榛名は縁側で月を見ていた。

「綺麗なお月さま。星も綺麗ね、葵」 

「あら?榛名様のが恋をなさってるぶん、綺麗ですわん」

葵は子供用プールで泳いでいた。


「十六夜様がお好きなんですわん?」

「…好きだよ」

「では恋人になりたいと伝えるですわん」

「無理…十六夜様は八重さんって初代神子が好きって…私じゃ絶対敵わないの」

「これからずっとそうしてるんですわん?生贄として10年、20年と…それはお辛いですわん」

「…うん。余計な感情抱くなって言われても好きの気持ちが溢れて止められない…でも十六夜様を想うだけ幸せだから。たくさんの事をしていただいているのに私を愛してくれなんて言ったら困らせるし、我儘すぎだもの」 

「恋に我儘は必要ですわん」

「そんな事言われても、八重さんに勝てない。勝てるもの持ってないよ。せめて役に立ちたい…少しでも一緒にいたいよ…」

「………」
辛くなってしまったのか、榛名は涙を流した。葵は肩の上に乗り、羽根で撫でた。


葵は後ろにいる者たちとアイコンタクトをする




部屋の襖あたりでムク&ミクは十六夜の手を引きながらずっと榛名と葵のやり取りを聞いていた。


『………』
黙っている十六夜にムクとミクは、十六夜の着物の裾をツンツン引っ張る。

「ハルナ様と出会ったのは神様の導きやヤエ様が許してくれたのではないですぅ?」
「新しい人生ならぬ神生(じんせい)を進むべきなの」


『…………』

十六夜は無言のまま何も言わない。ただ横顔だったが榛名の涙はとても純心(ピュア)で美しいと感じ、胸を痛めた。