「日陰、本当に心配した」
俺はやっと帰宅した日陰を強く抱きしめた。
「ご心配おかけしました。あれ、ひなたは?」
「もう寝たよ」
開口一番ひなたのことを尋ねてくる彼女に落ち込んでしまう。
俺は父親失格なのかもしれない。
日陰のことになると自分の息子にさえも嫉妬している。
彼女と2人きりの時間を作りたくて、さっさとひなたを寝かしつけてしまおうとした。
「まだ、夜の7時ですよ。快挙ですね」
いつもひなたが眠りにつくまで、最低でも1時間以上も日陰は絵本を読んであげていた。
それを真似てみようとしたが、俺は2冊で面倒になってしまった。
結局、彼にカートゥーンをタブレットで見せて隣で残務処理をしていた。
動画に見入っていたら、彼が眠ってしまっただけだ。
それを言うと、母性溢れる日陰には軽蔑されてしまいそうだ。
そもそも俺の声掛けが極端に少なかったことが、ひなたの言葉が遅れた最大の原因な気がしている。
「それにしても保釈期間に傷害事件を起こすなんで、小笠原陽子は終わったな」
俺の言葉に日陰は困った顔になった。
「そのことなんですが、森田社長が息子さんに黙っているように言ってました。病院にも箝口令が引かれているそうです」
その話を聞いて、俺は森田社長の妻が小笠原社長の姉だったことを思い出した。
両家は近すぎる関係を築いている。
おそらく、ドライブレコーダーや街の防犯カメラに小笠原陽子の犯行は映っている。
しかし、事件から8時間近く経過していることを考えると、もう証拠は隠滅されているだろう。
「日陰、夕飯を作ったんだ。こっちに来て食べよう」
「すみません。私が早く帰って準備するべきだったのに」
彼女は慌てて手を洗ってきて、ダイニングルームに戻ってきた。
俺は彼女に喜んで欲しいと思ってやることなので負担ではない。
「ローストビーフ、手作りですよね。美味しそう! 私、パンナコッタを作ってたんで、食後のデザートに出しますね」
手を合わせて向いに座って「いただきます」と小声で言う彼女が愛しい。
確かに、冷蔵庫の中には冷やした手作りのパンナコッタがあった。
こんな毎日が続くようにしたいのに、今日のようなことがあると不安になる。
「森田とはどうして一緒にいたんだ?」
「あ、あの偶々です⋯⋯」
明らかに日陰は何かを隠していた。
しかし、俺には言いたくないことなのだろうと察して話題を変えることにした。
女好きの森田蓮は当然のように美しい日陰に手を出そうとしていたように見えた。
彼女は俺の女だと釘を刺しておいたから、彼も流石に手を出さないだろう。
でも、あと少し俺が到着するのが遅かったら、彼女の甘い唇が奪われていたと思うと嫉妬で頭がおかしくなりそうだ。
(日陰は隙がありすぎる⋯⋯)
「検診の結果なんですが、聞きそびれてしまいました。あと、森田さんが私の健康診断結果についている紹介状がおかしいから、調べた方が良いような事を言ってました」
「紹介状?」
俺が促すと彼女はカバンから徐に健康診断結果についてきた紹介状を見せてきた。
その紹介状は、精密検査をする専門医が指定されていた。
(こんなことは通常じゃあり得ない)
俺はすかさず連絡先の電話番号に電話を掛けた。
「失礼ですが、医師の谷村幸也さんでいらっしゃいますか? 白川緋色と申します。妻が紹介状を受け取ったのでご連絡を差し上げたのですが⋯⋯」
「うわわっ!」
電話口にいたであろう、谷村医師は慌てて電話を切った。
(怪し過ぎだろ!)
「日陰、この紹介状の医師に関しては俺が調べる」
「私、このまま生きられるんでしょうか。ひなたと緋色さんと⋯⋯」
彼女の瞳が潤み出して、俺は怒りを感じた。
確証が出るまでは彼女には言えないが、おそらく彼女が難病であることも余命1年なことも出鱈目だ。
しかし、彼女は1年しか生きられないと言われた事で悩み苦しんでいる。
「日陰、大丈夫だよ」
俺は日陰の席に行って、彼女の目元に口づけた。
俺はそのまま彼女の膝裏に手を入れて抱き上げた。
(昨日の続きがしたくて仕方がなかった⋯⋯早く日陰を俺のものにしたい)
「ちょっと待ってください。おろしてください! 緋色さーん」
彼女が過剰にばたつきながら抵抗するので、危ないから俺は彼女をおろした。
「パンナコッタは明日の朝、食べないか? 俺は今、日陰が欲しいんだ」
俺の言葉に日陰が顔を真っ赤にして首を振る。
(あれ? 昨日はオッケーだったはずなのに⋯⋯)
「実は緋色さんのキスが凄くて、それ以上のことは、もっと凄いのかと思うと緊張するので無理です。私は母親なので、みっともなく乱れたくないですし⋯⋯」
彼女には理想の母親像があるらしい。
そして、それ以上のことのハードルが棒高跳びレベルに跳ね上がっているのも気になった。
俺のキスを凄いと言ってくれたのは嬉しいけれど、これではいつまでも彼女を俺のものにできない。
俺は川瀬勇にも、森田蓮にも、息子のひなたにさえヤキモチを妬くほど彼女を欲している。
(嫌だと言っているのに、乱れたところが見たいと言ったら嫌われそうだしな⋯⋯)
「分かった。何もしないと約束するから、一緒のベッドでは寝ような」
「昨晩はすいませんでした。マットレスをダメにしちゃって」
俺は彼女の言葉にそんなこともあった事を思い出した。
実はダメになったマットレスは既に交換済みだ。
臭いが出るから、そのままにして置けるわけがない。
でも、秘密にしておけば、ひなたのお漏らしのおかげで彼女と一緒に寝ることはできそうだ。
俺はやっと帰宅した日陰を強く抱きしめた。
「ご心配おかけしました。あれ、ひなたは?」
「もう寝たよ」
開口一番ひなたのことを尋ねてくる彼女に落ち込んでしまう。
俺は父親失格なのかもしれない。
日陰のことになると自分の息子にさえも嫉妬している。
彼女と2人きりの時間を作りたくて、さっさとひなたを寝かしつけてしまおうとした。
「まだ、夜の7時ですよ。快挙ですね」
いつもひなたが眠りにつくまで、最低でも1時間以上も日陰は絵本を読んであげていた。
それを真似てみようとしたが、俺は2冊で面倒になってしまった。
結局、彼にカートゥーンをタブレットで見せて隣で残務処理をしていた。
動画に見入っていたら、彼が眠ってしまっただけだ。
それを言うと、母性溢れる日陰には軽蔑されてしまいそうだ。
そもそも俺の声掛けが極端に少なかったことが、ひなたの言葉が遅れた最大の原因な気がしている。
「それにしても保釈期間に傷害事件を起こすなんで、小笠原陽子は終わったな」
俺の言葉に日陰は困った顔になった。
「そのことなんですが、森田社長が息子さんに黙っているように言ってました。病院にも箝口令が引かれているそうです」
その話を聞いて、俺は森田社長の妻が小笠原社長の姉だったことを思い出した。
両家は近すぎる関係を築いている。
おそらく、ドライブレコーダーや街の防犯カメラに小笠原陽子の犯行は映っている。
しかし、事件から8時間近く経過していることを考えると、もう証拠は隠滅されているだろう。
「日陰、夕飯を作ったんだ。こっちに来て食べよう」
「すみません。私が早く帰って準備するべきだったのに」
彼女は慌てて手を洗ってきて、ダイニングルームに戻ってきた。
俺は彼女に喜んで欲しいと思ってやることなので負担ではない。
「ローストビーフ、手作りですよね。美味しそう! 私、パンナコッタを作ってたんで、食後のデザートに出しますね」
手を合わせて向いに座って「いただきます」と小声で言う彼女が愛しい。
確かに、冷蔵庫の中には冷やした手作りのパンナコッタがあった。
こんな毎日が続くようにしたいのに、今日のようなことがあると不安になる。
「森田とはどうして一緒にいたんだ?」
「あ、あの偶々です⋯⋯」
明らかに日陰は何かを隠していた。
しかし、俺には言いたくないことなのだろうと察して話題を変えることにした。
女好きの森田蓮は当然のように美しい日陰に手を出そうとしていたように見えた。
彼女は俺の女だと釘を刺しておいたから、彼も流石に手を出さないだろう。
でも、あと少し俺が到着するのが遅かったら、彼女の甘い唇が奪われていたと思うと嫉妬で頭がおかしくなりそうだ。
(日陰は隙がありすぎる⋯⋯)
「検診の結果なんですが、聞きそびれてしまいました。あと、森田さんが私の健康診断結果についている紹介状がおかしいから、調べた方が良いような事を言ってました」
「紹介状?」
俺が促すと彼女はカバンから徐に健康診断結果についてきた紹介状を見せてきた。
その紹介状は、精密検査をする専門医が指定されていた。
(こんなことは通常じゃあり得ない)
俺はすかさず連絡先の電話番号に電話を掛けた。
「失礼ですが、医師の谷村幸也さんでいらっしゃいますか? 白川緋色と申します。妻が紹介状を受け取ったのでご連絡を差し上げたのですが⋯⋯」
「うわわっ!」
電話口にいたであろう、谷村医師は慌てて電話を切った。
(怪し過ぎだろ!)
「日陰、この紹介状の医師に関しては俺が調べる」
「私、このまま生きられるんでしょうか。ひなたと緋色さんと⋯⋯」
彼女の瞳が潤み出して、俺は怒りを感じた。
確証が出るまでは彼女には言えないが、おそらく彼女が難病であることも余命1年なことも出鱈目だ。
しかし、彼女は1年しか生きられないと言われた事で悩み苦しんでいる。
「日陰、大丈夫だよ」
俺は日陰の席に行って、彼女の目元に口づけた。
俺はそのまま彼女の膝裏に手を入れて抱き上げた。
(昨日の続きがしたくて仕方がなかった⋯⋯早く日陰を俺のものにしたい)
「ちょっと待ってください。おろしてください! 緋色さーん」
彼女が過剰にばたつきながら抵抗するので、危ないから俺は彼女をおろした。
「パンナコッタは明日の朝、食べないか? 俺は今、日陰が欲しいんだ」
俺の言葉に日陰が顔を真っ赤にして首を振る。
(あれ? 昨日はオッケーだったはずなのに⋯⋯)
「実は緋色さんのキスが凄くて、それ以上のことは、もっと凄いのかと思うと緊張するので無理です。私は母親なので、みっともなく乱れたくないですし⋯⋯」
彼女には理想の母親像があるらしい。
そして、それ以上のことのハードルが棒高跳びレベルに跳ね上がっているのも気になった。
俺のキスを凄いと言ってくれたのは嬉しいけれど、これではいつまでも彼女を俺のものにできない。
俺は川瀬勇にも、森田蓮にも、息子のひなたにさえヤキモチを妬くほど彼女を欲している。
(嫌だと言っているのに、乱れたところが見たいと言ったら嫌われそうだしな⋯⋯)
「分かった。何もしないと約束するから、一緒のベッドでは寝ような」
「昨晩はすいませんでした。マットレスをダメにしちゃって」
俺は彼女の言葉にそんなこともあった事を思い出した。
実はダメになったマットレスは既に交換済みだ。
臭いが出るから、そのままにして置けるわけがない。
でも、秘密にしておけば、ひなたのお漏らしのおかげで彼女と一緒に寝ることはできそうだ。