空き部屋に光希と妖狐のアヤカシを呼び、話しをしてもらうことになった。


「東丿島ではご挨拶もせず、無礼をお許しください。そして榛名様、改めて(わたくし)たちをお救いいただいたこと、感謝致します」

「龍神様、神子様、お初にお目にかかります。私は妖狐のアヤカシ、七宝(しっぽう)と申します。番の光希、共々お助けくださり感謝しかございません。ご恩は一生忘れません」

榛名は七宝という妖狐のアヤカシを初めてみた。
怪我をしていた時は包帯で顔はわからず、光希に番が出来たと知ったが忌み子の榛名は見たことがない。


明るい茶髪で人が良さそうな優しい人相をしている。アヤカシは長生きなので見た目年齢ではわからないが、19〜22歳くらいには見えた。


『ああ、挨拶よりもお前たちの怪我の理由…そして誰にやられたか言ってみろ。誰かは察しがつくが一応な』


光希と七宝がお互いに顔を合わせ相槌をうつ

「私と七宝様を狙った主犯格である方は同一人物です。……神楽雪愛さんだと思われます」

榛名の前なので少し言いにくそうな光希


「雪愛が…なんで…神代家に手を出すなんて…」

十六夜と初代神子・八重の子孫である神代家は島では番のランクは関係なく家柄優先になる。
アヤカシ側も番の都合上、島を取り仕切る一族には良好な関係を気づきたいと思っているので、手は出さないはずなのだが…。


「雪愛さんご本人がおっしゃっていましたが、私が榛名様を…忌み子を助けるのは裏切り者だから、天狗の番である自分に説教し生意気だから…と」

『実にくだらんな』
十六夜は呆れため息が出た

「私のせいで…光希様が……」
ショックを受けたが、隣にいた十六夜は榛名の頭をポンポンして落ち着かせた。

『あの妹1人か?当主は気づかなかったのか?』

「お兄様の冬史郎さんと番の翼様が常に一緒で命令をし、動かしていました。当主である父には隠していましたが、嫌がらせはエスカレート、隠しきれませんでした。父は相手が天狗の次期当主で対応が難しく頭を抱え、七宝様に相談しておりました」

良好な関係を築くためには中々難しい事情もあるのだろう。

「…私も光希のお父上から光希が嫌がらせをされていると聞き、翼様に直談判をいたしました。しかし…私は天狗の権力により反逆者としてアヤカシの世界を追放され、情けない事に光希の元でお世話になっておりました」


「なんて酷い…」

「翼様は雪愛さんを悪く言われたと感じ処分したのかと…」

『もしくは妹の差し金か…よく天狗の当主が許したな。天狗と妖狐の仲は良好なはず…そんな事をすれば一族同士に亀裂が入る行為だぞ』


「はい。天狗の当主のお考えはわかりませんが、番を探しに来ていた一族の者によると揉めているのだとか…」


『で、追放された後に天狗にやられたのか』

「…はい。皆が寝静まった頃にやって来て…不可抗力でした」

「私もです。光希の悲鳴を聞き、駆けつけようとした時に抵抗する暇もない程、一瞬でやられました」

「アヤカシは体が丈夫で人間の武器は効かないほどですが、アヤカシ同士は霊力の強弱でダメージを負いますから」


「………」
榛名は怒りを覚えた。
雪愛の愚かさとそれに従い止めようとしない冬史郎と翼に。