闇の龍神様と癒しの神子

✱✱✱✱✱✱✱Side   十六夜   ✱✱✱✱✱✱✱

十六夜は龍の姿になり、東丿島にやって来ていた。
目的は榛名の荷物などを取りにきた。
特に女性物の服はない。

十六夜は姿と力を消し、透明人間のような状態で島に降りた。

『どのぐらいぶりになるか……最後にいたのは……』
懐かしさと複雑さを抱えながら榛名の家を探した。


「雪愛様、忌み子が生贄になったんでしたよね」
「そうよ〜。榛名って生贄になるために産まれてきたに違いないって家族や大人たちも言ってるわ」

(榛名だと…)
十六夜は女子複数の話しに耳を傾けた


「今までの生贄って龍神様に見向きもされずミイラになったんでしょ?」
「何それ〜マジウケるんだけど」
「あの忌み子も無様に死んでるかしら」
「キャハハ!あいつが死んで清々したわ。でもあいつを虐めるとスッキリしてたのは残念だけどね」

雪愛達は榛名の悪口を散々言い合った。

雪愛が移動するので付いていくと家に入っていった。
榛名の家だろうと入り、榛名の自室らしき場所を探したがない。

イライラした男…冬史郎が地下に降りる様子に十六夜は不信感を持った。

「ちっ。榛名は生贄だったな。親父に怒られた腹いせに榛名を半殺しにしてやろうと思ったのに!」
牢屋の前で中を確認し生贄に行ったことを思いだしたのか、更にイライラを募らせた冬史郎は檻に鞭を叩きつけて帰っていった。

(………)

牢屋の中は大量の血が飛び散り、血だらけの布が散乱していた。
(…なるほどな)
榛名がどんな扱いを受けていたか把握した。


十六夜は神代家の屋敷に来ていた。
十六夜は大昔に神子と婚姻関係を結び、住んでいた場所だ。
懐かしいのか屋敷を見て回った。

『随分と時代が変わったな…』
「もしや龍神様ですか?」
姿を隠していたのだが、いつの間にか解いていたのかと焦ったが声をかけた人物をみて納得する

『……神代の女は神子の血があるから見えるんだな』
「はい。私は神代光希と申します」
『何用だ?』
「……龍神様は生贄を食べられたのですか?」
『いや、まだだな』
「…と、言う事は生きてらっしゃるのですね!私が身代わりになりますので榛名さんを返してくださいませんか!」
『あいつ以外は駄目だ』
「そんな…私が何か出来る事はありませんか?」

十六夜は榛名の服などを調達してくれないかと頼んだ。

光希は急いで自分の服を適当に詰め渡した
「榛名さんは私より身長があり丈が小さいかもしれませんが、サイズは合うと思いますわ。…私より痩せておりますから」

十六夜は荷物を受け取ると用済みだと島から去った。

十六夜が帰ってきた。

「おかえりなさい十六夜様」
『ああ』

榛名を抱きしめるとキスをしようとしたがやめ、頭を撫でた
榛名もキスを覚悟していたのだが撫でられたことに困惑した

『…お前の家に行った……』
「………」
十六夜に見られたと思うと心が痛んだ。

十六夜は荷物を渡す
『光希とかいう神代の娘からだ。お前を心配していた』
「光希様が…」
『…お前を食う時以外はあんな人間のクズみたいなことはしないから安心しろ。お前は俺の機嫌だけ気にしていろ』
ポンポンと頭を優しく叩き『早く出かける準備しろ』と榛名を着替えさせようとした。

榛名は自室に戻ると頰を赤らめながら、むず痒い気持ちになったが、それは嫌ではなかった。



服はブランド物ばかりの新品だった。
中には未使用のビキニが入っており、下着代わりに水着を着用した。

「ちょっと胸あたりきついかも…でも贅沢は言えない。光希様に感謝しなくちゃ」
袖は七分丈になってしまったがコートは大きめのため、丁度よかった。
靴もサイズが合わないが、履かないと裸足のままなので、こちらもありがたく使わせていただく。

榛名は十六夜の待つ場所へ向かった

「お待たせしました」

『ああ。左手を出せ』
榛名が恐そる恐そる左手を見せると、十六夜は手を取り左手の薬指に指輪をはめた。


「指輪?」
『お前が俺から逃げないように俺の神通力で作った指輪だ。俺以外外せないし、どこに逃げようとも見つけられる』
「あの…左手の薬指の意味、ご存知ですか?」
『なんだ?』
「左手薬指に指輪をはめるのは婚約者とか結婚相手に愛の誓いとして渡すものですね…」
『人間の世界の話だろ?俺たち神には関係ない』
「そうですか……」
ちょっとドキドキした自分が恥ずかしい榛名

指輪はムーンストーンのような小さな石がはめ込んであった。




十六夜は龍神の姿になる
『俺に掴まることを許す。落とされるなよ』

戸惑いながらも龍の頭あたりにまたがり、角にギュッと掴まると、そのまま飛んでいった


しばらく移動し、どこかへ着陸した。

「……ゼェ……ゼェ……う"っ!」
榛名は乗り物酔いをしてしまったようだ。

『だらしがないな』
「うぅ…申し訳ごっ…!!」

少し落ち着いてから十六夜の方を見るといつの間にか人の姿になった十六夜は和服のような不思議な服ではなく、スーツ姿だった。

高身長でスタイルが良く、肌はほとんど見えないスーツなのに色気がある
そんな十六夜に見惚れてしまった。
『何かおかしいか?』
「いえ!とても素敵です」


数分歩くと人がチラホラいた。

榛名はビクッとなり怯えてしまう。
島の住人達から罵声や石を投げられた記憶が蘇っていた。

『ここは見てわかると思うが、東丿島ではないし、ここにいる連中は霊力なんてない。…お前の事なんて気にしないぞ』

「はい…」と自信なさげに呟き、十六夜についていくと、ショッピングモールがあり、外には旗や出店があった。

「お祭りですか?」 
『違う。ここは商業施設が沢山入った建物だ。毎日賑わっているそうだ…と、店の者に聞いている』
「毎日お祭りなんですね…」
榛名は島から出たことがないので、いまいち理解できてなかった。

『お前の衣食を整える為に来たんだ』
「え!生贄になんかそんな事していただかなくても!私、お金持ってませんから!」

慌てて遠慮したのだが、『言ったはずだ、健康体くらいに肥えてもらわないとな。金なら神獣とはいえ持っているから安心しろ』と言われ、これ以上何も言えずありがたく甘えさせてもらうことにした。

(あ…)
逃げられないようにか手を繋ぎ、下から上まで建物内をまわることにした。

建物内の人や店に困惑しつつ興味が湧く。

『初めてとか言ったか?島ではどうしていた?』
「島には出ることは許されませんが、月に一度だけ大きな船で物資が運ばれます」

物資や名産品を売るのはアヤカシの力を借りているんだとか。
掟により島を出ることはできないが、生贄を捧げる時は特例だと生贄に向う時に島の住人が言っていた。


『逃げなかったのか?』 


「いえ、掟ですから…鈍臭い私はバレてしまいます」

逃げ出したい気持ちはあったが、掟や逃げたのがバレた時に雪愛達からの仕打ちの恐怖心で行動に移せなかった。

『掟か…アヤカシの暴挙を止めるために霊力のある人間を4つの島に閉じ込め、アヤカシは日本を襲わず守らせるためにやったんだったな』
「十六夜様はどのようなお役目であの島に?滞在されておりませんよね?」

『俺たち4体の神獣は地球から島を見えないように結界をはり、島民に守り神として祀らせ、掟を植え付ける。アヤカシの暴挙を止めるのも俺達の役目だ。…普段は天界に住み、察知すればすぐに動くし、たまに気づかれずに監視しに行くらしいだがな』


「十六夜様が住む島が天界ですか?」
『違うな。ただの無人島だ』
「なぜ天界に住んでないらっしゃらないのです?」
『俺はあの島を捨て、天界から捨てられた……それだけだ』


淡々と語る十六夜の目には淋しさが写っていた

何があったのか知りたかったが、なんとなく聞けない雰囲気だった。

それから日用品から衣類など購入した。

『次の階に…』
元気そうな十六夜に慣れない場所と人混みに榛名はヘロヘロに疲れていた。
「き、休憩よろしいですか?」
『よかろう。人間はそろそろ飯の時間か』


レストラン街に着くと昼時のようで賑わっていた。

相変わらず人の多さにビビる榛名だが、見たことない料理に釘付けになってしまった。
店には食品サンプルが展示されており、顔に出さないまでも心は驚きや興奮が冷めない状態だ。
十六夜は食事をしないので興味すらない。

『食べたいもの全部食えばいいだろ』
「む、無理です!」

何がいいかわからないので十六夜に任せると、レストラン街で一番高い店に入った。
人が少なく、静かな店を探し、選んだようだ。

榛名は天ぷらや刺し身や煮物など色んな味を少しずつ楽しめる懐石弁当を頼んだ

『少しは落ち着いたか?』
「はい…十六夜様には良くしていただいて嬉しい限りです」
『そうか』
十六夜はフッと微笑む


(あ…)
胸がドキドキした。

「私、こんなに良くしていただいてるのに何もできなくて…」
『お前は生贄だ。何もしなくていい』
「…はい」

「何もできない…何もしてあげられない」生贄だけの存在に悔しくもあり、選んだのは自分だからと自分に言い聞かせる

十六夜は榛名が頼んだ料理より先にきた、日本酒を呑んでいた。
じっと見ている榛名に気がついた。

『酒飲みたいか?』
「私は20歳にならないと飲めません」

十六夜に気になった事を質問してみた。
「お酒は呑まれるんですね?」
『天界でも酒は振る舞われるからな』
「食べ物は食べないのに生贄は食べるんですか?今までの生贄は放置されたって聞いたのですが、なぜですか?」
『生贄は供物扱いになるから食べれるんだ。今までの生贄は興味なかっただけだ』
「じゃあ私は興味あったんですか…」
『ああ……』

その後の話を聞きたかったが、暖かいご飯に感動し食べる事に目がいってしまった。


食事が終わると十六夜はフロアの人気のない場所に行くと買い物した荷物を投げた。
「え!」と思っているとムクとミクがコッソリと荷物を運んでくれていたらしい。
一生懸命運んでいる姿が可愛らしくてほっこりする。

「…痛っ!」
靴ずれをしていた

急遽、屋上に行き、ベンチに座った。

『絆創膏だったか?手当て用品買ってきてやる』
「いえ、大丈夫です。私、怪我や病気はすぐ治るんです」
榛名にも理由がわからない力だ。
『そのお前の力は神通力によるものだろうな』
「神通力?霊力じゃなくて?」
『お前には霊力は全くない。霊力はアヤカシが強さを示し能力を発揮するが、人間は霊力の強弱くらいはわかるだろうが、何の力もない。神通力は俺たち、神と神獣が使う力といえばわかるか?霊力より格上なのが神通力だ』
「私、ただの人間なのに…」
『島の住人の中に神通力を持つ者が稀に生まれるんだ。だが霊力の強弱程度しかわからない人間には神通力を持っている者を判断はできない。神通力を持つ人間は何かしらの能力が備わっている』


「治りが早いのは神通力の特殊能力ってことですか?」
『そうだ。神通力しかないお前はかなり特殊なようだながな』

少し無言になってから話を続けた

『神通力があるということはお前は神子になれる…つまり東丿島の神子は俺様の番になれる資格がある』

「え…」

顎をクイッとあげ、親指で榛名の唇をなぞる


『俺の番になってみるか?』


榛名の顎から手をどけた十六夜


『冗談だ。俺は誰も番にしない。……俺が愛しているのは八重だけだ』

「やえ?」

『俺が婚姻関係を結んだ神子だ。俺は八重以外は永遠に愛すつもりもない。資格があるだけで、たとえ神子になったとしても番にするかは別の話だからな』

「…愛してもいない私にキスや抱きしめたりなさるのですか?」
『お前には説明しておいた方が誤解させずに済むだろうから、言っておく。お前に興味があると言ったな?』

先程の食事に話した話しだ。

『俺の髪と目は黒いだろ?本来の色とは違う。俺は天界の禁忌を犯し捨てられた。髪と目は闇に侵された禁忌の証だ。見えないだろうが体内も闇に侵食されているんだ。だがお前の神通力の能力に闇を消す"癒やしの力”がある』
「私にそんな力が?」
初耳だったし私なんかに?と自己評価が低い榛名は信じられない。
信じられないが自分の傷が治るのを自身が一番知っているのでなんともいえない気分だ。

『お前と体を交じ合えば闇は消えていく。キスも体を交わるほどではないが有効な手段だ』

(だからキスしたり毎晩抱かれろって…)

『それとお前の魂は八重の生まれ変わりだから愛しくて唇を重ねただけだ。八重の魂を俺から永久に手放さないようにお前を生贄として食う。俺の体が元に戻るまで生かしてやるが役目が終われば食う。わかったな?』
「はい、お役目務めさせていただきます」
『もう一度いうが、俺は八重以外は絶対に愛さない。お前は生まれ変わりであって八重ではない。妙な感情を抱くなよ』
「はい…」


十六夜は榛名に激しいキスをする。



(あれれ……心が痛い……私……)


この気持ちの正体に気がついた榛名


ポチャン…


帰宅後、榛名はお風呂に入っていた。
露天風呂で海を眺められ、たまに波の音が聞こえる。


(あの島にいた頃よりマシだよね…暫くは生かしていただけるだけで感謝しなくちゃ…)

「えへへ…恋かもって気付いたと同時に失恋とはね」
から笑いしながら必死に泣きそうな気持ちを抑えた

「いきなり沢山与えられて贅沢で我儘になっちゃってた。立場と役目はしっかり弁えないと!」



一方、十六夜は八重の事を考えていた。


「あいつは八重ではない。八重の代わりはなれない……もう二度と八重の魂は手放さない」
十六夜の執着心は榛名の魂に向いていた





昨晩は十六夜が先に寝てしまったので、榛名は1人で眠った。
榛名としては昨晩はありがたかった。


(お役目のため太らなきゃね)

「おはようですぅ」
「手伝うの」
ムクとミクが鹿から人型になる。

食料品と調理家電や器具はかなり買ってもらった。
神の力とかで電気ガス水道のライフラインは使えるとムクとミクに聞いたので早速、使わせてもらう。

「神の力万能ね」
レンジで温めたレトルトのリゾットをいただく。

「ん、おいしい」

島では犬用の餌皿に米と味噌汁、おかずが混ぜたものがご馳走だった。酷い時は腐った野菜やカビの生えたパンなどだった。
生きるために与えられたものは食べるしかなかった。消えたいのに結局、生にしがみついていたのだ。

「十六夜様に感謝しなくちゃ」
「ハルナ様は十六夜様と番にいつなるですぅ?」
「え?」

「ハルナ様は神通力あるなの。ボクらと同じなの」
「2人も?十六夜様の使いって従者ってことよね?」
「そうなの。ボクらは東丿島にいた鹿なの〜」
「ママが死んで鳴いて飢え死にしそうな時に十六夜様が使いとして神通力を与えて助けてくれたですぅ」

「十六夜様は優しいんだね」
(野生動物たちが銃を弾くほど妙に剛力筋肉質ムキムキマッチョなのは十六夜様の力だったんだのね…)


「ハルナ様も優しいですぅ」
「そうなの。十六夜様はずーっと孤独なの。ハルナ様は十六夜様の孤独を埋めてくれる方なの!」

「私は……優しくないよ」
(ただの生贄…八重さんの代わりにはなれない)

「十六夜様から番にはしないって言われてるの。私はた打の生贄だよ」

ムクとミクはむぅぅ〜と頰を膨らませ足をジタバタさせたり床を足でバンバンした。

「十六夜様は男の恥なの!」
「十六夜様ちゅーした責任取れですぅ!」
怒る姿がまた可愛らしい。

「番にしないじゃなくて、させるですぅ!」
「ハルナ様が十六夜様に番にしたいってを言わせればいいの!好きにさせればいいの!」

(好きにさせれば…?)


「あー十六夜様ですぅ」

「ハルナ様!早くちゅーするなの!」

「十六夜様、おはようございます」
『ああ。キスしにきたんだがメシは終わったか?』
「はい」

いつものように抱きしめられ激しいキスをされた。

榛名の心は複雑だった。

十六夜から唇を離されると
『見えるか?』
目の前に手を差し出さた


「黒い煙ですか?」
『ああ。これが闇だ。だがお前の力で僅かながら消えたんだ』
「役に立てるなら良かったです」


『今日は買い物に行くか?』
「暫くは大丈夫です。十六夜様は普段どうされているのですか?」
『どうもしない。寝てるだけだ』
「そうですか……」

(うーん…会話が続かない…)



榛名はボーッと子鹿姿のムクとミクが落ちたドングリを食べているのを眺めていた。

「でっかいドングリですぅ〜」
「ボクもでっかいの食べたいなの〜」

楽しそうに落ちては食べを繰り返していた。

「そういえばまだ1月なのに全然寒くないなぁ〜」

独り言のつもりだったがムクとミクが答える
「十六夜様の力ですぅ」
「神さまに捨てられても神獣の力は維持してるの。だから島の中は丁度いい気候なの!」
「ドングリや他の木の実も年中食べ放題ですぅ」
「へぇ~」

「ここって野菜育つかな?」
「やったことないからわからないなの」
「畑作るですぅ?」
「十六夜様が許可してくれればだけど」

『構わんぞ』

後ろから声がし振り向く十六夜だった

「十六夜様、お役目の時間でしたか?」
『いや、キスは1日2回程度でいいだろう。それとも俺ともっとキスしたいのか?』

「い、いいえ!あっ畑の件ありがとうございます」


『近いうちに買い物に行くか』

「はい」
「デートですぅ」
「デートなの〜」

「ち、違うよ〜」
『でぇと?なんだそれは?また変な事覚えやがって…』
呆れる十六夜にムクとミクは興奮したのかお尻の毛をモフモフとさせ尻尾を立てていた。

『榛名』
「は、はい!」
名前を呼ばれただけでドキドキした


『俺様は水遊びしてくるから何かあればムクとミクを頼れ』
「はい」

十六夜は龍神の姿になり海へ潜っていった




ムクとミク(人型)と一緒に砂のお城を作って遊んでいると十六夜が、大きな体に海藻をこびりけて帰ってきた。


「わぁ。ワカメがいっぱいですね!」
『わかめ?』
「はい。わかめの味噌汁でも作れそうです」

『そうか。湯浴みをするがお前も入るか?』
「いえ、結構です!…あっ」
『ん?ああ、俺の機嫌損ねるか気にしてるのか?俺はこの程度、気にしないから安心しろ。お前を抱く時は拒否は許さないがな』
「寛大な御心感謝します」

(よかった…)

『うむ』
十六夜は榛名の頭をワシャワシャした

『髪ゴワゴワしてるな』
「す、すみません」


十六夜は少し考え
『今日も街の方に行く、すぐ準備しろ』
「えっ?はい」

十六夜はご機嫌に露天風呂に入っている間、榛名は着替える
ワカメはありがたくいただき、ムクとミクに運ぶのを任せた。

「光希様に着替え返したいけど島には帰りたくないし十六夜様に頼める立場じゃないのよね」
生贄として捧げられたので帰って来たら別の意味で大騒ぎだろうと困った。

急いで着替え十六夜のところへ向かう。
十六夜(龍の姿)に乗るのでパンツスタイルだ。


昨日も来た、ショッピングモールだ。

最初に訪れたお店は美容室。

榛名は初めての美容室でドキドキしていた。
島にも美容師のような人はいたが、榛名は忌み子として雪愛達に髪を引っ張られたり無理矢理切られたり、時には坊主にもされた。

ヘアスタイルは美容師にお任せし10年ぶりのシャンプーに気分が良かった。
綺麗な髪になっていくことに感動した。

十六夜はそんな榛名に満足したようで、美容師おすすめのシャンプーなどの洗髪剤を買ってくれた。


「ありがとうございます!」
『次だな』


次に来たのはフロア全体がコスメショップが並ぶ場所だ。

『俺はわからないから好きなのを買え』
「…と、言われましても私も化粧なんてしたことありませんから」

とりあえず回って見ると店員さんに声を掛けられた。


お試しにと店員さんに化粧をしてもらう。
肌に合いそうな化粧品やら肌のお手入れに必要なものを購入した。


「なんか私じゃないみたい」


いつもと違う自分に慣れず、緊張しっぱなしだった。
エレベーターに乗っていると十六夜がキスをした。
いつもと違い優しいキスだ。

「んぅっ」

『榛名…綺麗だ』

十六夜は髪を撫でた。

「十六夜様のおかげです」

頰を染めながら十六夜を見つめると十六夜はまた優しいキスをした



十六夜はハッとして自分の唇をおさえた
『すまない…』

「お役目ですからお好きな時になさってください」
『今のは綺麗なお前に触れたいと…っ!なんでもない!』


(八重さんとか癒やしの力目当てじゃなくて私にキスしたいって思ってくれたの?)


榛名から十六夜に手を繋いだ



(私…やっぱり十六夜のことが好き!………八重さんに敵わなくても…片想いのままでもいい!十六夜様といたい!)





せっかくなのでと畑に必要な道具を買おうとしたが、なかったので代わりに植木鉢で育てる野菜キットを購入。

書店では専門書や料理本を買った。
ムクとミクが野菜キットをみて目を輝かせ、早く帰って作りたいとせっせと運んでいる姿は何度見ても可愛らしい。


「十六夜様にもお料理食べていただきたいんですがね…」
『無理な相談だな』

ですよね〜と思いながら歩いているとスイーツコーナーが気になった。

『甘いものか?欲しいなら買え』
「いえ…」

『なんだ気になるんじゃないのか?』
「来月バレンタインだなって思っただけです」
『ばれん…?なんだ?』

「女の子が好きな男の子にチョコや贈り物をして告白する日です。妹が最近は友達同士で交換したりや自分用に買ったりしてるようです。ちなみに翌月はホワイトデーでバレンタインの逆で飴を贈るんです」

『つまりお前はチョコと飴が欲しいんだろ?買ってやるから回りくどい事しなくていいぞ』
「……はい」


本当は違うのだが、結局チョコと飴を大量に買ってくれた。十六夜が見た目で選んだチョコは値が高いものばかりで榛名は焦ってしまったが自分のために選んでくれたのかな?とポジティブに考えただけで嬉しかった。




外の出店でフラペチーノを購入し、十六夜からベンチで待つように言われ初フラペチーノを堪能していると肩を叩かれた。

榛名はフラペチーノを落とした。


「はぁ…はぁ…はぁはぁ…」

声を掛けてきた人物を認識しただけで嫌な記憶が蘇えり、息が荒く、呼吸が上手くできなくなるほど体中が震えあがる。


「おい、そんなにビビるなよ忌み子ちゃん♪」
「誰?」
「あーコイツ、俺の番の姉だった女」

叫ぼうとすると首を掴み「あっちいこうぜ」と連れていかれた。



人気のない場所に連れていかれると地面に叩きつけるように殴られた。


「翼様……」
「忌み子のくせに名を呼ぶな!呪われんだろぉ」


先程、肩を叩いたのは雪愛の番、アヤカシ最高位の天狗の次期当主、翼だ。

他に2人いるが、彼らもアヤカシだろう。


「な、なぜアヤカシがいるのですか!人に手を出すのは禁止なはずです!」

「ぷはははっ。忌み子は人間じゃねぇだろ!なーに勘違いしてるんだよ!」
「なあ、忌み子ってなんだよ」
「この女は東丿島出身の霊力の高いはずの長女なんだが、コイツは霊力0の島のお荷物。いや、存在しちゃいけない(ごみ)だ」

東丿島を出てから数日しか経っておらず、榛名はまだ島中から受けた心の傷は深く、癒えてはいない。


「なぁ、生贄に出されたよな?なんで生きてんの」
「……り、龍神様の生贄になりました……でも……ふぐ!んーー!んー!」


手袋を丸め榛名の口に押し込み、マフラーで口と手足を縛りつけた。

翼の仲間のアヤカシも面白そうだと翼に協力し、榛名を抑えつけた。

「雪愛の迷惑になるだろ、消えろ」

翼は天狗の扇で鎌鼬(かまいたち)のように風を操り、榛名の体を切り裂いた。

「んんんん!!」

恐怖心が蘇る。
翼は雪愛の為なら何でもする(あやかし)
昔から回数は少ないが本当に殺そうとしているように痛めつけられた。
癒やしの力がなければ榛名は死んでいたほどに。



「うっ…」
力で治っても痛みは感じるので耐え難いものがある。



(十六夜様っ……)