未早がこっちを向いてほしくなさそうだったから視線を正面に戻す。何も言わずに夜空を仰ぎ見ていると、か細い声が聞こえた。
「ごめん」
「ん?」
「俺、最低でしょ。一番ずるくて汚いと思う。BLが好きな皐月にこんなこと言うなんて、超卑劣野郎だよ」
「…………」
珍しくネガティブな未早が新鮮でしょうがない。怒りや戸惑いなんか二の次で、もっと悩んでる彼を見ていたかった。だから俺も卑劣で、ずるい恋人だ。
BLに関しては、少しでも理解しようとしてくれたことが嬉しい。BLで悩んでいることは、俺のことで悩んでいるのと同じなんだ。そんな自惚れた思考に陥る。
ずっと前、嫌々言いながら俺が書いた小説を読んでくれたことも嬉しかった。だからぶっちゃけもう充分なんだ。
充分、こいつは頑張った。
「この本は明日俺が研究室に持って行くよ」
「ごめん……」
「もう謝らなくていい。それに俺はBLがこの世から消えても、お前がいれば大丈夫な気がしてる。逆に言うと、BLがあってもお前がいなきゃ生きてけない。何故ならお前の存在そのものが、俺にとっては歩くBLなんだ」
「うん。…………何を言ってんの?」
流れる沈黙。
俺はまたそっと空を見上げ、遠くで光る星を数えた。
未早の悩みがほんのちょっと理解できた夜だった。創作にハマる前の自分を見たような、そんな不思議な感覚。