レストラン街に着くと昼時のようで賑わっていた。

相変わらず人の多さにビビる榛名だが、見たことない料理に釘付けになってしまった。
店には食品サンプルが展示されており、顔に出さないまでも心は驚きや興奮が冷めない状態だ。
十六夜は食事をしないので興味すらない。

『食べたいもの全部食えばいいだろ』
「む、無理です!」

何がいいかわからないので十六夜に任せると、レストラン街で一番高い店に入った。
人が少なく、静かな店を探し、選んだようだ。

榛名は天ぷらや刺し身や煮物など色んな味を少しずつ楽しめる懐石弁当を頼んだ

『少しは落ち着いたか?』
「はい…十六夜様には良くしていただいて嬉しい限りです」
『そうか』
十六夜はフッと微笑む


(あ…)
胸がドキドキした。

「私、こんなに良くしていただいてるのに何もできなくて…」
『お前は生贄だ。何もしなくていい』
「…はい」

「何もできない…何もしてあげられない」生贄だけの存在に悔しくもあり、選んだのは自分だからと自分に言い聞かせる

十六夜は榛名が頼んだ料理より先にきた、日本酒を呑んでいた。
じっと見ている榛名に気がついた。

『酒飲みたいか?』
「私は20歳にならないと飲めません」

十六夜に気になった事を質問してみた。
「お酒は呑まれるんですね?」
『天界でも酒は振る舞われるからな』
「食べ物は食べないのに生贄は食べるんですか?今までの生贄は放置されたって聞いたのですが、なぜですか?」
『生贄は供物扱いになるから食べれるんだ。今までの生贄は興味なかっただけだ』
「じゃあ私は興味あったんですか…」
『ああ……』

その後の話を聞きたかったが、暖かいご飯に感動し食べる事に目がいってしまった。


食事が終わると十六夜はフロアの人気のない場所に行くと買い物した荷物を投げた。
「え!」と思っているとムクとミクがコッソリと荷物を運んでくれていたらしい。
一生懸命運んでいる姿が可愛らしくてほっこりする。

「…痛っ!」
靴ずれをしていた

急遽、屋上に行き、ベンチに座った。

『絆創膏だったか?手当て用品買ってきてやる』
「いえ、大丈夫です。私、怪我や病気はすぐ治るんです」
榛名にも理由がわからない力だ。
『そのお前の力は神通力によるものだろうな』
「神通力?霊力じゃなくて?」
『お前には霊力は全くない。霊力はアヤカシが強さを示し能力を発揮するが、人間は霊力の強弱くらいはわかるだろうが、何の力もない。神通力は俺たち、神と神獣が使う力といえばわかるか?霊力より格上なのが神通力だ』
「私、ただの人間なのに…」
『島の住人の中に神通力を持つ者が稀に生まれるんだ。だが霊力の強弱程度しかわからない人間には神通力を持っている者を判断はできない。神通力を持つ人間は何かしらの能力が備わっている』


「治りが早いのは神通力の特殊能力ってことですか?」
『そうだ。神通力しかないお前はかなり特殊なようだながな』

少し無言になってから話を続けた

『神通力があるということはお前は神子になれる…つまり東丿島の神子は俺様の番になれる資格がある』

「え…」

顎をクイッとあげ、親指で榛名の唇をなぞる


『俺の番になってみるか?』