俺、原裕司は大好きだった、山田真希とお別れすることになった。
別れてから毎日のように自分の衝動でした浮気を後悔している。
(真希以上の女なんて、一生現れない⋯⋯)
俺は意を決して、2度と会いたくないと言われた彼女に連絡をした。
彼女の唯一の肉親である父親が亡くなったことで、彼女が落ち込んでないか心配だった。
五十嵐聡も真希に気があるようだったが、俺と別れてすぐに彼女が彼に靡くとは思えない。
俺との別れや父親を亡くしたことで、身も心もずたずたになっているところに寄り添えば復縁できるかもと期待した。
俺は待ち合わせのカフェに30分も前に着いた。
そこに座っているだけで、向かいの席で楽しそうに笑っていた真希を思い出した。
(あの笑顔をもう一度見たい、もう絶対浮気なんかしないと彼女に誓おう!)
「真希!」
カフェの入り口に真希が現れる。
俺が手を挙げると、真希が近づいてきた。
思ったよりも彼女が憔悴していなくて安心した。
真希も約束の5分前に到着している。
彼女のこういう律儀なところも好きだ。
幸せな気分に浸っていると、真希の後ろから目をひく美男子が現れた。
(五十嵐聡! なんで、いる⋯⋯まさか、落ち込んでいる真希に漬け込んで付き合い始めたんじゃ)
「裕司、お待たせ」
「待ってないよ。それより、五十嵐さんは今日は何用でしょうか?」
ただの『別れさせ屋』じゃなくて、彼はうちの会社の大口取引先の御曹司だ。
はっきり言って邪魔で追い返したいのに、失礼な言動をする訳にいかない。
「元恋人との接し方を真希が教えてくれるっていうんで来ました。現在の彼氏として!」
柔らかに微笑みかけてくる美男子の彼に一瞬キュンとしてしまった。
(いや、そうじゃないだろ。俺!)
「私たち付き合ってたんですか?」
俺の疑問を真希が彼に投げかけてくれる。
「一緒に住んでるじゃないか。真希は、俺に毎日弁当も作ってくれているんですよ。こんな素敵な彼女がいて幸せです」
彼は明らかに俺に喧嘩を売っているが、立場的にその喧嘩は買えない。
浮気相手に子供ができても、別れたくない程、真希は俺のことを好きだったはずだ。
俺が真希の方を伺い見ると、真希が俺をゴミを見るような冷めた目で見ていた。
そんな初めて見るような彼女の目を見て、俺は心臓が凍りついた。
(彼女はもう俺のことなんとも思ってないどころか⋯⋯)
俺はその目を見てられなくて、慌てて目を逸らし札幌の事件の話に話題を転換した。
「ススキノの飲食店で起きたあの事件なんだけど、あの店の開店は19時からなんだ。事件の起こったのは開店前の17時45分。その時間、店の店主もいなくて、真希のお父さんを含めた亡くなった3人だけが店にいたんだって」
「そうなんだ。出火の原因は爆発だって聞いたけど、爆発物は見つかったの?」
真希は父親が亡くなったというのに、淡々としていた。
「ガスが充満しているところに、タバコの火でもつけたんじゃと言われているけど⋯⋯真希のお父さんはタバコ吸う?」
「喫煙者だけど、異臭に気が付かない人じゃない。用心深いから、異臭がした時にタバコに火をつけるなんてミスはしないわ」
俺は真希が前に父親が病的に細かい性格で、母親を苦しめていた話を聞いたのを思い出した。
(細かいって匂いとかにも敏感ってことか、そういえば真希も敏感な子だよな⋯⋯)
真希はおおらかで明るく振る舞っているけれど、驚くほど繊細な一面を持った子だ。
だからこそ、人の気持ちに寄り添うことができるのだと付き合っている内に分かってきた。
そんな繊細な彼女に自分がどれだけ酷いことをして、傷つけたかは分かっている。
でも、人生一度きりで、今後彼女以上の女性が自分に現れないと思っているから縋るしかない。
「真希、肉親がいなくなって寂しいよな。あのさ、俺も今、家族がバラバラでキツイ状態なんだ。真希に五十嵐さんがもういるっていうのは分かっているけど、俺のとこに戻ってきて欲しい。俺には真希しかいないんだ」
俺はなりふり構わず、真希に思いの丈を伝えた。
彼女は優しい子で、俺の母親のことを慕っていた。
だから、俺の家族の現状を伝えれば戻ってきてくれる気がした。
「家族がバラバラってどう言うこと? お母様は?」
「実は俺の浮気のことで、父の浮気を思い出して許せなくなっちゃったみたいで出てっちゃったんだ」
「出てっちゃったんだ⋯⋯じゃないでしょ。どうして追いかけないの? お母様は裕司の為にずっと我慢してあの家にいたんだよ」
「確かに、子供の為に不倫を許したようなことを言っていたような⋯⋯」
「許したなんて本当に言った? 裕司は人の話ちゃんと聞いてる?」
真希がこれ以上なく怒っていて、俺は思わず首を振った。
「お腹にいる裕司には円満な家庭を与えてあげたいって、当時中学生だったお兄様とお母様で我慢する選択をしたんだよ」
俺はここにきて初めて、兄がなぜ長男にも関わらず家を継がないでアメリカに移住する選択をしたかを知った。
俺の家族は俺だけが父親の不倫を知らず、偽りの円満家庭を演じていたということだ。
「真希、でも、母さんは父さんのように浮気をした俺のことを汚いって言ったんだ。もう、俺とは会いたくないんじゃないかな」
「私も裕司とは会いたくなかったよ。裕司の知っている事件の情報は、現地の人に聞かなくても分かる情報だったし⋯⋯」
真希は事件の話をネタに復縁を迫ろうと俺が呼び出した意図に気がついたようだった。
「裕司のこと全く思ってない私よりも、会いに行くべき人がいるんじゃない? 裕司のこと誰より大切に思ってて、30年もあなたの為に我慢してきたお母様に会いに行くべきでしょ」
真希の言っていることは正しい。
そして、あれだけのことをした俺に対して真剣に向き合ってくれる彼女を改めて好きだと思った。
彼女のことを愛しくてたまらなくなり、俺は縋るような視線を彼女に送った。
3ヶ月前までは俺の隣で幸せそうに笑っていた彼女だ。
そもそも、真希が後輩のために合コンに参加するように言わなければ美奈子と会わずに済んだ。
真希が結婚までお預けにしなければ、俺だって酔っても浮気しなかった。
本当はED(イーディー)じゃないから、お預けにされて辛くて仕方がなかったことを言えば真希も分かってくれるだろうか。
俺は真希を失ったら一生後悔する。
たった、1度の失敗でそんなことあってなるものか。
「原さん。もういいですか? これから、真希とデートなんです」
俺の想いをぶった斬るような冷ややかな彼女の今の彼氏の声がした
「あ、はい。真希、あの、改めてごめんな。あと⋯⋯」
俺が想いを告げようとすると、五十嵐聡がお会計を持って真希の手首を掴み出口の方に向かった。
俺はそんな彼について行って、俺の方を振り返りもしない真希の後ろ姿が消えるまでずっと見ていた。
別れてから毎日のように自分の衝動でした浮気を後悔している。
(真希以上の女なんて、一生現れない⋯⋯)
俺は意を決して、2度と会いたくないと言われた彼女に連絡をした。
彼女の唯一の肉親である父親が亡くなったことで、彼女が落ち込んでないか心配だった。
五十嵐聡も真希に気があるようだったが、俺と別れてすぐに彼女が彼に靡くとは思えない。
俺との別れや父親を亡くしたことで、身も心もずたずたになっているところに寄り添えば復縁できるかもと期待した。
俺は待ち合わせのカフェに30分も前に着いた。
そこに座っているだけで、向かいの席で楽しそうに笑っていた真希を思い出した。
(あの笑顔をもう一度見たい、もう絶対浮気なんかしないと彼女に誓おう!)
「真希!」
カフェの入り口に真希が現れる。
俺が手を挙げると、真希が近づいてきた。
思ったよりも彼女が憔悴していなくて安心した。
真希も約束の5分前に到着している。
彼女のこういう律儀なところも好きだ。
幸せな気分に浸っていると、真希の後ろから目をひく美男子が現れた。
(五十嵐聡! なんで、いる⋯⋯まさか、落ち込んでいる真希に漬け込んで付き合い始めたんじゃ)
「裕司、お待たせ」
「待ってないよ。それより、五十嵐さんは今日は何用でしょうか?」
ただの『別れさせ屋』じゃなくて、彼はうちの会社の大口取引先の御曹司だ。
はっきり言って邪魔で追い返したいのに、失礼な言動をする訳にいかない。
「元恋人との接し方を真希が教えてくれるっていうんで来ました。現在の彼氏として!」
柔らかに微笑みかけてくる美男子の彼に一瞬キュンとしてしまった。
(いや、そうじゃないだろ。俺!)
「私たち付き合ってたんですか?」
俺の疑問を真希が彼に投げかけてくれる。
「一緒に住んでるじゃないか。真希は、俺に毎日弁当も作ってくれているんですよ。こんな素敵な彼女がいて幸せです」
彼は明らかに俺に喧嘩を売っているが、立場的にその喧嘩は買えない。
浮気相手に子供ができても、別れたくない程、真希は俺のことを好きだったはずだ。
俺が真希の方を伺い見ると、真希が俺をゴミを見るような冷めた目で見ていた。
そんな初めて見るような彼女の目を見て、俺は心臓が凍りついた。
(彼女はもう俺のことなんとも思ってないどころか⋯⋯)
俺はその目を見てられなくて、慌てて目を逸らし札幌の事件の話に話題を転換した。
「ススキノの飲食店で起きたあの事件なんだけど、あの店の開店は19時からなんだ。事件の起こったのは開店前の17時45分。その時間、店の店主もいなくて、真希のお父さんを含めた亡くなった3人だけが店にいたんだって」
「そうなんだ。出火の原因は爆発だって聞いたけど、爆発物は見つかったの?」
真希は父親が亡くなったというのに、淡々としていた。
「ガスが充満しているところに、タバコの火でもつけたんじゃと言われているけど⋯⋯真希のお父さんはタバコ吸う?」
「喫煙者だけど、異臭に気が付かない人じゃない。用心深いから、異臭がした時にタバコに火をつけるなんてミスはしないわ」
俺は真希が前に父親が病的に細かい性格で、母親を苦しめていた話を聞いたのを思い出した。
(細かいって匂いとかにも敏感ってことか、そういえば真希も敏感な子だよな⋯⋯)
真希はおおらかで明るく振る舞っているけれど、驚くほど繊細な一面を持った子だ。
だからこそ、人の気持ちに寄り添うことができるのだと付き合っている内に分かってきた。
そんな繊細な彼女に自分がどれだけ酷いことをして、傷つけたかは分かっている。
でも、人生一度きりで、今後彼女以上の女性が自分に現れないと思っているから縋るしかない。
「真希、肉親がいなくなって寂しいよな。あのさ、俺も今、家族がバラバラでキツイ状態なんだ。真希に五十嵐さんがもういるっていうのは分かっているけど、俺のとこに戻ってきて欲しい。俺には真希しかいないんだ」
俺はなりふり構わず、真希に思いの丈を伝えた。
彼女は優しい子で、俺の母親のことを慕っていた。
だから、俺の家族の現状を伝えれば戻ってきてくれる気がした。
「家族がバラバラってどう言うこと? お母様は?」
「実は俺の浮気のことで、父の浮気を思い出して許せなくなっちゃったみたいで出てっちゃったんだ」
「出てっちゃったんだ⋯⋯じゃないでしょ。どうして追いかけないの? お母様は裕司の為にずっと我慢してあの家にいたんだよ」
「確かに、子供の為に不倫を許したようなことを言っていたような⋯⋯」
「許したなんて本当に言った? 裕司は人の話ちゃんと聞いてる?」
真希がこれ以上なく怒っていて、俺は思わず首を振った。
「お腹にいる裕司には円満な家庭を与えてあげたいって、当時中学生だったお兄様とお母様で我慢する選択をしたんだよ」
俺はここにきて初めて、兄がなぜ長男にも関わらず家を継がないでアメリカに移住する選択をしたかを知った。
俺の家族は俺だけが父親の不倫を知らず、偽りの円満家庭を演じていたということだ。
「真希、でも、母さんは父さんのように浮気をした俺のことを汚いって言ったんだ。もう、俺とは会いたくないんじゃないかな」
「私も裕司とは会いたくなかったよ。裕司の知っている事件の情報は、現地の人に聞かなくても分かる情報だったし⋯⋯」
真希は事件の話をネタに復縁を迫ろうと俺が呼び出した意図に気がついたようだった。
「裕司のこと全く思ってない私よりも、会いに行くべき人がいるんじゃない? 裕司のこと誰より大切に思ってて、30年もあなたの為に我慢してきたお母様に会いに行くべきでしょ」
真希の言っていることは正しい。
そして、あれだけのことをした俺に対して真剣に向き合ってくれる彼女を改めて好きだと思った。
彼女のことを愛しくてたまらなくなり、俺は縋るような視線を彼女に送った。
3ヶ月前までは俺の隣で幸せそうに笑っていた彼女だ。
そもそも、真希が後輩のために合コンに参加するように言わなければ美奈子と会わずに済んだ。
真希が結婚までお預けにしなければ、俺だって酔っても浮気しなかった。
本当はED(イーディー)じゃないから、お預けにされて辛くて仕方がなかったことを言えば真希も分かってくれるだろうか。
俺は真希を失ったら一生後悔する。
たった、1度の失敗でそんなことあってなるものか。
「原さん。もういいですか? これから、真希とデートなんです」
俺の想いをぶった斬るような冷ややかな彼女の今の彼氏の声がした
「あ、はい。真希、あの、改めてごめんな。あと⋯⋯」
俺が想いを告げようとすると、五十嵐聡がお会計を持って真希の手首を掴み出口の方に向かった。
俺はそんな彼について行って、俺の方を振り返りもしない真希の後ろ姿が消えるまでずっと見ていた。