事務所に戻ると、マリアさんが接客中だった。
マリアさんは、男性が苦手なのだろうか。
目の前の子は無害そうな純朴そうなメガネをかけた20歳くらいの男の子。
純朴そうな男相手に、彼女の体は一歩引いている。
「こんな気持ちになったのは、初めてなんです。南さんの話を聞く限り、旦那さんはモラハラな上に浮気もしているって⋯⋯旦那さんと南さんを別れさせてあげてください」
興奮気味に客である若い男の子が訴えていた。
彼は自分の好きになった人に離婚して欲しいようだ。
「皆本智也くん、20歳。君の好きな人はどんな人か教えてくれる? どんなところが好きなの?」
年下の彼と距離を詰めるために、あえてタメ口で話しかける。
私は彼の書いた依頼書を見ながら、マリアさんの隣に座り彼の話を聞くことにした。
マリアさんが私が来るなり、安心しているのがわかる。
彼女の色気あるグラマラスな体型と美しさに騙されていた。
(マリアさん、男が苦手だ!)
聡さんの事は怖がっていなかったから、気が付かなかった。
男性が苦手な彼女が『別れさせ屋』でハニートラップがちゃんとかけられるのだろうか。
壁際で立ったまま聡さんが複雑そうに私を見つめていた。
彼は立って居るだけで育ちの良さがわかってしまう、佇まいをしている。
聡さんやマリアさんのような生まれながらの富裕層が『別れさせ屋』をやっているのもおかしい。
「関口南さんで、年は僕より10歳くらい上なんです。今、僕と一緒にコールセンターで働いていて。儚い系の美人と言いますか⋯⋯苦しんでいる彼女を救ってあげたいんです」
書類を見ると皆本智也くんは、大学3年生で子供向け教育出版社のコールセンターで週5日アルバイトをしているようだ。
「コールセンターのバイトを選んだのは時給が良いから? あなたの好きな南さんはどれくらい勤務に入っているの?」
「週3回の4時間で勤務です。旦那さんがあまり構ってくれないらしく、社会との繋がりが欲しくてバイトをはじめたと言ってました」
私は主婦、関口南の人物像がつかめてきた。
おそらく彼女の夫はそれなりに稼ぎがあり、彼女は専業主婦をしようと思えばできる。
(優雅なものね。それで、大学生の男の子に家庭の愚痴をこぼして弄んでる⋯⋯)
「コールセンターのバイトは発信業務よね。恋なんてしないで、真面目にやったら良いと思うけど。上り詰めたら親会社から声が掛かるかもよ。そろそろ、就職活動でしょ」
「マジっすか? 大学Fランなんで、就活なんて始まる前から諦めていたんですけど⋯⋯」 彼は就職のルートが普通にエントリーシートを書いて面接を通過するだけのものだと思っているようだ。
「企業は仕事ができる人間が欲しいに決まっているでしょ。皆が適当にやっている仕事ほど必死にやってみれば、結果が出やすいのよ」
実際に私は大学時代コールセンターのアルバイトをしていて、何度も表彰され親会社からお声がかかった。
コールセンターは時間の自由も効くからか、何となくでやっている人が多い。
でも、何となくでやってはもったいない仕事だ。
結果は数値化され、上に伝わる。
イッツアスモールワールド。
世界は狭く、突出した結果を出せば、あちらから寄ってきてくれる。
「はあ、でも、断られてばかりで結果が出なくて凹むんですけどね」
「断られたら、その断ってきた理由を分析するの。分析材料をくれてありがとうぐらいに考えて」
皆本くんは就職活動に不安を覚えていた子なのか、急に私の話をよく聞くようになった。
「関口南は諦めた方が良いわ。既婚者よ! 不倫したいなら、慰謝料は払う覚悟はあるの?」
「いえ、でも旦那さんとセックスレスで苦しいって僕に打ち明けてくれたんです。たまに手作りお弁当とかもくれたりして、向こうも僕のこと好きなのかなって」
私は関口南という人物を、相当なビッチ女だと認定した。
おそらく、彼女は専業主婦に毛が生えたような仕事しかしないで済む生活を手放すつもりはない。
旦那と離婚する気は無いくせに、チョロそうな男子学生にちょっかいを出し自分の女としての欲求を満たそうとしている。
(人の心を弄ぶのに快楽を感じる女⋯⋯)
「セックスレスだから、私とセックスしてとでも言われた?」
「そ、そんなこと言うはずないじゃ無いですか」
皆本くんは顔を真っ赤にして否定し、隣にいるマリアさんはむせていた。
セックスレスの話が本当なら、関口南がしたい相手は旦那さんだ。
でも、セックスレス話も旦那のモラハラ話も私にはどこか嘘に聞こえる。
本当に悩んでいる時に、こんな何の答えも出せないような幼い男に相談するはずがない。
彼女は話すことで、皆本くんの反応を楽しんでいるだけだ。
(私が捻くれているから、こんな考えしかできないのかしら⋯⋯)
「ここのコールセンターは随時募集しているみたいだから、私もしばしお世話になろうかしら。それとお弁当はこれから私が作ってあげるから南さんからのは断りなさい」
その気まぐれに提供される手作り弁当というのも気になった。
マリアさんは、男性が苦手なのだろうか。
目の前の子は無害そうな純朴そうなメガネをかけた20歳くらいの男の子。
純朴そうな男相手に、彼女の体は一歩引いている。
「こんな気持ちになったのは、初めてなんです。南さんの話を聞く限り、旦那さんはモラハラな上に浮気もしているって⋯⋯旦那さんと南さんを別れさせてあげてください」
興奮気味に客である若い男の子が訴えていた。
彼は自分の好きになった人に離婚して欲しいようだ。
「皆本智也くん、20歳。君の好きな人はどんな人か教えてくれる? どんなところが好きなの?」
年下の彼と距離を詰めるために、あえてタメ口で話しかける。
私は彼の書いた依頼書を見ながら、マリアさんの隣に座り彼の話を聞くことにした。
マリアさんが私が来るなり、安心しているのがわかる。
彼女の色気あるグラマラスな体型と美しさに騙されていた。
(マリアさん、男が苦手だ!)
聡さんの事は怖がっていなかったから、気が付かなかった。
男性が苦手な彼女が『別れさせ屋』でハニートラップがちゃんとかけられるのだろうか。
壁際で立ったまま聡さんが複雑そうに私を見つめていた。
彼は立って居るだけで育ちの良さがわかってしまう、佇まいをしている。
聡さんやマリアさんのような生まれながらの富裕層が『別れさせ屋』をやっているのもおかしい。
「関口南さんで、年は僕より10歳くらい上なんです。今、僕と一緒にコールセンターで働いていて。儚い系の美人と言いますか⋯⋯苦しんでいる彼女を救ってあげたいんです」
書類を見ると皆本智也くんは、大学3年生で子供向け教育出版社のコールセンターで週5日アルバイトをしているようだ。
「コールセンターのバイトを選んだのは時給が良いから? あなたの好きな南さんはどれくらい勤務に入っているの?」
「週3回の4時間で勤務です。旦那さんがあまり構ってくれないらしく、社会との繋がりが欲しくてバイトをはじめたと言ってました」
私は主婦、関口南の人物像がつかめてきた。
おそらく彼女の夫はそれなりに稼ぎがあり、彼女は専業主婦をしようと思えばできる。
(優雅なものね。それで、大学生の男の子に家庭の愚痴をこぼして弄んでる⋯⋯)
「コールセンターのバイトは発信業務よね。恋なんてしないで、真面目にやったら良いと思うけど。上り詰めたら親会社から声が掛かるかもよ。そろそろ、就職活動でしょ」
「マジっすか? 大学Fランなんで、就活なんて始まる前から諦めていたんですけど⋯⋯」 彼は就職のルートが普通にエントリーシートを書いて面接を通過するだけのものだと思っているようだ。
「企業は仕事ができる人間が欲しいに決まっているでしょ。皆が適当にやっている仕事ほど必死にやってみれば、結果が出やすいのよ」
実際に私は大学時代コールセンターのアルバイトをしていて、何度も表彰され親会社からお声がかかった。
コールセンターは時間の自由も効くからか、何となくでやっている人が多い。
でも、何となくでやってはもったいない仕事だ。
結果は数値化され、上に伝わる。
イッツアスモールワールド。
世界は狭く、突出した結果を出せば、あちらから寄ってきてくれる。
「はあ、でも、断られてばかりで結果が出なくて凹むんですけどね」
「断られたら、その断ってきた理由を分析するの。分析材料をくれてありがとうぐらいに考えて」
皆本くんは就職活動に不安を覚えていた子なのか、急に私の話をよく聞くようになった。
「関口南は諦めた方が良いわ。既婚者よ! 不倫したいなら、慰謝料は払う覚悟はあるの?」
「いえ、でも旦那さんとセックスレスで苦しいって僕に打ち明けてくれたんです。たまに手作りお弁当とかもくれたりして、向こうも僕のこと好きなのかなって」
私は関口南という人物を、相当なビッチ女だと認定した。
おそらく、彼女は専業主婦に毛が生えたような仕事しかしないで済む生活を手放すつもりはない。
旦那と離婚する気は無いくせに、チョロそうな男子学生にちょっかいを出し自分の女としての欲求を満たそうとしている。
(人の心を弄ぶのに快楽を感じる女⋯⋯)
「セックスレスだから、私とセックスしてとでも言われた?」
「そ、そんなこと言うはずないじゃ無いですか」
皆本くんは顔を真っ赤にして否定し、隣にいるマリアさんはむせていた。
セックスレスの話が本当なら、関口南がしたい相手は旦那さんだ。
でも、セックスレス話も旦那のモラハラ話も私にはどこか嘘に聞こえる。
本当に悩んでいる時に、こんな何の答えも出せないような幼い男に相談するはずがない。
彼女は話すことで、皆本くんの反応を楽しんでいるだけだ。
(私が捻くれているから、こんな考えしかできないのかしら⋯⋯)
「ここのコールセンターは随時募集しているみたいだから、私もしばしお世話になろうかしら。それとお弁当はこれから私が作ってあげるから南さんからのは断りなさい」
その気まぐれに提供される手作り弁当というのも気になった。