「ごめんな、未早。元はと言えば全部俺が悪いのに……こんな、騙すような真似して本当にごめん」

本だけはしっかり両手で抱きしめながら、床に正座して頭を下げた。壁にぶつけた顔面が痛い。鏡が無いから確認できないけど、絶対真っ赤に腫れ上がっていると思う。
「皐月は俺のことまるで信用してないんだね。今回のことで確信したよ。わざわざ泉名部長まで呼んで……まさか、俺達のことも話したの?」
「話してないよ! こいつを奪い返すのに協力してもらっただけだ! 命懸ける!」
「……」
未早は立ち竦んだまま、床に散らばった荷物を見向きもせずにため息をついた。
「そんなにその本が大事か。そりゃそうか、もし誰かに知られたら全校生徒から変態扱いされて大変な目に合っちゃうもんね」
「ウッお前は……何でこれをとっていったんだよ。前は普通に返してくれたのに」
「……さぁ。何となく」
何となく?
かなりツッコミを入れたかったけど、自分も大概非があるから説教はできない。未早は、俺が書いたこの本を嫌ってるんだろうか。
……ならどうして、すぐに捨てないのか……。

押し黙ったまま動かない彼は、何か後悔してるようにも見える。未早の綺麗な鞄を拾い、その中に転がったペンケースや定期入れをひとつずつ仕舞っていった。
「お前が……この本が嫌でしょうがないなら、今すぐにでも破り捨てるよ。水に浸すんでも、火をつけるんでも構わない」
埃を払ってから、本と一緒に彼に鞄を手渡した。
「俺がこれを持ってたいのは、お前の言うとおり誰かに知られたくないから。後、感謝してるから。この本のおかげで、お前の本当の気持ちを知ることができたからさ」
「……」
未早は本だけ受け取ると、それを自分の額に強く押し当てた。

「俺だって……! 大事だよ。皐月が書いたこの本を捨てるなんてできない……!」

それから倒れるように、俺の胸に寄り掛かるから、彼を強く抱きしめた。
「まだ先輩と付き合う前、いつもこの本を読んで想像してたから……また見たくなっちゃって、勝手に持ち出したんだ。ごめん……」
「ははっ……言えば、いつでも貸してやるよ? むしろ、今日は一緒に読むか」
未早は俺の胸に頬ずりするように頷いた。
はぁ───いつもこれぐらい素直だったら天使なんだけど。

……って、もしもの話をするのはやめよう。それでいつも痛い目に合ってるからな。