「真希に謝ろうと思ってたんだ。真希が襲われそうになっていて、気弱になっているところに漬け込むように告白したこと⋯⋯」
私は聡さんの言葉を聞いて、彼が盛大に勘違いしていることに気がついた。
聡さんは本当に絵画のように美しい男性だ。
中身も私が会ったことくらい素敵な人で、優しくて側にいられれば幸せだと思う。
それでも、昨日のように強く女として求められると一緒にいるのは到底無理だ。
「聡さん。昨日の状況を盛大に勘違いなさっているみたいなので、流石に訂正したいです。とりあえず事務所に行きませんか?」
私の言葉に聡さんは、戸惑った表情をしつつも頷いた。
私は彼を育ちも性格も良い完璧な人だと思っていた。
でも、女が弱っているところに漬け込んで告白するくらいの強かさは持っていたらしい。
(私は弱ってもなかったから、そこも見当違いだけど⋯⋯)
「歩きながら訂正事項を話しますね。昨日、私は雨くんに襲われそうになんていないですよ」
「えっ? でも服を破かれていたよな?」
確かに側から見れば、押し倒されて服を破かれていたら襲われそうになっていると思うのだろう。
しかし、あの時私の気持ちは驚くほど静かだった。
雨くんも、やっていることの割に落ち着いた表情をしていたと記憶している。
「あれは、どうしても雨くんが私の体に傷があるのを見つけたかっただけです⋯⋯」
私と雨くんの歪んだ考え方など、育ちの良い聡さんには理解し難いだろう。
「真希は、綺麗な体してたよ。あっ、違うんだ。変な意味じゃなくて⋯⋯」
聡さんは、私が綺麗とか可愛いという言葉に傷つくことに気がついている。
だから、私の地雷を踏まないように会話をしているのが丸わかりだ。
そこまで気を遣い続ける面倒な相手を好きだといい、一緒にいたがる彼は不思議な人だ。
「そうですか⋯⋯彼は私の父の不倫相手の子です。そして、もしかしたら私の腹違いの弟かもしれません」
「はあ? 何それ。不倫相手の女って川上陽菜の子? それより弟?」
聡さんの驚きようを見ると、彼は雨くんを施設出身の子としか知らなかったようだ。
そして、私にロミオトラップをかける時に、父の不倫相手の名前まで調べているとは思った以上に研究熱心だ。
「昨日、ゲットした髪の毛で私との姉弟関係がないかDNA鑑定中です。1週間後には結果が出るでしょう。雨くんは今どちらにいますか?」
「それが、今、どこにいるか分からないんだ⋯⋯」
彼は行くところがない。
行けるとしたら、昨日なぜか家まで連れてきていた槇原さんのところだろう。
「9割くらいの確率で、槇原美奈子さんのところでしょうね」
あの日に彼女とは家に呼ぶくらいに仲良くなっていたから、おそらく雨くん的にも転がり込みやすい。
そして、槇原さんの緩さ的にも彼を受け入れそうだ。
「あの、昨日うちに来ていた子? 何で雨はあんな子を家に呼んだんだろうな」
「自分と同じような寂しそうな雰囲気を感じ取ったからだと思います」
私もそうだが、雨くんも本当は1人でいたくない子だ。
1人でいると、闇に引き摺り込まれ消えたくなる。
槇原さんもそういう人間特有のアンバランスさを感じた。
彼が彼女といるのは、気も使わないし楽だろう。
「槇原さんは、以前に事務所に来たので住所も分かりますよ。でも、雨くんと暮らすのはリスクが高いです。情報を全部抜かれると思います。家にハッカーを飼っているようなものです」
昨日、なぜ聡さんと雨くんが同居に至ったかは教えて貰えなかった。
しかし、雨くんはおそらくネット系の天才だ。
天才、川上陽菜と、彼女をアシストした私の父の血を引いたサラブレットの可能性がある。
私は父に似てネット系が最初から得意だった。
私でさえ簡単なハッキングくらいならできるから、雨くんが独学で優秀なハッカーになっていても驚かない。
「雨と一緒に住んでいたのは、ある人から依頼されたからなんだ⋯⋯周りに聞かれたくないことだから、事務所で話そう」
やっと、聡さんが秘密を打ち明けようとしてくれている。
彼が私と真剣に向き合おうとしているのが分かる。
そして、私の予想通りなら中々告白しづらい事実が隠れていることも予測できる。
「盗聴器が仕掛けられているかもしれないので、発見器を購入してから行きましょう。それから、雨くんの使っていたパソコンを見せてください」
「盗聴器って雨が仕掛けたって思っているのか? あのワンコが、何のために⋯⋯」
聡さんは、雨くんを見たままの無邪気な明るい子だと思っている。
今なら、雨くんの明るさは自分の暗い感情を隠す演技だとわかる。
(私が自分を明るくおおらかに見せているのと同じだ)
「聡さんには、私のことはどう見えてますか? 雨くんみたいに、明るくおおらかな子?」
私が尋ねた言葉に聡さんが複雑そうな顔をする。
(やっぱりバレてる⋯⋯暗くて、陰湿な私の性格⋯⋯)
「真希は繊細で傷つきやすくて、それでも強く生きようとする守りたくて仕方がない子⋯⋯」
聡さんが私から目を逸らしながら言った言葉は、知って欲しくて誰にもバレたくなかった私だった。
私は聡さんの言葉を聞いて、彼が盛大に勘違いしていることに気がついた。
聡さんは本当に絵画のように美しい男性だ。
中身も私が会ったことくらい素敵な人で、優しくて側にいられれば幸せだと思う。
それでも、昨日のように強く女として求められると一緒にいるのは到底無理だ。
「聡さん。昨日の状況を盛大に勘違いなさっているみたいなので、流石に訂正したいです。とりあえず事務所に行きませんか?」
私の言葉に聡さんは、戸惑った表情をしつつも頷いた。
私は彼を育ちも性格も良い完璧な人だと思っていた。
でも、女が弱っているところに漬け込んで告白するくらいの強かさは持っていたらしい。
(私は弱ってもなかったから、そこも見当違いだけど⋯⋯)
「歩きながら訂正事項を話しますね。昨日、私は雨くんに襲われそうになんていないですよ」
「えっ? でも服を破かれていたよな?」
確かに側から見れば、押し倒されて服を破かれていたら襲われそうになっていると思うのだろう。
しかし、あの時私の気持ちは驚くほど静かだった。
雨くんも、やっていることの割に落ち着いた表情をしていたと記憶している。
「あれは、どうしても雨くんが私の体に傷があるのを見つけたかっただけです⋯⋯」
私と雨くんの歪んだ考え方など、育ちの良い聡さんには理解し難いだろう。
「真希は、綺麗な体してたよ。あっ、違うんだ。変な意味じゃなくて⋯⋯」
聡さんは、私が綺麗とか可愛いという言葉に傷つくことに気がついている。
だから、私の地雷を踏まないように会話をしているのが丸わかりだ。
そこまで気を遣い続ける面倒な相手を好きだといい、一緒にいたがる彼は不思議な人だ。
「そうですか⋯⋯彼は私の父の不倫相手の子です。そして、もしかしたら私の腹違いの弟かもしれません」
「はあ? 何それ。不倫相手の女って川上陽菜の子? それより弟?」
聡さんの驚きようを見ると、彼は雨くんを施設出身の子としか知らなかったようだ。
そして、私にロミオトラップをかける時に、父の不倫相手の名前まで調べているとは思った以上に研究熱心だ。
「昨日、ゲットした髪の毛で私との姉弟関係がないかDNA鑑定中です。1週間後には結果が出るでしょう。雨くんは今どちらにいますか?」
「それが、今、どこにいるか分からないんだ⋯⋯」
彼は行くところがない。
行けるとしたら、昨日なぜか家まで連れてきていた槇原さんのところだろう。
「9割くらいの確率で、槇原美奈子さんのところでしょうね」
あの日に彼女とは家に呼ぶくらいに仲良くなっていたから、おそらく雨くん的にも転がり込みやすい。
そして、槇原さんの緩さ的にも彼を受け入れそうだ。
「あの、昨日うちに来ていた子? 何で雨はあんな子を家に呼んだんだろうな」
「自分と同じような寂しそうな雰囲気を感じ取ったからだと思います」
私もそうだが、雨くんも本当は1人でいたくない子だ。
1人でいると、闇に引き摺り込まれ消えたくなる。
槇原さんもそういう人間特有のアンバランスさを感じた。
彼が彼女といるのは、気も使わないし楽だろう。
「槇原さんは、以前に事務所に来たので住所も分かりますよ。でも、雨くんと暮らすのはリスクが高いです。情報を全部抜かれると思います。家にハッカーを飼っているようなものです」
昨日、なぜ聡さんと雨くんが同居に至ったかは教えて貰えなかった。
しかし、雨くんはおそらくネット系の天才だ。
天才、川上陽菜と、彼女をアシストした私の父の血を引いたサラブレットの可能性がある。
私は父に似てネット系が最初から得意だった。
私でさえ簡単なハッキングくらいならできるから、雨くんが独学で優秀なハッカーになっていても驚かない。
「雨と一緒に住んでいたのは、ある人から依頼されたからなんだ⋯⋯周りに聞かれたくないことだから、事務所で話そう」
やっと、聡さんが秘密を打ち明けようとしてくれている。
彼が私と真剣に向き合おうとしているのが分かる。
そして、私の予想通りなら中々告白しづらい事実が隠れていることも予測できる。
「盗聴器が仕掛けられているかもしれないので、発見器を購入してから行きましょう。それから、雨くんの使っていたパソコンを見せてください」
「盗聴器って雨が仕掛けたって思っているのか? あのワンコが、何のために⋯⋯」
聡さんは、雨くんを見たままの無邪気な明るい子だと思っている。
今なら、雨くんの明るさは自分の暗い感情を隠す演技だとわかる。
(私が自分を明るくおおらかに見せているのと同じだ)
「聡さんには、私のことはどう見えてますか? 雨くんみたいに、明るくおおらかな子?」
私が尋ねた言葉に聡さんが複雑そうな顔をする。
(やっぱりバレてる⋯⋯暗くて、陰湿な私の性格⋯⋯)
「真希は繊細で傷つきやすくて、それでも強く生きようとする守りたくて仕方がない子⋯⋯」
聡さんが私から目を逸らしながら言った言葉は、知って欲しくて誰にもバレたくなかった私だった。