聡さんのマンションに戻ると思いもよらない人が、雨くんと寛いでいた。
「槇原美奈子さん、なんで、ここに⋯⋯」
「真希さーん、私の為にストーカー佐々木を地獄に堕としてくれたんですか? まじ感無量です」
薬学部1年生、風俗嬢でもある槇原美奈子は私に思いっきり抱きついてきた。
雨くんが彼女を部屋に招き入れたのだろうが、この部屋は聡さんのものなのに自由過ぎる。
「本当、佐々木氏やばいことになってますな」
楽しそうに言って見せてくる雨くんのパソコンの画面には複数の画面が立ち上がっている。
雨くんは中卒で勉強嫌いと聞いていたが、パソコンには慣れてそうだ。
ネット上では悪質な『月の光こども園』在籍の不倫保育士の鈴木佳奈のお相手として佐々木英樹の名前が出てしまっていた。
佐々木英樹は過去にも風俗嬢へストーカー行為をしていたらしく、それらの悪事が晒されていた。
(佐々木夫人も流石に彼を見放しそうね⋯⋯)
「真希さんの隣にいる方は、真希さんの彼氏さんですか?」
「違いますよ。『別れさせ屋』の所長さんです」
私はすかさず否定した。
私は今後も聡さんと、彼氏と彼女の関係になる予定はない。
「弁護士さんなんですか? お名前は何というんですか? 私、色々相談したいことがあるんですがピロートークでも良いんで聞いて頂けませんか?」
槇原美奈子は聡さんの弁護士バッチをめざとく見つけ、彼に擦り寄った。
聡さんはそっと私に視線を寄越した。
槇原さんが私の知り合いなら、彼女を引き剥がせとでも言いたいのだろうか。
私は聡さんが私にどうして欲しいのか分からなくて、ただ彼を見つめ返すしかなかった。
「美奈子ちゃん。迷惑がっているからね。気づこうぜ」
彼女を自然に聡さんから引き剥がした雨くんの言動は正解だったのだろう。
聡さんがホッとしたような顔をした。
「いやあ、真希さんのアドバイス通り看護師の道を目指そうと思ったら、医師と結婚する未来が見えてきたんですよ。そんな未来が見えたら薬学部の彼氏は風俗に行くような男だし、色褪せて見えて別れちゃいました。でも、弁護士の彼氏もいいなあ何て思ったりもしちゃったんですが迷惑でしたか?」
槇原さんが上目遣いで聡さんに迫っている。
(ああ、これが普通の女の子なのか⋯⋯)
私が普通の女の子の感情を持っていたら、聡さんにときめいて恋ができてたかもしれない。
しかし、私の心臓は聡さんのような極上の男を目の前にしてもぴくりともしない。
そのことが私の異常性を示しているようで、余計に疎外感を感じた。
「迷惑かな。俺は好きな子だけに好かれたいタイプだから」
聡さんが再び私に視線を送ってきて、私は思わずため息をついてしまった。
「まあ、真希さんはマジ良い女ですよね。賢くて、美人で可愛くて勝てませんよ」
褒めてくれているはずの槇原さんの言葉は私に刃のように刺さった。
この間も今日も私はメイクで武装していて、本当の私は定職にもついてないブスだ。
「それよか、今日はこども園のニュースよりヤバイニュースがあったんだよ」
その時、楽しそうに雨くんが見せてきた動画に私は言葉を失った。
「⋯⋯今日、札幌市の飲食店て火事がありました。この火事で死亡したのは、守屋健斗(47)、守屋晴香(23)、川上武彦(53)⋯⋯」
動画に映し出されるテロップの名前を見ていたが、だんだん目の前が暗くなってきた。
私の父親と雨くんの姉と父親の名前だ。
私の調査では雨くんの母親は私の父親と別れた後、福岡に渡った。
そこで、雨くんの父親である川上武彦と元鞘に戻ったはずだ。
雨くんの母親は福岡市の中洲で夜職についた。
私は彼女に対して、いつまでも女でいたい人なんだと感じていた。
彼女はシステム開発では特異なスキルを持っているのに勿体無いと思ったものだ。
(福岡にいるはずの川上武彦が、何で札幌に? みんな死んだの? 偶然? 事故? 殺された?)
気が付くと手に温かみを感じた。
私の手を聡さんがギュッと握りしめてくれている。
父親が死んだことで動揺したと思われているだろうか。
私は今、何の復讐もできない上に再会も叶わず父親と死別したことに動揺している。
「守屋って名字おんなじだけど、この2人って親子? 流石に夫婦じゃないよね」
槇原さんが正直すぎる感想を言っていて、私はそれが皆が感じる自然な感想なのだと感じた。
私は保育園時代友達だった5歳の晴香ちゃんを思い出して、吐き気までしてきている。
「槇原さんだっけ、今日はもう遅いから帰りな」
聡さんが槇原さんに帰宅を促すと、槇原さんは不満そうに帰って行った。
「もしかしたら、守屋さんは夫婦かもよ。だとしたら、本当にキモいよな。おっさんって、若い女好きだしなー」
爆笑しながら動画を見る雨くんに、私は世界が滲んだ。
私だって父は憎いが、殺してやりたいと思っても人が死んだと思えば笑えない。
雨くんは自分の身内が死んだことを知らないから、笑えるのだろうか。
(やっぱりおかしい、人が死んだのに楽しそうに笑うのはおかしい。雨くんは変だ)
私も普通とは違う感覚を持っている変な人間だと自認している。
でも、雨くんも普通じゃない。
私は彼の事が少し怖くなった。
私は私の手に重なった岩崎さんの手の温もりに意識を集中して落ち着こうと思った。
「槇原美奈子さん、なんで、ここに⋯⋯」
「真希さーん、私の為にストーカー佐々木を地獄に堕としてくれたんですか? まじ感無量です」
薬学部1年生、風俗嬢でもある槇原美奈子は私に思いっきり抱きついてきた。
雨くんが彼女を部屋に招き入れたのだろうが、この部屋は聡さんのものなのに自由過ぎる。
「本当、佐々木氏やばいことになってますな」
楽しそうに言って見せてくる雨くんのパソコンの画面には複数の画面が立ち上がっている。
雨くんは中卒で勉強嫌いと聞いていたが、パソコンには慣れてそうだ。
ネット上では悪質な『月の光こども園』在籍の不倫保育士の鈴木佳奈のお相手として佐々木英樹の名前が出てしまっていた。
佐々木英樹は過去にも風俗嬢へストーカー行為をしていたらしく、それらの悪事が晒されていた。
(佐々木夫人も流石に彼を見放しそうね⋯⋯)
「真希さんの隣にいる方は、真希さんの彼氏さんですか?」
「違いますよ。『別れさせ屋』の所長さんです」
私はすかさず否定した。
私は今後も聡さんと、彼氏と彼女の関係になる予定はない。
「弁護士さんなんですか? お名前は何というんですか? 私、色々相談したいことがあるんですがピロートークでも良いんで聞いて頂けませんか?」
槇原美奈子は聡さんの弁護士バッチをめざとく見つけ、彼に擦り寄った。
聡さんはそっと私に視線を寄越した。
槇原さんが私の知り合いなら、彼女を引き剥がせとでも言いたいのだろうか。
私は聡さんが私にどうして欲しいのか分からなくて、ただ彼を見つめ返すしかなかった。
「美奈子ちゃん。迷惑がっているからね。気づこうぜ」
彼女を自然に聡さんから引き剥がした雨くんの言動は正解だったのだろう。
聡さんがホッとしたような顔をした。
「いやあ、真希さんのアドバイス通り看護師の道を目指そうと思ったら、医師と結婚する未来が見えてきたんですよ。そんな未来が見えたら薬学部の彼氏は風俗に行くような男だし、色褪せて見えて別れちゃいました。でも、弁護士の彼氏もいいなあ何て思ったりもしちゃったんですが迷惑でしたか?」
槇原さんが上目遣いで聡さんに迫っている。
(ああ、これが普通の女の子なのか⋯⋯)
私が普通の女の子の感情を持っていたら、聡さんにときめいて恋ができてたかもしれない。
しかし、私の心臓は聡さんのような極上の男を目の前にしてもぴくりともしない。
そのことが私の異常性を示しているようで、余計に疎外感を感じた。
「迷惑かな。俺は好きな子だけに好かれたいタイプだから」
聡さんが再び私に視線を送ってきて、私は思わずため息をついてしまった。
「まあ、真希さんはマジ良い女ですよね。賢くて、美人で可愛くて勝てませんよ」
褒めてくれているはずの槇原さんの言葉は私に刃のように刺さった。
この間も今日も私はメイクで武装していて、本当の私は定職にもついてないブスだ。
「それよか、今日はこども園のニュースよりヤバイニュースがあったんだよ」
その時、楽しそうに雨くんが見せてきた動画に私は言葉を失った。
「⋯⋯今日、札幌市の飲食店て火事がありました。この火事で死亡したのは、守屋健斗(47)、守屋晴香(23)、川上武彦(53)⋯⋯」
動画に映し出されるテロップの名前を見ていたが、だんだん目の前が暗くなってきた。
私の父親と雨くんの姉と父親の名前だ。
私の調査では雨くんの母親は私の父親と別れた後、福岡に渡った。
そこで、雨くんの父親である川上武彦と元鞘に戻ったはずだ。
雨くんの母親は福岡市の中洲で夜職についた。
私は彼女に対して、いつまでも女でいたい人なんだと感じていた。
彼女はシステム開発では特異なスキルを持っているのに勿体無いと思ったものだ。
(福岡にいるはずの川上武彦が、何で札幌に? みんな死んだの? 偶然? 事故? 殺された?)
気が付くと手に温かみを感じた。
私の手を聡さんがギュッと握りしめてくれている。
父親が死んだことで動揺したと思われているだろうか。
私は今、何の復讐もできない上に再会も叶わず父親と死別したことに動揺している。
「守屋って名字おんなじだけど、この2人って親子? 流石に夫婦じゃないよね」
槇原さんが正直すぎる感想を言っていて、私はそれが皆が感じる自然な感想なのだと感じた。
私は保育園時代友達だった5歳の晴香ちゃんを思い出して、吐き気までしてきている。
「槇原さんだっけ、今日はもう遅いから帰りな」
聡さんが槇原さんに帰宅を促すと、槇原さんは不満そうに帰って行った。
「もしかしたら、守屋さんは夫婦かもよ。だとしたら、本当にキモいよな。おっさんって、若い女好きだしなー」
爆笑しながら動画を見る雨くんに、私は世界が滲んだ。
私だって父は憎いが、殺してやりたいと思っても人が死んだと思えば笑えない。
雨くんは自分の身内が死んだことを知らないから、笑えるのだろうか。
(やっぱりおかしい、人が死んだのに楽しそうに笑うのはおかしい。雨くんは変だ)
私も普通とは違う感覚を持っている変な人間だと自認している。
でも、雨くんも普通じゃない。
私は彼の事が少し怖くなった。
私は私の手に重なった岩崎さんの手の温もりに意識を集中して落ち着こうと思った。