「お前! 何やってるんだよ!」
突然にノックもなく扉を開けてきた聡さんが、雨くんを思いっきりグーで殴った。
雨くんは殴られると、恨むような目で聡さんを一瞥して部屋を出た。
「真希、真希、真希! 大丈夫か? 怖かったよな」
私を心配そうに掻き抱く、聡さんは今の状況を理解していないようだ。
「雨くんと、聡さんは恋仲ではなかったんですね⋯⋯」
私は大きな勘違いをしていたようだ。
聡さんと雨くんが恋仲ならば、聡さんは私を責めて雨くんを追いかけたはずだ。
「俺が好きなのは、大切なのは真希だけだ」
愛おしそうに私を見つめる聡さんに、恐怖を抱くのは私だけなんだろうか。
普通ならときめくはずの場面で、彼が私を女として見ていることが怖くなる。
(嫌だ、そんな目で見ないで⋯⋯)
聡さんは、私の頬を撫でると口づけをしようとしてきた。
誰もが好きになりそうなハイスペックで見惚れるほどに美しい彼。
普通の女の子なら、ときめいてハッピーエンドになりそうな場面だ。
「やめて! やめてよ! 気持ち悪い」
私は聡さんが、女として私を本気で想ってくれていることに気がついて耐えられなかった。
咄嗟に出た言葉にも自分でも驚いた。
でも、そんな目で私を見る人と一緒にはいられない。
裕司ともキスまではした。
それさえも私には精一杯だった。
それさえ我慢すれば、家族ができると信じていたからできたことだった。
「気持ち悪い」という思わず出た言葉に自分も驚いた。
私は聡さんのことが嫌いではなく、人としては好きだ。
彼を傷つけたくはないのに、今、私は確実に彼を傷つけた。
彼は私の言葉に傷ついていないように見せようと、困ったように少し微笑んでいる。
ひどい言葉を言ったことを謝りたいけれど、好かれているのなら期待を持たせて迫られるのが怖い。
私は聡さんに好かれようと行動したことは一度もない。
むしろ、彼を遠ざけるような言動を心がけていたはずだ。
彼は、何もかも持っているのに女の趣味だけは悪く生まれてしまったようだ。
「聡さんは、何で雨くんと暮らしてたんですか?」
私は謝罪の言葉を飲み込んで、最大の疑問を尋ねた。
彼のようなセレブが恋仲でもない雨くんと一緒に暮らしていたのには理由があるはずだ。
「それは、言えないかな。それよりも俺は真希が好きだ。俺の気持ちは、そんなに迷惑で気持ち悪いものなのか?」
聡さんは私の聞いた質問には答えないのに、自分の気持ちには答えて欲しいと請う。
彼はイケメンで社会的地位もあり、女性に拒否されたことないのだろう。
でも、私は自分が普通の女じゃないことを知っている。
私は、異性として見られると気分が悪くなる。
それでも、人としては気にかけて大切に思って欲しいと願っている。
そんな普通じゃない女に惚れた可哀想な彼に同情しても、救ってあげようとは思わない。
「迷惑だって今まで気がつきませんでしたか? 自意識過剰も大概にした方が良いですよ。それと、自分は質問に答えないのに他人には要求するのは図々しいです」
私は聡さんが自分に気持ちがあることに気がついて、彼と離れたいと思った。
彼もきっと私の十八番にかかっただけの男だ。
得意の可哀想な演技をしなくても、彼から見たら私は婚約破棄され定職にもついてない可哀想な女だ。
私は自分の可哀想な立場で、気を引くことを十八番としていた。
そんなことしなくても、私を好きになってくれる人がいれば良いけど全く自信がなかった。
親さえも、捨てた命が私だ。
「俺は別に真希から好かれたいとは思わない。俺が真希が好きだからそれで良いんだ⋯⋯」
聡さんの言葉が最上の愛情表現ではなく、自己満足に聞こえるのは私が病んでいるせいだ。
そう分かっていても、私を女として自分を見てくる彼に戸惑いと拒否感があった。
「勝手ですね。全ての女があなたを好きだと思ってるんですか? 残念ですが、全ての女に入りたくても入れないゴミのような人間がいるんです。さようなら」
私は聡さんから預かっていた部屋の鍵を置き立ち去った。
その日は近くのビジネスホテルに泊まった。
私は雨くんと自分の姉弟関係を調べるDNA鑑定をすることにした。
調べるまでもないと自分でも思うほど、雨くんには血の繋がりを感じた。
父は気になると確認しなきゃ気が済まない病的な性質を持っていた。
それは仕事でバグなど探す時には役に立ったかもしれない。
でも、彼は母の全てを管理し支配しないと気が済まなかった。
その執着は愛情ではなく支配欲を持って行使された。
私も裕司が何をして、誰とどのような会話をしたのかを調べ尽くした。
その病的な衝動と探究心は父の血筋を感じた。
そして、雨くんもそれを受け継いでいると感じた。
彼は私を知っていて、私の体に自分と同じような虐待跡があるかを確認したくて我慢できなかったのだ。
そして、私はそういう病的な性格が人から疎まれると知っている。
だから表面上はおおらかな性格に見せていた。
雨くんもおそらく私と同じだ。
雨くんが私の腹違いの弟だったら、何が変わる訳でもない。
でも、私は雨くんが自分の本当の身元を知っているなら、彼の母親の川上陽菜に辿り着いていると思っていた。
そして、父と晴香ちゃんと川上武彦を殺害したのは川上陽菜だと私は考えている。
彼らが死んだのは爆発による火災だ。
そして、天才である川上陽菜ならそれを遠隔だろうと起こせると私は睨んでいた。
突然にノックもなく扉を開けてきた聡さんが、雨くんを思いっきりグーで殴った。
雨くんは殴られると、恨むような目で聡さんを一瞥して部屋を出た。
「真希、真希、真希! 大丈夫か? 怖かったよな」
私を心配そうに掻き抱く、聡さんは今の状況を理解していないようだ。
「雨くんと、聡さんは恋仲ではなかったんですね⋯⋯」
私は大きな勘違いをしていたようだ。
聡さんと雨くんが恋仲ならば、聡さんは私を責めて雨くんを追いかけたはずだ。
「俺が好きなのは、大切なのは真希だけだ」
愛おしそうに私を見つめる聡さんに、恐怖を抱くのは私だけなんだろうか。
普通ならときめくはずの場面で、彼が私を女として見ていることが怖くなる。
(嫌だ、そんな目で見ないで⋯⋯)
聡さんは、私の頬を撫でると口づけをしようとしてきた。
誰もが好きになりそうなハイスペックで見惚れるほどに美しい彼。
普通の女の子なら、ときめいてハッピーエンドになりそうな場面だ。
「やめて! やめてよ! 気持ち悪い」
私は聡さんが、女として私を本気で想ってくれていることに気がついて耐えられなかった。
咄嗟に出た言葉にも自分でも驚いた。
でも、そんな目で私を見る人と一緒にはいられない。
裕司ともキスまではした。
それさえも私には精一杯だった。
それさえ我慢すれば、家族ができると信じていたからできたことだった。
「気持ち悪い」という思わず出た言葉に自分も驚いた。
私は聡さんのことが嫌いではなく、人としては好きだ。
彼を傷つけたくはないのに、今、私は確実に彼を傷つけた。
彼は私の言葉に傷ついていないように見せようと、困ったように少し微笑んでいる。
ひどい言葉を言ったことを謝りたいけれど、好かれているのなら期待を持たせて迫られるのが怖い。
私は聡さんに好かれようと行動したことは一度もない。
むしろ、彼を遠ざけるような言動を心がけていたはずだ。
彼は、何もかも持っているのに女の趣味だけは悪く生まれてしまったようだ。
「聡さんは、何で雨くんと暮らしてたんですか?」
私は謝罪の言葉を飲み込んで、最大の疑問を尋ねた。
彼のようなセレブが恋仲でもない雨くんと一緒に暮らしていたのには理由があるはずだ。
「それは、言えないかな。それよりも俺は真希が好きだ。俺の気持ちは、そんなに迷惑で気持ち悪いものなのか?」
聡さんは私の聞いた質問には答えないのに、自分の気持ちには答えて欲しいと請う。
彼はイケメンで社会的地位もあり、女性に拒否されたことないのだろう。
でも、私は自分が普通の女じゃないことを知っている。
私は、異性として見られると気分が悪くなる。
それでも、人としては気にかけて大切に思って欲しいと願っている。
そんな普通じゃない女に惚れた可哀想な彼に同情しても、救ってあげようとは思わない。
「迷惑だって今まで気がつきませんでしたか? 自意識過剰も大概にした方が良いですよ。それと、自分は質問に答えないのに他人には要求するのは図々しいです」
私は聡さんが自分に気持ちがあることに気がついて、彼と離れたいと思った。
彼もきっと私の十八番にかかっただけの男だ。
得意の可哀想な演技をしなくても、彼から見たら私は婚約破棄され定職にもついてない可哀想な女だ。
私は自分の可哀想な立場で、気を引くことを十八番としていた。
そんなことしなくても、私を好きになってくれる人がいれば良いけど全く自信がなかった。
親さえも、捨てた命が私だ。
「俺は別に真希から好かれたいとは思わない。俺が真希が好きだからそれで良いんだ⋯⋯」
聡さんの言葉が最上の愛情表現ではなく、自己満足に聞こえるのは私が病んでいるせいだ。
そう分かっていても、私を女として自分を見てくる彼に戸惑いと拒否感があった。
「勝手ですね。全ての女があなたを好きだと思ってるんですか? 残念ですが、全ての女に入りたくても入れないゴミのような人間がいるんです。さようなら」
私は聡さんから預かっていた部屋の鍵を置き立ち去った。
その日は近くのビジネスホテルに泊まった。
私は雨くんと自分の姉弟関係を調べるDNA鑑定をすることにした。
調べるまでもないと自分でも思うほど、雨くんには血の繋がりを感じた。
父は気になると確認しなきゃ気が済まない病的な性質を持っていた。
それは仕事でバグなど探す時には役に立ったかもしれない。
でも、彼は母の全てを管理し支配しないと気が済まなかった。
その執着は愛情ではなく支配欲を持って行使された。
私も裕司が何をして、誰とどのような会話をしたのかを調べ尽くした。
その病的な衝動と探究心は父の血筋を感じた。
そして、雨くんもそれを受け継いでいると感じた。
彼は私を知っていて、私の体に自分と同じような虐待跡があるかを確認したくて我慢できなかったのだ。
そして、私はそういう病的な性格が人から疎まれると知っている。
だから表面上はおおらかな性格に見せていた。
雨くんもおそらく私と同じだ。
雨くんが私の腹違いの弟だったら、何が変わる訳でもない。
でも、私は雨くんが自分の本当の身元を知っているなら、彼の母親の川上陽菜に辿り着いていると思っていた。
そして、父と晴香ちゃんと川上武彦を殺害したのは川上陽菜だと私は考えている。
彼らが死んだのは爆発による火災だ。
そして、天才である川上陽菜ならそれを遠隔だろうと起こせると私は睨んでいた。