その日、僕は放課後、一人で帰り道を歩いていた。
その途中に通った河原に、一人で座っている五花がいるのに僕は気づいた。
すっかり彼女の事が気になっていた僕は、これはチャンスだと思い、勇気を出して話しかけてみようと近づいた。
彼女は、僕の足音を聞いてゆっくりとこちらを振り返った。
「なんだ、たっくんですか」
「……たっくんで悪かったね」
河原の綺麗な空気がそうさせるのか、僕はいつもより自然に彼女と話す事が出来た。
「ふふ、へんなの、です」
そういって笑う彼女は、いつもより明るさを失っているように思えた。
僕はなんだか、彼女のみんなが触れられない一面に、今なら触れられるような気がして、もっと話をしてみたくなった。
「……いつもの学校の感じとは、ちょっと違うんだね、ここだと」
俺がそう言うと、彼女は最初、笑った。
「なんですかそれ、どう違うんです?」
「なんていうか……寂しそう?」
そう俺が勇気を出して切り出すと、彼女は笑うのをやめた。
「……たっくんにはそう見えますか?」
「……うん」
「……そうですか」
それからしばらく沈黙が続いた。
だがこれが彼女が話を切り出すのに必要な沈黙なんだと察していた僕は、黙って河原の風を感じていた。
「……えっとですね。わたし、ちょっとおかしいんですよね」
「……そうなの?」
感情を抑えて、まずは彼女の話を聞く事に徹するべきだと、僕は思った。
「そうなんです。なんというか、誰とにこにこ話してても、何を楽しくやってても、自分が人生で幸せになる事はないなって、そう思っちゃうんですよね」
それは中学生の女子の話としては、なかなかに衝撃的なものだった。
「だからですよ、たっくん。たっくんみたいな良い男の子は、わたしみたいな女の子の事は、好きになっちゃダメですからね」
――ドキリとしすぎて、心臓が爆発するかと思った。
「なーんて♪ ドキッとしました?」
そう言って、明るく笑う彼女は、そこでいつもの彼女に戻ったのだと、俺は察した。
「そりゃ、するでしょ……勘弁してよ」
「ふふふ、そっかそっかー、そうですかー」
そんな会話を最後に、俺たちは別れ、いつも通りに戻った。
しかし、結局の所――
彼女の忠告は、既に手遅れで――
俺の彼女への恋心は、すでにどうしようもないところまで高まってしまっていたのだった――
*****
「僕と、付き合ってほしい! ずっと前から、五十鈴の事が好きだった! そんなの、五十鈴からすればバレバレかもしれないし、そんな奴はいっぱいいるかもしれないけど、それでも好きなんだ!」
放課後の屋上に彼女を呼び出して、僕が告白したのは、それから数日も経たないうちの事だった。
そんな僕を、彼女はあまり考えを読ませない感じのきょとんとした表情で、じぃっと観察するように眺めた。
彼女の端整な顔立ちに心を覗き込まれるのはお世辞にも心臓にいいとはいえず、僕はバクバクと鳴る心臓を懸命に抑えようとしながら、彼女の返事を待った。
「……最初に言っておきますけど、わたしと付き合って、幸せになれるとは思わない方がいいですよ?」
「……? それはどういう?」
僕は彼女が見た目通りの明るいだけの少女ではないと分かっているつもりだったが、彼女の言っている意味はまるで分からなかった。
「……いえ、なんでもないです。これは、免罪符みたいなものですね。最初に言っておかないと、フェアじゃないってだけの」
「……うん?」
なるほど、分からん、という感じだった。
「それを了承してもらえるなら……二つ条件つきで、付き合ってもいいです」
「本当か……!? でも、条件……?」
「一つは、わたしと付き合ってる事を、誰にも言わない事。もう一つは、わたしに何をされても、わたしと無理やりエッチな事をしようとはしない事……この二つ、守れますか?」
「誰にも言わないってのは分かる。五十鈴は人気なんてもんじゃないくらい人気だし、下手に言ったらトラブルになるよな。でも、何をされても、無理やりエッチな事をしないっていうのは、どういう……?」
「分かってるかもしれないですけど、ぶっちゃけわたしは男の子をエッチにからかって遊ぶのが好きですからね。からかったあげく、無理やりレイプされました、じゃあ嫌なわけです。だから、最初に約束してもらうんですよ。そうする事で、わたしが安心して気持ちよく遊べますよね? これはそういう約束です。都合がいいと思うようなら、断ってくれてもいいですよ?」
五花の言葉は、思わずその光景を想像してドキドキとしてしまうものだった。
もしかすると、状況によっては、本当につらい約束になるかもしれない。
なにせ、五十鈴がいかに僕を誘惑しても、僕は絶対に約束を破ってはいけないのだ。
つまり、五十鈴の許可なしに五十鈴とエッチな事は出来ない。
それがどれくらい辛い事なのか、僕には想像力を欠いている所があった。
だが、この条件さえクリアすれば、付き合ってもいいと、彼女は言ってくれたのだ。
それは僥倖といえた。
このチャンスを逃したら、僕は一生かけて後悔し続けるだろう。
だから――
「分かった。その条件を守ると約束する。だから、改めて、僕と付き合ってほしい」
「……交渉成立、ですね。これからよろしくです、たっくん。一杯わたしの事、楽しませてくださいね?」
彼女はそういって、舌をぺろりと出して、唇を舐めるような仕草をする。
それがどうしようもなくエロティックで……
「う、うん……」
僕は、めちゃくちゃ嬉しいはずなのに、ぼうっとした意識で頷く事しか出来なかった。
「じゃあ、二人っきりの時だけ、イチャイチャしましょうね、たっくん」
「わ、わかった。五花」
そうして、僕は彼女、五十鈴五花と付き合える事になった。
嬉しかった。
あれほど惚れ込んでいた、五十鈴、いや五花と、付き合える事になったのだから。
だが僕の人生の絶頂は、ここまでだった――
この後、僕は散々彼女に弄ばれて、その中でも必死に彼女に好かれようと努力した挙句――
彼女の手帳を覗き込んだ時に、僕の名前がハートマークで囲まれている横に、他のクラスメイトの名前たちがハートマークで囲まれている事を知るのだから――
そう、彼女、五十鈴五花は浮気をしていた――
五十鈴五花は、超絶美少女なだけではなく――
男を弄ぶ、超絶ビッチでもあったのだ――
その途中に通った河原に、一人で座っている五花がいるのに僕は気づいた。
すっかり彼女の事が気になっていた僕は、これはチャンスだと思い、勇気を出して話しかけてみようと近づいた。
彼女は、僕の足音を聞いてゆっくりとこちらを振り返った。
「なんだ、たっくんですか」
「……たっくんで悪かったね」
河原の綺麗な空気がそうさせるのか、僕はいつもより自然に彼女と話す事が出来た。
「ふふ、へんなの、です」
そういって笑う彼女は、いつもより明るさを失っているように思えた。
僕はなんだか、彼女のみんなが触れられない一面に、今なら触れられるような気がして、もっと話をしてみたくなった。
「……いつもの学校の感じとは、ちょっと違うんだね、ここだと」
俺がそう言うと、彼女は最初、笑った。
「なんですかそれ、どう違うんです?」
「なんていうか……寂しそう?」
そう俺が勇気を出して切り出すと、彼女は笑うのをやめた。
「……たっくんにはそう見えますか?」
「……うん」
「……そうですか」
それからしばらく沈黙が続いた。
だがこれが彼女が話を切り出すのに必要な沈黙なんだと察していた僕は、黙って河原の風を感じていた。
「……えっとですね。わたし、ちょっとおかしいんですよね」
「……そうなの?」
感情を抑えて、まずは彼女の話を聞く事に徹するべきだと、僕は思った。
「そうなんです。なんというか、誰とにこにこ話してても、何を楽しくやってても、自分が人生で幸せになる事はないなって、そう思っちゃうんですよね」
それは中学生の女子の話としては、なかなかに衝撃的なものだった。
「だからですよ、たっくん。たっくんみたいな良い男の子は、わたしみたいな女の子の事は、好きになっちゃダメですからね」
――ドキリとしすぎて、心臓が爆発するかと思った。
「なーんて♪ ドキッとしました?」
そう言って、明るく笑う彼女は、そこでいつもの彼女に戻ったのだと、俺は察した。
「そりゃ、するでしょ……勘弁してよ」
「ふふふ、そっかそっかー、そうですかー」
そんな会話を最後に、俺たちは別れ、いつも通りに戻った。
しかし、結局の所――
彼女の忠告は、既に手遅れで――
俺の彼女への恋心は、すでにどうしようもないところまで高まってしまっていたのだった――
*****
「僕と、付き合ってほしい! ずっと前から、五十鈴の事が好きだった! そんなの、五十鈴からすればバレバレかもしれないし、そんな奴はいっぱいいるかもしれないけど、それでも好きなんだ!」
放課後の屋上に彼女を呼び出して、僕が告白したのは、それから数日も経たないうちの事だった。
そんな僕を、彼女はあまり考えを読ませない感じのきょとんとした表情で、じぃっと観察するように眺めた。
彼女の端整な顔立ちに心を覗き込まれるのはお世辞にも心臓にいいとはいえず、僕はバクバクと鳴る心臓を懸命に抑えようとしながら、彼女の返事を待った。
「……最初に言っておきますけど、わたしと付き合って、幸せになれるとは思わない方がいいですよ?」
「……? それはどういう?」
僕は彼女が見た目通りの明るいだけの少女ではないと分かっているつもりだったが、彼女の言っている意味はまるで分からなかった。
「……いえ、なんでもないです。これは、免罪符みたいなものですね。最初に言っておかないと、フェアじゃないってだけの」
「……うん?」
なるほど、分からん、という感じだった。
「それを了承してもらえるなら……二つ条件つきで、付き合ってもいいです」
「本当か……!? でも、条件……?」
「一つは、わたしと付き合ってる事を、誰にも言わない事。もう一つは、わたしに何をされても、わたしと無理やりエッチな事をしようとはしない事……この二つ、守れますか?」
「誰にも言わないってのは分かる。五十鈴は人気なんてもんじゃないくらい人気だし、下手に言ったらトラブルになるよな。でも、何をされても、無理やりエッチな事をしないっていうのは、どういう……?」
「分かってるかもしれないですけど、ぶっちゃけわたしは男の子をエッチにからかって遊ぶのが好きですからね。からかったあげく、無理やりレイプされました、じゃあ嫌なわけです。だから、最初に約束してもらうんですよ。そうする事で、わたしが安心して気持ちよく遊べますよね? これはそういう約束です。都合がいいと思うようなら、断ってくれてもいいですよ?」
五花の言葉は、思わずその光景を想像してドキドキとしてしまうものだった。
もしかすると、状況によっては、本当につらい約束になるかもしれない。
なにせ、五十鈴がいかに僕を誘惑しても、僕は絶対に約束を破ってはいけないのだ。
つまり、五十鈴の許可なしに五十鈴とエッチな事は出来ない。
それがどれくらい辛い事なのか、僕には想像力を欠いている所があった。
だが、この条件さえクリアすれば、付き合ってもいいと、彼女は言ってくれたのだ。
それは僥倖といえた。
このチャンスを逃したら、僕は一生かけて後悔し続けるだろう。
だから――
「分かった。その条件を守ると約束する。だから、改めて、僕と付き合ってほしい」
「……交渉成立、ですね。これからよろしくです、たっくん。一杯わたしの事、楽しませてくださいね?」
彼女はそういって、舌をぺろりと出して、唇を舐めるような仕草をする。
それがどうしようもなくエロティックで……
「う、うん……」
僕は、めちゃくちゃ嬉しいはずなのに、ぼうっとした意識で頷く事しか出来なかった。
「じゃあ、二人っきりの時だけ、イチャイチャしましょうね、たっくん」
「わ、わかった。五花」
そうして、僕は彼女、五十鈴五花と付き合える事になった。
嬉しかった。
あれほど惚れ込んでいた、五十鈴、いや五花と、付き合える事になったのだから。
だが僕の人生の絶頂は、ここまでだった――
この後、僕は散々彼女に弄ばれて、その中でも必死に彼女に好かれようと努力した挙句――
彼女の手帳を覗き込んだ時に、僕の名前がハートマークで囲まれている横に、他のクラスメイトの名前たちがハートマークで囲まれている事を知るのだから――
そう、彼女、五十鈴五花は浮気をしていた――
五十鈴五花は、超絶美少女なだけではなく――
男を弄ぶ、超絶ビッチでもあったのだ――