「最近男でもBL読むやつが増えてるらしいんだけど……兄貴、知ってる?」
テレビの海外ニュースが流れている。テロップには“世界的俳優〇〇がゲイとアウティング”、と映し出されていた。BLとリアルはまるで違うと分かっているが、こんな機会でないと切り出すこともできない。
兄が作ってくれたビーフシチューをスプーンですくい、視線はテレビに向けたまま反応を待つ。
「知ってる」
「どう思う?」
「どうって」
兄は口へ運ぼうとしたスプーンを止め、可笑しそうに鼻で笑った。
「キモい。二度と訊くなよ」
「……うん。ごめん」
会話は途切れた。兄はチャンネルを回し、毎週やってる音楽番組に切り替える。音楽は好きだ。爆音で鳴らせば嫌なことをかき消してくれる。そうして今日も手軽に現実逃避をする。
「ご馳走様でした」
「未早、皿洗い頼める?」
「もちろん」
二人きりの食卓は静かだ。荒々しい物音なんてここ十年は聞いてない。
世界は平和だ。家の中も、俺の頭の中も。