか。ただ、裕司のお母さんには幸せになって欲しいから少し気になってもいたんです。それに⋯⋯」
私は裕司が私のことを全然忘れられず、いつまでも愛を語る連絡をしてきていることに自分の復讐心が満たされるのを感じていた。
私に囚われて他の女性が目に入らないという彼を無視し続けることで、苦しめてやろうと思った。
(私も意地悪ね⋯⋯川上陽菜に毒されたかしら)
「それにって、何? 気になるんだけど」
聡さんが本当に心配そうに私を見るので、彼を安心させようと思った。
「ヤキモチなんて焼く必要ありませんよ。私、今、聡さんとの未来を考えているところなんですから」
私の言葉に彼が嬉しそうに笑った。
羽田空港に着くと、マリアさんが女の人を連れて待っていた。
聡さんが、私がマリアさんに会いたいと言ったので呼んでくれたのだろう。
確かマリアさんといる女の人は、ラブホで別れ話をしていた人だ。
ショートカットで背が高い彼女が、マリアさんを愛おしそうに抱き寄せる。
「真希ちゃん! 実はヨリを戻したんだ」
マリアさんが照れたように、隣の女性に腕を絡めながら伝えてきた。
「沢田法子と申します。マリアから話は聞きました。彼女のこと見守ってくれてありがとうございます。離婚もしましたし、これからは私が彼女を支えたいと思います」
「マリア、俺たちも実は結婚することになったんだ。問題も解決したし、お互い幸せになろうな」
私はプロポーズの返事を保留にしたはずなのに、聡さんが結婚報告をしていて驚いてしまった。
「きゃー! ついに、聡の片想いが報われたのね。真希ちゃん、聡にうんと幸せにしてもらってね」
マリアさんが大袈裟なまでに喜ぶので私は思わず「はい」と返事をした。
「聡さん、私まだプロポーズを承諾してないですよね」
聡さんに小声で抗議をすると、彼はすっとボケた顔をした。
「俺との未来を考えてるって言ってくれたじゃん」
「まあ、そうですね。聡さんと家族になりたいって願望はありますよ」
私が言った言葉が余程嬉しかったのか、聡さんはそれから上機嫌だった。
「俺はシステム開発の仕事に就くつもり、『HARUTO』を超えるシステムを絶対開発してやるんだ」
私はその前向きな言葉を聞いて、嬉しくなった。
「雨くんならできるよ。私も早く仕事探さなきゃな」
「真希姉ちゃん、ちょっと肩の力を抜いてみて。真希姉ちゃんは存在するだけで、俺にとっては希望だったんだよ。存在を知った時、自分のことを大切に可愛がってくれる人がいたって感動した。ずっと心の拠り所だったんだ」
私の弟はその言葉が、どれだけ私にとって嬉しいかを知っているのだろうか。
私は祖父が亡くなった後は、自分が死んでも誰も悲しまないと思っていた。
「真希はいるだけで俺のことを幸せにしてくれてるのだから、俺の側にいるのを仕事にしてくれよ」
すかさず泣きたくなるくらい嬉しいことを、言ってくれる聡さんに私は胸がいっぱいになった。
(大切な人の側にいるだけ⋯⋯人には言えないけれど、ずっとやりたかった仕事だ⋯⋯)
「2人とも私を甘やかし過ぎかな。雨くん、寂しくなったらいつでも会いにきてね。私も会いに行くから」
私は溢れそうになる涙が落ちないように、少し上を向きながら雨くんに語りかけた。
「本当に? 絶対だよ。札幌って寒そうに見えて地下が発達してるし、美味しいお店もまだ沢山あるから。絶対に会いにきてね」
雨くんは私と似ているところがある。
彼も私と同じで自分に価値があるか不安なのだ。
私は雨くんに会いに行きたいと言っているのに、街の宣伝を始めてしまった。
これから姉として、彼がどれだけ素敵な子か伝えていってあげたい。
♢♢♢
私たちは雨くんと別れると、空港に向かうことにした。
「1泊くらい泊まって行かないのか? 札幌でも観光もしてないし」
「聡さん、さっきから沢山仕事の連絡きてますよね。流石に東京に戻った方が良いですよ。それに早くマリアさんにも会いたいです」
「真希がそういうなら、そうするか⋯⋯」
聡さんは観念してスマホで航空券の予約をし始めた。
「雪?」
10月なのに流石雪国といったところか、もう雪が降り始めている。
「真希、やっぱり雪だるま作ってから帰った方がいいんじゃないか?」
「聡さん、札幌の中心部はロードヒーティングが整備されてるからこれくらいじゃ雪だるまを作るほど積もりませんよ。また改めて一緒に雨くんに会いにきましょ」
本来なら平日で聡さんは仕事があるのに、2日間も突然仕事を休ませてしまった。
それに、雨くんがいるこの地を私は聡さんと何度も訪れたいと思っていた。
(だから、今は一旦お別れだね)
ふと自分のスマホを見ると、電源が入れられるようになっていて裕司から沢山連絡があるのに気づく。
「真希! 原さんなんてブロックしちゃえよ」
私のスマホを覗き込みながら、聡さんがヤキモチを焼いていた。
「既読スルーするに決まってるじゃないですか。ただ、裕司のお母さんには幸せになって欲しいから少し気になってもいたんです。それに⋯⋯」
私は裕司が私のことを全然忘れられず、いつまでも愛を語る連絡をしてきていることに自分の復讐心が満たされるのを感じていた。
私に囚われて他の女性が目に入らないという彼を無視し続けることで、苦しめてやろうと思った。
(私も意地悪ね⋯⋯川上陽菜に毒されたかしら)
「それにって、何? 気になるんだけど」
聡さんが本当に心配そうに私を見るので、彼を安心させようと思った。
「ヤキモチなんて焼く必要ありませんよ。私、今、聡さんとの未来を考えているところなんですから」
私の言葉に彼が嬉しそうに笑った。
羽田空港に着くと、マリアさんが女の人を連れて待っていた。
聡さんが、私がマリアさんに会いたいと言ったので呼んでくれたのだろう。
確かマリアさんといる女の人は、ラブホで別れ話をしていた人だ。
ショートカットで背が高い彼女が、マリアさんを愛おしそうに抱き寄せる。
「真希ちゃん! 実はヨリを戻したんだ」
マリアさんが照れたように、隣の女性に腕を絡めながら伝えてきた。
「沢田法子と申します。マリアから話は聞きました。彼女のこと見守ってくれてありがとうございます。離婚もしましたし、これからは私が彼女を支えたいと思います」
「マリア、俺たちも実は結婚することになったんだ。問題も解決したし、お互い幸せになろうな」
私はプロポーズの返事を保留にしたはずなのに、聡さんが結婚報告をしていて驚いてしまった。
「きゃー! ついに、聡の片想いが報われたのね。真希ちゃん、聡にうんと幸せにしてもらってね」
マリアさんが大袈裟なまでに喜ぶので私は思わず「はい」と返事をした。
「聡さん、私まだプロポーズを承諾してないですよね」
聡さんに小声で抗議をすると、彼はすっとボケた顔をした。
「俺との未来を考えてるって言ってくれたじゃん」
「まあ、そうですね。聡さんと家族になりたいって願望はありますよ」
私が言った言葉が余程嬉しかったのか、聡さんはそれから上機嫌だった。