「うりゃりゃ〜ですぅ」
厳重なロックはムク(成獣)の前では無意味だったようで豪快にぶち壊した。
見張りの天狗たちも自慢の角と脚力でぶちのめした。

「すごい……」

「ハルナ様、大変ですぅ!」
「どうしたの?」

「道に迷ったですぅぅ〜天狗の当主たちが気がつくのも時間の問題ですぅぅ〜〜」

「そんな!とりあえず壁壊して外行けない?」
「わかったですぅ」

ムクは適当に走りまくっては天狗を潰していった。

「ムクちゃん、待って!あの部屋に入ろう!」
「はいですぅ〜」

榛名はある部屋に違和感というか吸い寄せられるような気配を感じた。
ムクから降りて部屋を開けると異臭のような禍々しい匂いが漂っていた。

「ハルナ様、寄り道してる場合じゃないですぅ。見つかるですぅよ」

「うん…わかってるけど…」

部屋にポツンあるベッドに目を向けると病気でもしているのか白髪でシワが多く、顔色が悪い痩せこけたお婆さんが寝ていた。

お婆さんは目を瞑っていたが榛名が近づくと目を開け、ギロッと睨みつけたが人間だとわかると驚いたような目をしていた。

「…アンタ…人間かい?…だが…神通力を持っている……死神か…」
お婆さんはカスカスの枯れたような声で声を出すのも苦しそうだ。

「し、死神じゃないです。私は十六夜様…青龍もしくは別名、龍神様の神子です」

「龍神の…ああ、アンタかい。早くお逃げ…当主はアンタを実験台にして永遠の命を手に入れたがってる…私は用済みさね…」

「用済み?」
「女のアヤカシは珍しいからね。天狗の当主に嫁いだが(ろく)でもない旦那と息子で厳しく更生や躾をしたのだが気にいらないのか私を毒を盛ったのさ」

「そんな…奥さんやお母さんになんてことを…」

「天狗の妻だし珍しい女アヤカシを簡単に手にかけるわけにはいかず、少しずつ毒を盛り病死にするつもりで閉じ込めたのさ。だがアンタが来たのなら私が生かされている意味はなくなる。アンタのが価値があるからね」

寂しそうに語るアヤカシのお婆さん。

「時間ないですぅ!天狗はハルナ様に酷いことしたんだからもう放って置くですぅ」

「待って、ムクちゃん」
ベッド横にある変な色をした液体。
異臭はこの液体から出ているようだった。

これは榛名が飲まされ、体内機能を壊した液体だ。
榛名は癒しの力で回復しお婆さんはアヤカシだから体が丈夫で少量なら生きていたんだろう。

「あの嫌じゃなかったら…生きたいと願うなら私が治してもいいでしょうか?私、治癒力を持ってますので!」
榛名はお婆さんに笑いかけた。
お婆さんは諦めたような暗い目をしていたが希望を得たような目に光が戻る。