番外編⑨『榛名の修行』


『ここだ』
見上げると東ノ島の神代家の屋敷ほどの建物。
榛名がやって来たのは榛名と同じ癒しの力を持つ、神様たちが学び、修行している場だ。
人間界でいうところの学校だろうか。

『修行をしてみないか?』
十六夜から先日、そう言われた。榛名は突然のことでキョトンとしていたが葵が不快感を示した。
「榛名様は天界が一目置くほどなはず、必要ないですわん」
『我らの神からの提案だ。嫌なら断ることもできるがどうする?』
「どういう修行をなさるのですか?体力に自信がないので力仕事でないといいのですが……」
『例えば怪我人がいたとして、今は怪我人一人ずつだろ?それが複数人まとめとか、昔の俺様のように闇にのまれたモノを短期間で浄化したりだな。もしかしたら俺様や榛名自身も知らない能力開花があるかもしれんな』
「やってみたいです」
榛名は興味深そうにニコッと笑う。

そして今に至る。
ボーっと眺めていると建物の門から女性が現れた。
人間年齢なら三十代後半といったくらいの物腰柔らかそうな女性。

『まぁまぁ、お待ちしておりましたわ。私は灯華(とうか)と申します。あなたが榛名さんですね。それから……』
灯華は榛名にべったりの葵(人型)をみた。
『葵だ。俺様の従者で榛名の護衛だ』
『そうでしたか。ではご案内致しますね』
中に案内してくれた。十六夜は仕事のため、帰る頃に迎えに来ると帰っていった。

『ここはまだ幼い神の卵が通う場です。人間界でいう学校のような場所ですね。神の卵たちはいずれは健康や厄除け、子宝の神として修行をしています。榛名さんもここで一緒に修行すれば力をつけていけると思います』
「はい」
榛名は8歳の時から学校に行っていない……許されなかったので学校と聞いてワクワクしていた。
『ここです。こちらは特神(とくしん)クラスです。修行している者の中でも優等生が集められています』
「ゆ……優等生………」
「榛名様の前では蟻ん子レベルですわん。自信持って」
怯む榛名に葵は和装からくノ一の姿に変え、榛名に仇なす者は神だろうが殺る気の満々だ。

ガラっと扉を開けると一斉に注目を浴びた。
『新しく特神クラスにやって来ました、神楽榛名さんです。榛名さんは青龍様の神子であり、番でいらっしゃいます。榛名様は天界に呼ばれるほど優れた癒しの力を持っているいます。仲良くしてくださいね』
「か、神楽榛名です。宜しくお願いします」
緊張しながら挨拶するもクラスメイトたちは無言。
しかし『え……人間じゃない』『人間は下界に帰って俺らを崇めてりゃいいのによ』『特神クラスの汚点よ。恥ずかしい』とヒソヒソ話す声。
クラスは10人ほどの少人数。幼い子もいれば、見た目年齢中高生や二十代とバラバラだ。


授業が終わりあっという間に帰宅時間。
『おい人間、お前なんかが通っていい場じゃないんだ。初心者クラスがいいとこだろ』
『そうよね〜神通力は凄まじいけど宝の持ち腐れじゃない。人間ごときが生意気』
榛名にクラスメイトが話しかけるも敵意剥き出しだ。
葵は授業中は姿を消し榛名を見守っていたが姿を現しすぐに攻撃態勢にはいる。
話しかけて来た神様の卵は「金剛(こんごう)」と「可夢偉(かむい)」。
金剛は金髪でマッチョなイケメン。可夢偉は白髪のツリ目の美女。
『ちょっと待った〜!榛名殿は癒しの力があるそうでござるな!癒しの力は神でも希少価値の高い力。力かかわ本物か試してみるでござるよ!』
ござる口調の女性は「紗扶蘭(さふらん)」。

彼女はドンと真っ黒で禍々しいオーラを纏った玉をだした。
『ちょっとそれって今。ウチらが全員掛かりで浄化やってるやつじゃない』
『面白え!3日以内に浄化出来たら認めてやる』
ニヤリと笑う金剛。
「わかりました、やってみます」
榛名は玉を受け取り、早速やってみる。
虹色の光にびっくりする金剛たち。
びっくりしたのはそれだけではない。榛名は金剛たち全員が苦戦していた禍々しい玉を綺麗な水晶玉に数秒で浄化したのだ。
『凄いでござる!榛名殿、お友達になってほしいでござるよ』
「はい、ぜひ!」
紗扶蘭と握手をして仲良くなったが、金剛たちはギリギリとしながら逃げていく。

「ざまぁですわん」
ドヤる葵。


翌日、灯華は水晶玉のことを知り、榛名を褒めちぎり「榛名さんを見習え」というものだから金剛たちにライバル宣言されてしまった榛名。
そして授業が終わり、帰り支度をしていると可夢偉に話しかけられる。
『昨日は私たちが前から玉に浄化の力を与えていただけでまぐれなんだからいい気にならないでよね!』
「負け惜しみお疲れ様ですわん」
フフンと見下す葵に悔しいそうな可夢偉。
『あそこに連れて行けばいいじゃないか』と榛名と金剛や可夢偉に興味なさそうなクラスメイト。
金剛たちと残っているクラスメイト、そして榛名は建物の地下へ向かった。
厳重な扉をいくつも開けると昨日の玉とは比べものにならない闇や憎悪に満ちあふれている大きな岩。岩には札やしめ縄でいかにヤバいかがわかりやすい。

『これは天界の中でもヤバい特級呪物の一つだ。数千年誰一人として浄化出来なかった代物だ。数千年封印されて前に浄化しょうてした神の力はないぜ。さぁ、人間やってみやがれ!』
「はい」
榛名は近寄り、これは難しいだろうなと考えつつ岩に触れて力を注ぎこむ。

みるみるうちに穢れが消えていく様に金剛たちも言葉がでなかった。
「こんなもんかな……えっと、確認お願いしますね」
『凄いでござるよ!完璧でござる〜!ねっ、金剛?』
『………くそ。………認めてやるよ!……ってぎゃぁ!』
「………」
羽根型の苦無を金剛に投げつけ無言の圧をかける葵。愛する榛名を侮辱され、我慢の限界だったようだ。

『すみませんでしたあああっ!』
『ごめんなさいいっ!』
スライディング土下座をする金剛と可夢偉。
「これで特神クラスの一員として認めてくれますか?」
『もちろんですううっ!』


その後、榛名はクラスに馴染み、全員と仲良くなった。
しばらくして榛名は触れずとも複数人の治癒力を身につけ、更にな人間なら肉体と魂が離れていなければ、神なら消滅して間もないなら死者蘇生ができるようになった。