放課後まで何とか心を鎮め、解放されてから未早の教室へ向かった。あの後もたくさんメッセージを送ったけど既読スルーしてるあたり、これは絶対怒ってる。
喧嘩して仲直りして、また喧嘩。何で俺達はいつもこうなんだろう。笑うしかない。笑えんけど……。

未早は実は誰よりも繊細で、純粋で、嫉妬深い。ある程度分かっていたつもりだけど、俺も配慮が足りなかった。
しかし未早も分かってない。俺は常に前しか見ることができず、また誰よりも欲望に従順な男だ。多少の粗はスルーしていただきたいのが本音だ。

とにかく今回は緊急事態。何としても彼から本を奪取しなくてはいけない。一年生の廊下で待ち伏せていると、予想どおり未早は鞄を持ってやってきた。

「未早。ちょっといいか」
「皐……先輩」

彼の手を掴み、階段の手前まで連れていく。そこまで来て、彼は強い力で俺の手を払った。
「ちょっと、痛い! 急に何ですか!」
「わ、わるい。でも、お前も俺に言うことあんだろ?」
「言うこと? あぁ、毎日飽きもせずBL読んでるね。って事ですか?」
ひぇー。やっぱりメチャクチャ根に持ってる……。
恋人にこんなこと言われてしまう自分にもドン引きする。けど、そこは諦めて手を合わせた。
「……ごめん、俺が悪かったよ。読んでいいって言われて安心してたけど、お前と一緒にいるときまで耽読するとか有り得ないよな。BLの前に空気を読めって思う。本当に悪かった。許してくれ」
「……」
未早はそっぽを向いていたけど、少ししてから俺の方に来て屈んだ。
「そうだね。確かに俺も好きなだけ読んでいいって言った。それで怒んのはちょっとガキだったと思う。だから、今回はお互いさまってことで」
「ほんとか? ありがとう……!」
……なんてな。
すっかり油断してる未早の鞄を強引に奪い、階段の下へ投げた。しかし鞄が床に落ちることはなく、前もって下の階で待機してた泉名がキャッチした。
「な、何して……っ」
「わるいな、未早! 許せ!」
俺もすぐに階段を降りて、泉名から彼の鞄を受け取った。全て手筈どおりだ。走りながら鞄の中身を確認する。
「ねぇ、俺もう帰っていんだよね?」
「おう、サンキュー!」
泉名は未早が怖いのか青い顔で退避した。
さあ、今回は絶対にあるはずだ!
テスト期間に入った今、机でも音楽室でも、自分の家に置いてるとも思えない。全力疾走で鞄の中を漁ってると、やはり見覚えのある表紙の本が。
「あった!!」
初めて予想が当たり、狂喜乱舞で自分の駄作を奪取した。
「やった……ウ゛ェッ!!」
見つけたことに歓喜していた……けど、前を見ないで走ってたせいで、壁に激突して豪快に倒れてしまった。
「はぁ、はぁ……何やっての、皐月……」
後から追いついてきた未早には、憐れみの目で見られた。