番外編⑦【8歳の理由】

榛名と十六夜が天界に行ってしばらく経った。
しばらくと言っても人間の榛名から見ればほんの1年くらい。
体も少しずつだが天界に住む神たちのようになってきたそうだ。
それでも人間と変わらない部分はまだ多いので実感は沸かない。

今日は青龍(龍神)が守り神としている東ノ島へやってきた。
目的は島のパトロール。
姿を隠しての見舞わりで、十六夜が片時も離れたくないので榛名を誘った。

「なんだか懐かしい」
『嫌な気分にならないか?』
榛名は首を横に振った。10年つらい思いをしたが今ではなんとも思わない。きっと自分が幸せだからだとおもっている。
十六夜が東ノ島の守り神として戻って来てからは島も島民の意識が少しずつ変わっている。

『特に目立つような変化はないようだな』
「そうですね」
光希と会いたいかったのだが、残念ながら学校へ行っている。

『神代の小娘が気になるのか。今日は諦めろ。天界に帰れば白虎のやかましい神子がいるんだから寂しくないだろ』
「ですね」
白虎の神子は天界に行ってからの友。
十六夜や白虎が仕事をしていると榛名も白虎の神子も暇になるので頻繁に話すようになり友というより親友だ。

「すげ〜健太の霊力高いじゃん」
「どうしょ…あたし、来週誕生日なのに〜」
「早苗に霊力なんていらねぇよ!アヤカシになんて渡さねぇから!」
「健太くん……」
「ヒューヒュー」
ふと周りを見ると小学低学年の子が数名、ランドセルを背負い歩いていた。低学年は授業が終わるのが早いようだ。
霊力の話しをしていたということは8歳くらいだろうか。

「そういえばなぜ8歳までに霊力が発現するのですか?」
長年の疑問だ。
東ノ島では龍神が守り神なので龍神様の長い胴体が8を描いたからとか近年では8を横にしてインフィニティの形だからとか臆測があったが真実は不明。

『島に移住する前は霊力の発現もバラバラだったのもあるが、島に移住した時点で霊力のない者がそこそこいたんだ』
「え?霊力があって当たり前なのに?」
当たり前の島で霊力がないだけで忌み子扱いされた榛名には衝撃だ。

『例えば両親は霊力があるが子供には霊力がないとか、逆もしかりだ。我らの神は霊力ある者を移住させたが、霊力あるなしで家族を引き離すわけにはいかないからな。初代神子とその子供や孫あたりはまだ霊力がない者がいたんだ』
「………」
榛名はその時代に生まれていたら家族と幸せだったのだろうかと考えた。榛名は初代神子の生まれ変わりだし十六夜と初代神子が仲の良さを見せつけられては耐え難い……

『先程も言ったように霊力の発現時期や霊力あるなしとバラバラだったことに加えて移住したばかりはトラブルも多かった。アヤカシは番を見つけやすいものの霊力のない者や発現年齢もバラバラでアヤカシからの要望だった。我らが神の力で遅くとも8歳の誕生日までと定めた』
全員が8歳の誕生日に発現と限定しないのは霊力の強さや素質なのでそこは個人差ってことにしたんだとか。

『8歳なのは"末広がり”という言葉にかけたんだ』
末広がりとは幸せや繁栄が永遠に続く事を願う意味。
昔から「八」は縁起が良いと捉えられている。

『神は本来住んでいた。場所から人間を離してしまうことに心を痛めていたからな。だが離さなければアヤカシがやりたい放題だった……せめて4つの島の住人が幸せであるようにと願いが込められている』

「アヤカシに女性が生まれにくいのはなぜですか?」『さぁな。アヤカシ界の神にでも聞くしかないな』
「もしアヤカシに女性が生まれるようになったら4つの島はお役御免になるんでしょうか?」
『わからないな。……街に比べれば時代遅れだが少しずつ変わっていけばいい、島も住人も』
「そうですね!」

十六夜は神獣の姿になると榛名と共に天界へと戻っていった。