食事を与えられなかった榛名は食事を希望した。
生贄として食われるためとはいえ、毎日食事が与えられると聞いただけで目に涙を浮かべるほど嬉しかった。


「ご飯ですぅ?」
「でもボク料理できないなの〜」
「材料があれば私が作れると思うけど…」

ムクとミクは調理場に案内した。

「広い…」

神楽家はいい家柄なので大きな調理場がある。
榛名がまだ家族と仲が良かった頃に兄と一緒に料理をしたりしていた。
そんな神楽家より大きいのだ。

「十六夜様は食事をしないですぅ。だからあるのはボクたちが集めた、木の実だけですぅ〜」
「ハルナ様は人間?人間の食べものわからないの。ごめんなさいなの…」
「木の実を貰っていいかな?」
「はいですぅ!」
「はいなの!」


赤い実と青い実がある。
なんの実かわからないが恐る恐る一口食べてみる。
「わぁ。甘くて美味しい」

(甘いものなんて何年ぶりだろう)

「好きなだけ食べるの。まだ沢山採れるから心配無用なの!」
「はいですぅ」
ムクは小さな瓶に飲み水を入れてくれた

「ありがと…う?」

ムクとミクは鹿の姿から幼い5〜6歳くらいの子供の人型になっていた
服装は和装だが、髪色は鹿の時の体と同じなので見分けがつく。

「えっ?ごほっ…ごほっ…えっ?人間なの?」
榛名はビックリして木の実を詰まらせかけた。
「十六夜様の使いですぅから人の姿になれますですぅ〜」
「凄いなの?」

エッヘンと自慢気なムクとミク。


十六夜から「元気があるなら湯浴みをして寝室にこい」と言われ屋敷の中がよくわからないのでムクとミクに案内してもらった。
生贄の榛名の部屋は先程寝ていた6畳程の小さな部屋になった。


十六夜の寝室の前に立つと深呼吸をした
(抱かれるんだ……これが生きるため…生きるためなんだ!)
覚悟を決め、襖を開けた


「失礼致します」
『来たか』

十六夜は寝間着の浴衣を胸元まで開け、色気たっぷりで榛名はドキッとしていた。

『着ているものを脱げ』
「は、はい」

緊張しながら脱ぎ、十六夜の待つベッドの中へ入ると十六夜から激しいキスをされ、首筋にもキス跡を何個もつけた。
数分間の激しいキスに満足したのか榛名を離した。


「…っ!……はぁ……はぁ……」
息を吐けないほど激しかったので息苦しそうにしていた

『まだ序の口だ。そんなんでは俺は飽きてしまうな』
「…申し訳ございません」

十六夜は榛名の肩を抱き寄せた

『朝は早い。寝ろ』
「えっ…」
『なんだ?口ごたえか?』
「あ、いえ」

(覚悟したのに……)

榛名は十六夜の匂いを嗅いでしまう


(十六夜様…いい香り。……そういえば牢屋にいた頃は床で寝てたっけ……ベッドなんて10年ぶり……)
十六夜の香りと布団の心地良さで寝てしまった。

『寝たか…』
十六夜の目には執着心が宿っていた。


翌朝、頰に生暖かいものを感じ起きるとムクとミクがいた。
頰に鼻息が当たっていたらしい。

「おはようですぅ」
「おはようなの〜」
「おはよう、ムクちゃんにミクちゃん」
ベッドには十六夜はいなかった

「十六夜様は?」
「朝の散歩ですぅ」
「たまに行ってるの」

「十六夜様が今日はハルナ様と出かけるから支度させろって言ってたですぅ」

「ボクたちと一緒にノシバ食べるなの」
「ノシバ?」
※ノシバは鹿が食べる雑草