「サニーとは何ですか? 話してくれたら、私も手助けできるかもしれません」
私は初めて出てきたサニーという謎のニックネームに反応した。
しかし、この件に雨くんが関わって居る以上、私はサニーに心当たりがあった。
「マリア、大丈夫か? 話せないなら、話さなくても⋯⋯」
私を好きだと言いながら、マリアさんを気遣う聡さんにモヤモヤする。
これは恋心ではなく、私の愚かな独占欲だ。
「私のせいなの⋯⋯サニーの脅しに屈し続けたのは⋯⋯サニーから私の秘密を暴露するって脅し続けられてて」
「秘密? 秘密って何ですか?」
「その、それはね⋯⋯」
言い淀んでいるマリアさんを心配そうに見つめている聡さんに無性に腹が立つ。
「では、私の秘密を先にお話ししますね。私はアセクシャルです。異性も同性も好きではありません」
私の言葉に聡さんもマリアさんも目を白黒させている。
「でも、それなら原裕司は⋯⋯」
聡さんの言葉にやはり彼は私を理解せず、昨日キスをしようとしてきたのだと思った。
彼は私が裕司にあれ程こだわったのは、彼を愛していたからだと勘違いしているのだ。
「原さんの家庭が魅力的で家族になりたかったんです。キス以上は後回しにしましたが、キスは吐きそうになりながらも我慢して受け入れました」
2人とも自分の顔を一度見て欲しいくらい、硬直していた。
(やっぱり、私は異常なんだ⋯⋯)
私は、これで聡さんが気まぐれのような私への気持ちをなくす気がした。
それが寂しく感じてしまうのは、あの夜の温もりのせいだ。
「真希、ごめん。昨日、俺がキスしようとしたの嫌だったよな。俺が本当に悪かった。衝動を抑えられなくて⋯⋯」
聡さんが戸惑いながら、私に微かに触れるくらいに手を伸ばしてくる。
まさか謝られるとは思ってもなかった。
私の面倒さに引いてしまい距離を取られると思っていた。
「私を抱きしめて眠ってくれた夜は気持ちよかったです。朝、聡さんがいなくなってて寂しかったけど⋯⋯」
無意識に私は彼の気持ちに寄り添うような、自分の本音を言っていた。
「えっ? 気持ちよかったって、本当に? 今度は真希が目覚めるまで抱きしめるから⋯⋯今日も一緒に帰ろうな」
私は少し赤くなっている聡さんを一瞥すると深く頷いた。
彼の気持ちは気まぐれかもしれないが、私を人として大事にしてくれているのが分かる。
女として見られるのは嫌なのに、私は彼のその気持ちを手放したくない。
「ふふ、なんか2人の微笑ましい感じを見ていたら、私の秘密がどうってことないことに感じてきちゃった」
マリアさんがおどけた顔をした。
私は聡さんが伸ばしてきた手を、ぎゅっと握り返した。
女として見られたくないのに、大切にされたい。
家族が欲しいのに、子供ができるようなことはしたくない。
聡さんは、倒錯しまくって自分でも手放したくなる私を気遣ってくれる存在だ。
モテまくっている彼が一時的に毛色の違う私に気を取られているだけかもしれない。
でも、生きる糧であった復讐の対象の父を失い、今、空虚な私には彼の温もりが必要だった。
「私、レズビアンなの。その証拠をサニーに撮られちゃって。その映像を晒されたくなければ、『別れさせ屋』をやって300の成功例と成功報酬の5割を献上するように言われたの。そのトラブルに巻き込まれた時、聡に相談して巻き込んじゃった」
聡さんが弁護士なのに、その案件に対応できなかったということはサニーの正体が分からなかったからだろう。
そして、サニーの恐ろしい有能さを感じ取って危険を感じたからだ。
でも、2人ともどこまでもお坊ちゃんとお嬢ちゃんだ。
犯人の言う通りにすれば解放されると思っている。
犯人の言う通りにすれば解放されるのではなく言うことを聞く駒だと認識され、より搾取されるだけだ。
「サニーの正体は、川上陽菜だと仮定させてください。雨くんを仲間に入れるようにサニーから指示されましたか?」
私の言葉に2人は驚いたような表情になった。
私は、この相手の弱みを握り追い詰める方法が川上陽菜の十八番だと知っている。
彼女は私の母親を似たような方法で虐めて楽しんでいた。
女優のように美しく著名なシステムの開発者でもある彼女は、常に自分が1番チヤホヤされていないと嫌な人間だった。
そして、あらゆる面で少しでも自分の劣等感を刺激した人間を攻撃した。
おそらく、川上陽菜は施設から出た雨くんに接触した。
彼女が自分から母親だと言うことを名乗らなくても、雨くんなら自分で彼女の正体に辿り着くだろう。
きっと、初めて現れた身内の存在に彼女を慕いそうだ。
「施設から出て、やることもなく困っている子がいるから使うように言われたの⋯⋯雨はルックスも良いし成功例を一番あげてくれたわ」
今、思えば女好きの漆原俊哉を若く美しいマリアさんが落とせなかった理由が分かった。
彼女は元々男性が苦手だからハニートラップをしようとしても難しいのだろう。
『別れさせ屋』はあえて彼女が嫌がることをさせてやろうという底意地の悪い提案だ。
雨くんは、おそらくマリアさんが言われた通りのことをやっているか確認するための連絡係だ。
マリアさんが聡さんに助けを求めたことは川上陽菜にとっては想定外だったはずだ。
しかし、弁護士資格を持つ彼なら法律の間をすり抜けるように業務を遂行させることができるから放っておいたのだろう。
「レズビアンは女性が好きということですよね。私からすれば、誰かを愛せる羨ましい存在です。レズビアンの証拠映像って恥ずかしいものですか? マリアさんが恥ずかしいのならば、私が対策しますが証拠映像は今どこにあるのでしょうか?」
私はマリアさんがレズビアンを後ろめたく思っていることが気になった。
私が彼女の過去を調べた時に、彼女には昔、誘拐されてイタズラされた疑惑があった。
おそらくその時のトラウマで男の人がダメになってしまったのだろう。
きっと、彼女は毎日何度もその時の記憶に苦しんでいる。
今までマリアさんのことを巨乳の空気の読めないお嬢様と思っていたのが申し訳なくなる。
しかし、レズビアンは最近ではパートナシップも認められたりするし恥ずかしいことなのだろうか。
(問題はマリアさん自身が後ろめたい性癖だと思っていることだ⋯⋯)
「サニーに、先輩とラブホテルに行った時の映像を送られて。言うことを聞かなきゃ晒すって言われたの⋯⋯」
「ラブホテルで何をしていたのですか? 最初からマリアさんをターゲットにしたとは考えられません。ただ、漠然と人を揺するネタを探して室内を盗撮していたのでしょう」
マリアさんと川上陽菜には接点がない。
そしてラブホテルに入る映像では揺するには弱いネタだ。
おそらく室内の隠し撮り映像で揺すっていて、マリアさんがラブホテルを使用用途とは違う方法で使ったから目に留まったのだろう。
ネットにいくらでも転がっているエロ動画のようなことをしていたのなら、スルーされていたはずだ。
(殺人? 薬の取引? 一体何をしていたの?)
私は初めて出てきたサニーという謎のニックネームに反応した。
しかし、この件に雨くんが関わって居る以上、私はサニーに心当たりがあった。
「マリア、大丈夫か? 話せないなら、話さなくても⋯⋯」
私を好きだと言いながら、マリアさんを気遣う聡さんにモヤモヤする。
これは恋心ではなく、私の愚かな独占欲だ。
「私のせいなの⋯⋯サニーの脅しに屈し続けたのは⋯⋯サニーから私の秘密を暴露するって脅し続けられてて」
「秘密? 秘密って何ですか?」
「その、それはね⋯⋯」
言い淀んでいるマリアさんを心配そうに見つめている聡さんに無性に腹が立つ。
「では、私の秘密を先にお話ししますね。私はアセクシャルです。異性も同性も好きではありません」
私の言葉に聡さんもマリアさんも目を白黒させている。
「でも、それなら原裕司は⋯⋯」
聡さんの言葉にやはり彼は私を理解せず、昨日キスをしようとしてきたのだと思った。
彼は私が裕司にあれ程こだわったのは、彼を愛していたからだと勘違いしているのだ。
「原さんの家庭が魅力的で家族になりたかったんです。キス以上は後回しにしましたが、キスは吐きそうになりながらも我慢して受け入れました」
2人とも自分の顔を一度見て欲しいくらい、硬直していた。
(やっぱり、私は異常なんだ⋯⋯)
私は、これで聡さんが気まぐれのような私への気持ちをなくす気がした。
それが寂しく感じてしまうのは、あの夜の温もりのせいだ。
「真希、ごめん。昨日、俺がキスしようとしたの嫌だったよな。俺が本当に悪かった。衝動を抑えられなくて⋯⋯」
聡さんが戸惑いながら、私に微かに触れるくらいに手を伸ばしてくる。
まさか謝られるとは思ってもなかった。
私の面倒さに引いてしまい距離を取られると思っていた。
「私を抱きしめて眠ってくれた夜は気持ちよかったです。朝、聡さんがいなくなってて寂しかったけど⋯⋯」
無意識に私は彼の気持ちに寄り添うような、自分の本音を言っていた。
「えっ? 気持ちよかったって、本当に? 今度は真希が目覚めるまで抱きしめるから⋯⋯今日も一緒に帰ろうな」
私は少し赤くなっている聡さんを一瞥すると深く頷いた。
彼の気持ちは気まぐれかもしれないが、私を人として大事にしてくれているのが分かる。
女として見られるのは嫌なのに、私は彼のその気持ちを手放したくない。
「ふふ、なんか2人の微笑ましい感じを見ていたら、私の秘密がどうってことないことに感じてきちゃった」
マリアさんがおどけた顔をした。
私は聡さんが伸ばしてきた手を、ぎゅっと握り返した。
女として見られたくないのに、大切にされたい。
家族が欲しいのに、子供ができるようなことはしたくない。
聡さんは、倒錯しまくって自分でも手放したくなる私を気遣ってくれる存在だ。
モテまくっている彼が一時的に毛色の違う私に気を取られているだけかもしれない。
でも、生きる糧であった復讐の対象の父を失い、今、空虚な私には彼の温もりが必要だった。
「私、レズビアンなの。その証拠をサニーに撮られちゃって。その映像を晒されたくなければ、『別れさせ屋』をやって300の成功例と成功報酬の5割を献上するように言われたの。そのトラブルに巻き込まれた時、聡に相談して巻き込んじゃった」
聡さんが弁護士なのに、その案件に対応できなかったということはサニーの正体が分からなかったからだろう。
そして、サニーの恐ろしい有能さを感じ取って危険を感じたからだ。
でも、2人ともどこまでもお坊ちゃんとお嬢ちゃんだ。
犯人の言う通りにすれば解放されると思っている。
犯人の言う通りにすれば解放されるのではなく言うことを聞く駒だと認識され、より搾取されるだけだ。
「サニーの正体は、川上陽菜だと仮定させてください。雨くんを仲間に入れるようにサニーから指示されましたか?」
私の言葉に2人は驚いたような表情になった。
私は、この相手の弱みを握り追い詰める方法が川上陽菜の十八番だと知っている。
彼女は私の母親を似たような方法で虐めて楽しんでいた。
女優のように美しく著名なシステムの開発者でもある彼女は、常に自分が1番チヤホヤされていないと嫌な人間だった。
そして、あらゆる面で少しでも自分の劣等感を刺激した人間を攻撃した。
おそらく、川上陽菜は施設から出た雨くんに接触した。
彼女が自分から母親だと言うことを名乗らなくても、雨くんなら自分で彼女の正体に辿り着くだろう。
きっと、初めて現れた身内の存在に彼女を慕いそうだ。
「施設から出て、やることもなく困っている子がいるから使うように言われたの⋯⋯雨はルックスも良いし成功例を一番あげてくれたわ」
今、思えば女好きの漆原俊哉を若く美しいマリアさんが落とせなかった理由が分かった。
彼女は元々男性が苦手だからハニートラップをしようとしても難しいのだろう。
『別れさせ屋』はあえて彼女が嫌がることをさせてやろうという底意地の悪い提案だ。
雨くんは、おそらくマリアさんが言われた通りのことをやっているか確認するための連絡係だ。
マリアさんが聡さんに助けを求めたことは川上陽菜にとっては想定外だったはずだ。
しかし、弁護士資格を持つ彼なら法律の間をすり抜けるように業務を遂行させることができるから放っておいたのだろう。
「レズビアンは女性が好きということですよね。私からすれば、誰かを愛せる羨ましい存在です。レズビアンの証拠映像って恥ずかしいものですか? マリアさんが恥ずかしいのならば、私が対策しますが証拠映像は今どこにあるのでしょうか?」
私はマリアさんがレズビアンを後ろめたく思っていることが気になった。
私が彼女の過去を調べた時に、彼女には昔、誘拐されてイタズラされた疑惑があった。
おそらくその時のトラウマで男の人がダメになってしまったのだろう。
きっと、彼女は毎日何度もその時の記憶に苦しんでいる。
今までマリアさんのことを巨乳の空気の読めないお嬢様と思っていたのが申し訳なくなる。
しかし、レズビアンは最近ではパートナシップも認められたりするし恥ずかしいことなのだろうか。
(問題はマリアさん自身が後ろめたい性癖だと思っていることだ⋯⋯)
「サニーに、先輩とラブホテルに行った時の映像を送られて。言うことを聞かなきゃ晒すって言われたの⋯⋯」
「ラブホテルで何をしていたのですか? 最初からマリアさんをターゲットにしたとは考えられません。ただ、漠然と人を揺するネタを探して室内を盗撮していたのでしょう」
マリアさんと川上陽菜には接点がない。
そしてラブホテルに入る映像では揺するには弱いネタだ。
おそらく室内の隠し撮り映像で揺すっていて、マリアさんがラブホテルを使用用途とは違う方法で使ったから目に留まったのだろう。
ネットにいくらでも転がっているエロ動画のようなことをしていたのなら、スルーされていたはずだ。
(殺人? 薬の取引? 一体何をしていたの?)