だから、その日もいつも通りのやり取りのはずだった。

「はぁ、マジかよ……このふたりがくっつくなんて、宣伝通り驚愕のラストだったわ……」
「皐月、またセクロス本見てるの?」
「うん、でもこれはメッチャ泣けた……多分今年一番のハッピーエンドだよ。やべぇ、何か前が霞んで見えない」

忙しい夏の演奏会も終え、受験を控えてるものの心にはだいぶ余裕ができていた。部活が終わった後、俺は未早を家に呼んで勉強会をしていた。今度は彼の期末テストが近いからだ。
と言っても途中から集中力が切れて、俺は昨日届いたBLの新刊を読んでいたけど。
「皐月は勉強しなくていいの?」
「俺は大丈夫に決まってんだろ。お前は英語とか悲惨なんだから、自分の心配してやってなって」
何か言ってる未早をテキトーにあしらい、再び最初っから本を読み返す。
「皐月、身にならないヤロウ同士の本読むぐらいならSF小説読みなよ。それか映画。世界観が変わるよ」
「はぁ? 身にならないって意味ならSFも変わんないじゃん。あれはみんな妄想だよ! 宇宙人とかUFOとか、実際に見たことないだろ。大体SFって何の略? スペシャルファンタジー?」
「ナメてんの? サイエンス・フィクション。スペシャルなのは皐月の腐った思考回路だよ」
「あっそ」
未早は真顔で言うけど、心底どうでもよかったから返事だけ返しといた。そもそも未早はSFに取り憑かれ過ぎだ。
フィクションでもアブダクションでも良いけど、恋愛小説の方が生きてる上で身になるって。まぁ、これもフィクションだけど。

「ねぇ、皐月」
「ん……今度は何? 宇宙人なら存在してるってことでいいよ。ホワイトハウスに定住してんだろ……大統領を洗脳して……」
「…………」

今読んでいる小説が傑作すぎて、他のことは何も頭に入らない。俺はこのとき完全に未早を放置していた。

そしてそのまま一日が終わった。……だけど翌朝、俺はタイムマシンが必要になるぐらい困った事態に遭遇する。