僕の隣では今、五花が一人で小説を読んでいる。
場所は僕のベッドの上。短いスカートから伸びた足をベッドの脇に座りながら伸ばして、集中して小説にのめり込んでいるようだ。
僕はといえば、同じく一人でイラストを描いている。
最近は、五花の事をある意味で空気のような存在だと感じるようになってきた。
こんな感じで各々好きな事をしているだけの時間も増えてきた。
もっとも、この空気のような存在は、時々自立して動いては、色々な事をする。
今は小説にのめり込んでいるが――
「ふぅ、読み終わりました! 凄い小説でしたぁ! わたし目が潤んじゃってヤバかったです。本当にすごい小説って、なんだか人の心を浄化するような力があって、本当に尊い美しさがあって、すごいですね」
そんな興奮した様子の五花に、僕は作業の手を止めて、振り向いて話しかける。
「何読んでたの?」
「『宇宙を目指す少女たち』ってライトノベルの1巻です。これすごいですよ。なんだか魂の洗濯をしたような読後感でした」
「それは何より。僕も聞いた事あるな、その本。誰かに勧められたの?」
「……これ実は、海斗くんの遺品なんですよ」
その言葉には、僕はさすがに驚かされた。
「え……?」
「わたし、わたしが海斗くんにプレゼントした絵を、海斗くんが亡くなったあと、これはもう役目を果たしたからって事で、受け取ってほしいと言われて、海斗くんの家に行ったんです」
「へぇ。僕にも言わずにそんな事を」
「あの絵は海斗くんとの二人っきりの秘密ですからね。いくらたっくんといえども、連れていかない方がいいと思いました」
そう、結局僕は、五花が海斗のために1ヶ月かけて書いた絵を、いまだに見せてもらっていなかった。
海斗の奴には、僕が来ている時には絵を隠すようにと伝えていたらしく、海斗はその五花の命令を、僕より優先して忠実に守ったのだ。本当に信じられない話だが、事実というのは時に想像より奇妙なものだ。
「それでその時に、海斗くんが死ぬ前に最後に読んでいた小説らしいって事で、この小説を受け取りました」
「……そうなんだ。そういえば結構前、なんとなく惹かれてるけど読む機運になってないみたいな話を海斗がしてた気がするよ、そのライトノベル」
「そうなんですね……これ、たっくんも読むといいかもしれませんよ」
「まあ確かに気になるけど……ちなみに理由は?」
「なんというか、海斗くんがこれをどんな気持ちで読んでたんだろうなって想像すると、ただでさえ素晴らしいこの小説を、二重に楽しめるかもしれません」
「へぇ」
「この小説、なんというか、主人公とヒロインが宇宙を目指す小説なんですけど、宇宙に行く事を、本当に危険に満ちたものとして表現してるんですよ」
「うん」
僕は五花がずいぶんと真面目な、それでいて熱の篭もった表情をしているものだから、後ろを振り向くのをやめて、椅子を回して姿勢を正して聞き始めた。
「それで?」
「なんというか、宇宙に行くのって、すごく死の危険と隣り合わせじゃないですか? ロケットが爆発するかもしれないし、宇宙空間で事故が起こるかもしれないし、大気圏突入時は高熱で死ぬかもしれないし……この小説だと、そのあとロケットから出されてパラシュートで地上に降りるんですよ? そこで変なところに堕ちたりして死ぬ事だってあるでしょう」
「うん。確かにそうだね」
「わたし、思うんですけど、海斗くんが最後に挑む事になる、自分が死ぬという試練……海斗くんは、この小説を読む事を通じて、その試練に対して、確かにとても大事な勇気を貰っていたんじゃないかなって、そう強く感じたんです」
「……なるほどね。そんなにいい小説なんだ」
「はい、素晴らしかったです。あんまり言うとネタバレになっちゃうんで、まあ今度読んでみてくださいね」
「分かったよ」
「……ああ、海斗くん……海斗くんは、天国で元気にしているでしょうか? それとも、わたしたち二人の事を、見守っていたりするんでしょうか?」
「それこそ、僕たちも死んでみないと分からないね」
「はい。わたし、思うんですけど……」
そこで五花は、急にぴょんっとベッドからバネのように飛び上がって、向かい合って座る僕の膝の上に跨ってきた。
「わたしたち、そろそろセックスしませんか?」
あまりに話題が急に転換したものだから、僕はすごい表情になったと思う。
「急だね? なんというか、どうしてその思考回路になったのか純粋に気になったよ。普通にドキドキする以上にさ」
「だって考えてみてくださいよ」
五花は、至近距離で、その眩しいくらい可愛い顔を真剣そうに僕に向けて、どこか怒ったように話し出した。
「わたしたちだって、死ぬんですよ。それは海斗くんに比べれば、残された時間は何年か、あるいは何十年かはあるかもしれません。でも、死ぬんです。だからこそ、わたしたちはそれまでの人生を、真摯に、楽しんで、気持ちよく生きないといけないと思うんですよ」
「まあ真摯に生きる必要があるのは分かるけど……楽しんで、気持ちよくというのは、結構意見が分かれるような気も……セックスという単語を聞いたあとだからそう思うのかもしれないけど……」
「何言ってるんですか? 人生って、楽しむためにあるんですよ? わたしたちはあれこれ無駄な事を考えて、堂々巡りに陥って、苦しんでばかりいましたけど……」
そこで五花は、僕にキスをした。
舌を伸ばして、ぺろぺろと僕の唇を催促するように舐めてくるものだから、僕は仕方なく、自分も舌を出して、五花の舌に絡ませる。
ただ、舌を無心で動かして、無心で五花の舌や唇の感触や熱、ぬめりを感じ続ける。
それは何とも言えない幸福感と興奮に満ちた、無上の体験だった。
「……ぷはぁ……わかりました? こうやって、何も考えずにキスする幸せに比べれば、親とか、学校とか、人間関係とか、全部全部くだらないと思いませんか?」
「……そうかもね。僕もいい感じにその気になってきたよ。さすがビッチだ」
「そうですよ? わたしはクソビッチですからね? でもそんなクソビッチが後生大事に守ってきた処女を、今日、今からたっくんにプレゼントするんです」
五花は、ぎゅっと僕を抱き締めるようにして、至近距離で僕を上目遣いで見上げた。その瞳はぱっちりと見開かれて、うるうると潤んでいる。
その瞳を本当に芸術的なくらい可憐だと感じて、改めて、僕はこの女の子の全てが好きだと感じた。それは貫かれるように襲ってきた愛情で、僕はたまらなくなって、五花を抱き締め返す。
「わたしの大好きな海斗くんにもあげなかった処女を、たっくんが貰うんです。この重み、しっかり理解して、一生大事にしてくださいね?」
「ああ。五花と離れるなんて、今の僕には想像もつかないよ。この先どうなるかなんて何も分からないけど、五花を大事にしたいという今の想いだけは真実だ」
僕たちは抱きしめ合いながら、ゆっくりともう一度キスをする。
その日、僕たちはそのままセックスをして――
生きるってこういうものかもなって、なんとなくすべてを理解した気持ちになったのだった――
五花のやつは、なんだかんだで正しい事しか言わないのだ。
*****
「……ああ、海斗くんとセックスしてあげなかったこと、本当に正しかったんでしょうか?」
「……僕の横でそれを堂々と言える君の勇気は、本当に賞賛に値するよ」
僕たちは二人、心地よい疲労感の中、裸でベッドに横になって、語り合いだす。その五花の話題のチョイスには、いささか疑問を感じざるを得なかったが。
「だって、わたし、本当に海斗くんを愛してたんです。海斗くんの深い深い、本当に深いところまで愛していたのに、海斗くんは、勝手に一人で満足して、わたしの愛なんてもう十分だと、一人で悟って、一人で逝ってしまったんです。これってなんだか、ある意味勝手な男だと思いませんか?」
「なんというか、僕はもう、何を言っていいのか全く分からないけどね。まあ、海斗が満足してたのなら、それでいいんじゃないか?」
「そうなんですけどね。なんというか、ちょっとだけ欲求不満、じゃないですけど、そういう展開を期待していた心理がどこかにあったというか……」
「……五花は本当に、どうしようもないビッチだね」
「ええ? ひどくないですか?」
「いや、本当にそう思った。五花のその奔放な性格は、たぶん魂レベルで刻み込まれてるよ。きっと、死んでも治らないんじゃないかな?」
「ひっどーい! あまりにひどいです! わたし、ちゃんとたっくんに処女あげたのに!」
「自分がいわゆる処女ビッチってやつだったのは、さすがに自覚あるよね?」
「うっ……たしかに……」
そこで、五花は、意気消沈したように布団の中にもぐりこんだ。
「まあ、でも、正直今は、なんでもいいんだよね」
「……そうなんですか?」
五花が顔をひょっこりと、布団から出してくる。
「うん。ビッチなのも五花の一面。なんか、そういうところも含めて、愛せるなって、素直に思うんだ。それで、五花の方も、なんだか僕の事を愛してくれているらしい。なんか、もう、人生ってこれだけでいいなって、そう思うんだ」
「……ふふっ」
五花は笑って、僕の顔まで顔を上げてきて、ほっぺたにキスをした。
「わたしのビッチ、いま治っちゃったかもしれません」
「へ?」
「なんかもう、たっくんが好きすぎて、愛おしすぎて、どうしようもないなってとこまで、わたしの中の愛情メーターが高まりました」
そう言いながら、五花は僕に口づけすると、そのまま僕の布団の下に潜り込んで、何やら性的な悪戯を始める。
「こ、こら! な、なにをしてるんだ!」
それがあまりに気持ちよくて、エロくて、僕はたじたじになって五花を宥めようとするが――
「ふふ、わたしのビッチは死んでも治らないらしいですからね、たっくんによると。まあ、ビッチらしく、搾り取ってあげますよ」
「いや、普通にもう無理だって! いや、本当やめて……」
結局そのまま僕たちは、"もう一回戦"する事になってしまったのだった。
まあ、色々言いたい事はあったけど――
なんだかんだで気持ち良かったので、いいか、と流されてしまうあたりが僕のダメなところなのかもしれない。
どうやら――
――僕の可愛い彼女、五花ちゃんのビッチは、当分治らないらしい。
――『五花ちゃんのビッチは治らない?』 完
場所は僕のベッドの上。短いスカートから伸びた足をベッドの脇に座りながら伸ばして、集中して小説にのめり込んでいるようだ。
僕はといえば、同じく一人でイラストを描いている。
最近は、五花の事をある意味で空気のような存在だと感じるようになってきた。
こんな感じで各々好きな事をしているだけの時間も増えてきた。
もっとも、この空気のような存在は、時々自立して動いては、色々な事をする。
今は小説にのめり込んでいるが――
「ふぅ、読み終わりました! 凄い小説でしたぁ! わたし目が潤んじゃってヤバかったです。本当にすごい小説って、なんだか人の心を浄化するような力があって、本当に尊い美しさがあって、すごいですね」
そんな興奮した様子の五花に、僕は作業の手を止めて、振り向いて話しかける。
「何読んでたの?」
「『宇宙を目指す少女たち』ってライトノベルの1巻です。これすごいですよ。なんだか魂の洗濯をしたような読後感でした」
「それは何より。僕も聞いた事あるな、その本。誰かに勧められたの?」
「……これ実は、海斗くんの遺品なんですよ」
その言葉には、僕はさすがに驚かされた。
「え……?」
「わたし、わたしが海斗くんにプレゼントした絵を、海斗くんが亡くなったあと、これはもう役目を果たしたからって事で、受け取ってほしいと言われて、海斗くんの家に行ったんです」
「へぇ。僕にも言わずにそんな事を」
「あの絵は海斗くんとの二人っきりの秘密ですからね。いくらたっくんといえども、連れていかない方がいいと思いました」
そう、結局僕は、五花が海斗のために1ヶ月かけて書いた絵を、いまだに見せてもらっていなかった。
海斗の奴には、僕が来ている時には絵を隠すようにと伝えていたらしく、海斗はその五花の命令を、僕より優先して忠実に守ったのだ。本当に信じられない話だが、事実というのは時に想像より奇妙なものだ。
「それでその時に、海斗くんが死ぬ前に最後に読んでいた小説らしいって事で、この小説を受け取りました」
「……そうなんだ。そういえば結構前、なんとなく惹かれてるけど読む機運になってないみたいな話を海斗がしてた気がするよ、そのライトノベル」
「そうなんですね……これ、たっくんも読むといいかもしれませんよ」
「まあ確かに気になるけど……ちなみに理由は?」
「なんというか、海斗くんがこれをどんな気持ちで読んでたんだろうなって想像すると、ただでさえ素晴らしいこの小説を、二重に楽しめるかもしれません」
「へぇ」
「この小説、なんというか、主人公とヒロインが宇宙を目指す小説なんですけど、宇宙に行く事を、本当に危険に満ちたものとして表現してるんですよ」
「うん」
僕は五花がずいぶんと真面目な、それでいて熱の篭もった表情をしているものだから、後ろを振り向くのをやめて、椅子を回して姿勢を正して聞き始めた。
「それで?」
「なんというか、宇宙に行くのって、すごく死の危険と隣り合わせじゃないですか? ロケットが爆発するかもしれないし、宇宙空間で事故が起こるかもしれないし、大気圏突入時は高熱で死ぬかもしれないし……この小説だと、そのあとロケットから出されてパラシュートで地上に降りるんですよ? そこで変なところに堕ちたりして死ぬ事だってあるでしょう」
「うん。確かにそうだね」
「わたし、思うんですけど、海斗くんが最後に挑む事になる、自分が死ぬという試練……海斗くんは、この小説を読む事を通じて、その試練に対して、確かにとても大事な勇気を貰っていたんじゃないかなって、そう強く感じたんです」
「……なるほどね。そんなにいい小説なんだ」
「はい、素晴らしかったです。あんまり言うとネタバレになっちゃうんで、まあ今度読んでみてくださいね」
「分かったよ」
「……ああ、海斗くん……海斗くんは、天国で元気にしているでしょうか? それとも、わたしたち二人の事を、見守っていたりするんでしょうか?」
「それこそ、僕たちも死んでみないと分からないね」
「はい。わたし、思うんですけど……」
そこで五花は、急にぴょんっとベッドからバネのように飛び上がって、向かい合って座る僕の膝の上に跨ってきた。
「わたしたち、そろそろセックスしませんか?」
あまりに話題が急に転換したものだから、僕はすごい表情になったと思う。
「急だね? なんというか、どうしてその思考回路になったのか純粋に気になったよ。普通にドキドキする以上にさ」
「だって考えてみてくださいよ」
五花は、至近距離で、その眩しいくらい可愛い顔を真剣そうに僕に向けて、どこか怒ったように話し出した。
「わたしたちだって、死ぬんですよ。それは海斗くんに比べれば、残された時間は何年か、あるいは何十年かはあるかもしれません。でも、死ぬんです。だからこそ、わたしたちはそれまでの人生を、真摯に、楽しんで、気持ちよく生きないといけないと思うんですよ」
「まあ真摯に生きる必要があるのは分かるけど……楽しんで、気持ちよくというのは、結構意見が分かれるような気も……セックスという単語を聞いたあとだからそう思うのかもしれないけど……」
「何言ってるんですか? 人生って、楽しむためにあるんですよ? わたしたちはあれこれ無駄な事を考えて、堂々巡りに陥って、苦しんでばかりいましたけど……」
そこで五花は、僕にキスをした。
舌を伸ばして、ぺろぺろと僕の唇を催促するように舐めてくるものだから、僕は仕方なく、自分も舌を出して、五花の舌に絡ませる。
ただ、舌を無心で動かして、無心で五花の舌や唇の感触や熱、ぬめりを感じ続ける。
それは何とも言えない幸福感と興奮に満ちた、無上の体験だった。
「……ぷはぁ……わかりました? こうやって、何も考えずにキスする幸せに比べれば、親とか、学校とか、人間関係とか、全部全部くだらないと思いませんか?」
「……そうかもね。僕もいい感じにその気になってきたよ。さすがビッチだ」
「そうですよ? わたしはクソビッチですからね? でもそんなクソビッチが後生大事に守ってきた処女を、今日、今からたっくんにプレゼントするんです」
五花は、ぎゅっと僕を抱き締めるようにして、至近距離で僕を上目遣いで見上げた。その瞳はぱっちりと見開かれて、うるうると潤んでいる。
その瞳を本当に芸術的なくらい可憐だと感じて、改めて、僕はこの女の子の全てが好きだと感じた。それは貫かれるように襲ってきた愛情で、僕はたまらなくなって、五花を抱き締め返す。
「わたしの大好きな海斗くんにもあげなかった処女を、たっくんが貰うんです。この重み、しっかり理解して、一生大事にしてくださいね?」
「ああ。五花と離れるなんて、今の僕には想像もつかないよ。この先どうなるかなんて何も分からないけど、五花を大事にしたいという今の想いだけは真実だ」
僕たちは抱きしめ合いながら、ゆっくりともう一度キスをする。
その日、僕たちはそのままセックスをして――
生きるってこういうものかもなって、なんとなくすべてを理解した気持ちになったのだった――
五花のやつは、なんだかんだで正しい事しか言わないのだ。
*****
「……ああ、海斗くんとセックスしてあげなかったこと、本当に正しかったんでしょうか?」
「……僕の横でそれを堂々と言える君の勇気は、本当に賞賛に値するよ」
僕たちは二人、心地よい疲労感の中、裸でベッドに横になって、語り合いだす。その五花の話題のチョイスには、いささか疑問を感じざるを得なかったが。
「だって、わたし、本当に海斗くんを愛してたんです。海斗くんの深い深い、本当に深いところまで愛していたのに、海斗くんは、勝手に一人で満足して、わたしの愛なんてもう十分だと、一人で悟って、一人で逝ってしまったんです。これってなんだか、ある意味勝手な男だと思いませんか?」
「なんというか、僕はもう、何を言っていいのか全く分からないけどね。まあ、海斗が満足してたのなら、それでいいんじゃないか?」
「そうなんですけどね。なんというか、ちょっとだけ欲求不満、じゃないですけど、そういう展開を期待していた心理がどこかにあったというか……」
「……五花は本当に、どうしようもないビッチだね」
「ええ? ひどくないですか?」
「いや、本当にそう思った。五花のその奔放な性格は、たぶん魂レベルで刻み込まれてるよ。きっと、死んでも治らないんじゃないかな?」
「ひっどーい! あまりにひどいです! わたし、ちゃんとたっくんに処女あげたのに!」
「自分がいわゆる処女ビッチってやつだったのは、さすがに自覚あるよね?」
「うっ……たしかに……」
そこで、五花は、意気消沈したように布団の中にもぐりこんだ。
「まあ、でも、正直今は、なんでもいいんだよね」
「……そうなんですか?」
五花が顔をひょっこりと、布団から出してくる。
「うん。ビッチなのも五花の一面。なんか、そういうところも含めて、愛せるなって、素直に思うんだ。それで、五花の方も、なんだか僕の事を愛してくれているらしい。なんか、もう、人生ってこれだけでいいなって、そう思うんだ」
「……ふふっ」
五花は笑って、僕の顔まで顔を上げてきて、ほっぺたにキスをした。
「わたしのビッチ、いま治っちゃったかもしれません」
「へ?」
「なんかもう、たっくんが好きすぎて、愛おしすぎて、どうしようもないなってとこまで、わたしの中の愛情メーターが高まりました」
そう言いながら、五花は僕に口づけすると、そのまま僕の布団の下に潜り込んで、何やら性的な悪戯を始める。
「こ、こら! な、なにをしてるんだ!」
それがあまりに気持ちよくて、エロくて、僕はたじたじになって五花を宥めようとするが――
「ふふ、わたしのビッチは死んでも治らないらしいですからね、たっくんによると。まあ、ビッチらしく、搾り取ってあげますよ」
「いや、普通にもう無理だって! いや、本当やめて……」
結局そのまま僕たちは、"もう一回戦"する事になってしまったのだった。
まあ、色々言いたい事はあったけど――
なんだかんだで気持ち良かったので、いいか、と流されてしまうあたりが僕のダメなところなのかもしれない。
どうやら――
――僕の可愛い彼女、五花ちゃんのビッチは、当分治らないらしい。
――『五花ちゃんのビッチは治らない?』 完