『数百年前だろうか…かなり大昔だな。神から契約し島の人間を統率していたのが俺だ。人間たちもアヤカシも当時はまだトラブルも多かった。しかし俺はあくまで神獣だ。神に人の考え方や心など一切わからなかった俺の代わりに中間に入ってくれたのが八重だ』

八重の墓を見つめた十六夜


『八重は俺に人の気持ち…心とか生活や考え方などを教えてくれた。獣だった俺が丸くなるほどにな。八重は博愛の心があるのだろう、全ての者に愛を注ぐような女だった。俺はいつしか"愛”を知り八重に"恋”をした』


胸に手をあて愛しそうで淋しそうな顔をする

『俺は八重にいい所を見せたくて狩猟で母鹿を亡くし鳴いているムクとミクに神通力を与え、使いにした。ついでに野生動物も剛力筋肉質になるよう力を付与したりな。そうして、いつしか八重も俺を受け入れ愛し合い番となり、子孫も産まれた。心の底から幸せだったよ……だが、人間は弱くて(もろ)い…突然終わりが来るんだ』

「何か起きたのですか?」


『俺を好いていた女たちによる八重への嫉妬と俺を気に入らない男たちとアヤカシの10人以上の連中がいてな。そいつらが八重を惨殺したんだ』

「ざっ…」榛名は言葉がでない

『俺が数日、天界の会合…という名の飲み会だな。それに出席せねばならず留守にしていた間だ』


「八重さんにも神通力の能力があるのですよね?それで対応できなかったのですか?」

『ああ、ある。俺が島に帰り、八重がどこにもおらず見つけたのはお前が生贄として縛られていた岩だ。あの岩の鋭い棘に刺さっていた。刺さっていたのは棘だけではなく槍や刃物も沢山刺さり…挙げ句に燃やしたようで誰かわからない程無惨な状態で死んだ。魂だけでもと思ったが回収できなかった…』


「そんな……」


『俺は悲しみで我を忘れ、東丿島や島周辺を破壊しまくった。人間もアヤカシも殺しまくった。そうして今度は俺の体は黒い闇に侵され苦しみ暴走した。体の外も中も闇に覆われ侵食された。…本来、神は全ての生命に平等で干渉はしない。…が、神獣の使命にはアヤカシや人間が罪を犯せば審判を下し罰を与えるのだが、俺は罪のない者も殺したから闇に侵食されたのは天罰だな』


十六夜は懐から黄ばんだ1枚の紙を取り出す。
「それは?」

『八重の手紙…いや、書き置きだ』

文字が滲んでなんて書いてあるかわからない

『八重を死に追いやった島に見切りをつけ、闇と悲しみで暴走した俺を止めてくれたのは白虎だ。あいつとは昔からの腐れ縁の仲でな。俺を止め、この書き置きを渡してくれたんだ』


「白虎様…なんて書いてあるかお聞きしても?」

『"いつかの百五十年後にお会いしましょう。その時、貴方は永久の幸せを手に入れる”とな。だから生贄を150年に1度にするよう東丿島の連中に伝えたんだ』
十六夜は榛名に向き合う