あれから、3年の月日が経った。

 平穏な日々が続いて、ひなたは5歳になった。
 彼はイヤイヤ期を経て、すっかり悟りを開いたように優しいお兄ちゃんになっている。

 今日は忙しい緋色も休日なので、家族で芝生の広い公園に来ていた。

 雲1つない青空で、暖かい太陽の光が緋色と私の宝物のような子供たちを照らしている。

「はい、ひかりどーぞ」
 ひなたがドングリを拾っては、もうすぐ2歳になる妹に渡していた。

「あんがと、にいちゃ!」
 舌ったらずに話すひかりは非常に可愛い子だが、夜はあまり寝てくれない。

 私は、結婚式から2ヶ月後、妊娠が分かった。
 妊娠期間中は妊娠8ヶ月で切迫早産になり、出産まで入院生活だった。
 絶対安静で身動きのできない生活に、子供を産むのはとても大変なのだと実感した。

 その間、ひなたの面倒は再び笹沼家が見てくれた。
 ひなたはすっかりおじいちゃん、おばあちゃん子だ。

 ひかりが誕生したら、夜泣きで眠れない生活が続いた。
 私に対して過保護な緋色は、夜、ひかりの面倒を見てくれて私をサポートしてくれた。

 緋色はショートスリーパーなのは、私を一晩中離さなくても次の日元気だったから知っていた。

 彼は自分に父性がないかもと悩んでいたこともあったが、子供をあやしている姿はパパそのものだ。

 子供は産むのも育てるのも、思っていたよりずっと大変だった。

 ひなたが弟も欲しいと言っていて、緋色も張り切っているが私は流石に現時点では考えられない。

 小笠原社長が海外に逃げてしまったこともあり、小笠原製薬は笹沼薬品に吸収合併された。

 小笠原邸の高い壁は、今は誹謗中傷の落書きだらけだ。
 陽子は服役していて、小笠原夫人は精神を病み精神病棟にいる。

 勇は安全が確保されたので、日本にも遊びに来るようになった。
 元サッカー部の彼らしく、ひなたを誘ってはサッカーを教えてくれている。
 ひなたにとっては、年の離れた優しいお兄ちゃんだ。

 望月夫妻は今は夫婦水入らずで、色々なところに旅行している。
 私の父である望月健太は、私が航空会社に勤めていた時によく1人旅をしていた。

 会社の福利厚生で、家族は国内線に空席があれば無料で乗られたからだ。

 「1人で見ていた風景を今度は2人で見たい」と加奈さんをを口説いて、連れ出しているらしい。

 蓮さんは女好きで有名だったのが嘘のように、仕事に打ち込んでいる。
 森田食品の信用回復に全力を注いでいるようだ。

 私に余命宣告した谷村医師は、医師を辞めたらしいと風の噂で聞いた。
 私宛に手紙を寄越してきたが、読まずに捨てた。
 変態ストーカー医師の謝罪も行く末も心底どうでも良い。

 でも、あの余命宣告があったから私は強くなれた。
 私には今守るべき家族がいるのだから、これからもっと強くなりたい。

「ママ! 僕たち家族のイニシャルって全員同じH.Sだね」
 ひなたの言葉に私は驚いた。

 やはり、彼は2歳までインターナショナル保育園に通ってただけのことはある。

 その時に言葉に出さなくても、知識を溜めて込んでいたということだ。

「本当だ。家族みんな一緒のイニシャルなのね! ひなたは、まだ5歳なのに英語も喋れるなんて天才だわ!」
「日陰、流石に親バカ過ぎ⋯⋯」

 私の言葉に緋色が笑いを堪えている。

「緋色! 私、今、とっても幸せ」
 私は愛おしい2人の我が子の様子を眺めながら、隣にいる緋色に寄り添った。

「これからもっと幸せにする。日陰、愛してる」
 彼が愛おしそうに私を見つめながら、優しく私を抱き寄せて囁いた。