「お父さん、今まで育ててくれてありがとう」
「日陰こそ、支えてくれてありがとな。俺たちはこれからも家族だ」

 私は今日、育ての親である望月健太とバージンロードを歩く。
 血の繋がりなんて関係ない、私は20年以上彼と家族をやってきた。

 私が望月健太に並んで歩くと、小笠原社長が私の父親だという認識を持っているだろう人がどよめいている。

 そんなどよめきは、隣にいる私の育ての父を見つめれば気にならない。
 誰よりも私の幸せを願い、見せしめになるかもしれないのに出てきてくれた彼が私の父親だ。

 緋色に太陽の光が差し込んで、彼が私を待ち侘びるように微笑んでいる。

「私、白川緋色はあなたの夫となるために自分を捧げます。そして私は今後、あなたが病める時も、健やかな時も貧しい時も、豊かな時も、喜びにあっても、悲しみにあっても、命のある限りあなたを愛し、この誓いの言葉を守って、あなたと共ににあることを約束します」

 私は独占欲が強く嫉妬深い一面がある緋色が好きだ。
 これ程までに人に求められるのは初めてだった気がする。
 そして、苦労を隠してカッコつける彼を癒す存在にこれからなっていければと思う。

「私、望月日陰はあなたの妻となるためにあなたに自分を捧げます。そして私は今後、あなたが病める時も、健やかな時も、貧しい時も、豊かな時も、喜びにあっても、悲しみにあっても、命のある限りあなたを愛し、この誓いの言葉を守ってあなた共にあることを約束します」

 私が宣言した言葉に周りが一瞬どよめいた。
 でも、これだけは譲れない。
 入籍が先でここ最近は白川姓を名乗っていたが、私は小笠原日陰ではなく望月日陰だ。

 挙式の後の披露宴ではウェディングドレスで3回、カラードレスで2回、和装2回の衣装替えが行われた。

 全て有名デザイナーがスカーレットホテルで行われる今回のウェディングの為だけに描き上げたものだ。

 私がお色直しをして登場をするたびに歓声が上がり、眩しいくらいのフラッシュがたかれる。

「日陰、大丈夫か?」
 まるでファッションモデルのように見せ物になっている私に緋色が近づいてきた。
 私が疲れていないか、彼は心配になったみたいだ。

「こんなことは一生に一度だろうから、楽しんでる。それよりも、私が1番見て欲しいのは緋色だから目に焼き付けて」
 私の言葉の返事とでも言うように、彼が私に口づけてくる。

 人目があるところでこんなことをするなんて、まるで私を自分のものだと周りに見せびらかしたいようだ。

 彼は本当に独占欲の強い人。

 だったら、私も自分は彼のものだと周囲に知らしめよう。
 私はそう決意し多くのフラッシュライトの中、彼の首に手を回し口づけに応えた。

♢♢♢

「流石に疲れた⋯⋯」

 結婚式が終わって、私は控え室でぐったりしていた。
 それを緋色が笑いながら見つめている。

「これから、初夜なのに大丈夫か?」
「えっ! 初夜はこないだ終わったよね?」
私の言葉に緋色が笑っている。

 私だって緋色に抱かれるのは、彼の愛が感じられるし気持ちが良いし幸せな時間だ。

 しかし、今の私のHPはゼロに等しい。

 その時、控え室の外に多くの人が押し寄せている声が聞こえた。
(蓮さんの会見を受けてマスコミが押し寄せた?)

 緋色たちが私を小笠原から引き離そうとしているのは知っていた。

 しかし、「愛の結晶の隠し子」として私を報道してきたマスコミには通用しなかったようだ。

「日陰、俺が対応するからここで待ってろ」
 ぐったりしている私の頭を撫でながら、緋色が優しい声で言う。

「緋色! 私、結構強いのよ。ここは私に任せて」
 周りが私のことを守るために、沢山動いてくれたことはわかっている。

 でも、守られてばかりのお姫様にはなりたくない。
 余命が1年と聞くまでは、私は何かあれば勇に泣き言を言って慰めてもらうだけの弱い女だった。

 今の私は人生がいつ終わるかもわからないと知っている。
 だから、悔いのないよう戦える時は全力を出したい。

 控え室の扉を開けると、マスコミが矢継ぎ早に質問してきた。

「小笠原製薬の機密情報横流しの件についてどう思われますか? お父様の罪を日陰さんは知っていたのでしょうか?」

「小笠原社長? 本当に困った、ほら吹きおじ様ですよね。あのような方、よくいらっしゃるんです。急に身内だとか言って、私に近寄ってくる方⋯⋯」

 私の言葉を一瞬理解できないように、報道陣が顔を見合わせている。

 緋色とひなたといる為に、私は小笠原家から自分を切り離す。
 私にかかる火の粉は、必ず家族である緋色とひなたにも降りかかってしまうからだ。

「小笠原社長は日陰さんのお父様ですよね?」
 報道陣の1人が戸惑いながら尋ねてくる。

「なぜ、皆様あのような人を欺いてばかりの方を信じるんですか? 一般人なので弁明する機会がなかったのですが、彼と私には何のつながりもありませんよ」

 緋色とひなたとの未来の為に私は強くなる。
 真実なんて、私の大切な家族の前ではどうでも良い。

「小笠原社長の類稀なる美貌を持った愛人と、そっくりな見た目と伺いましたが⋯⋯」

「ふふっ、私のこと美しいと褒めてくださるんですね。結婚式の新婦の特権でしょうか。愛人の方ってどれ程、美しかったのかしら? 世界美女カレンダーにに掲載されるくらい? メイクの力で美人なんていくらでも誕生するのに、美しくなったら皆、彼女の娘ですか? 私も今日のスカーレットホテルのウェディングチームのヘアメイク様の力がなければモブ顔ですよ」

 私の言葉に報道陣たちが吹き出すのを堪えている。
 それでも彼らは食い下がってこようとしたので、私はキツくお灸をすえることにした。

「一般人である私が、どうしてこんなに追い回されるんでしょう。ほら吹きおじ様の妄言にお付き合いをするのはこの辺で良いですか? もしかして、皆さんも私の父親とか言い出すおつもり? 一般人の私には反論の機会がありません。正確な報道をしないのであれば、私も訴えるしか手段はなくなりますから!」

 にこやかな雰囲気が凍るような冷たい声で告げると報道陣は去っていた。

「日陰、本当に強い子なんだな」

 気がつけば私のすぐ後ろには緋色がいた。
 私をバックハグで抱きしめる緋色の手に、私は自分の手を重ねた。