泉名の目元がわずかに光っている。けど見間違いかもしれないから、気付かないふりをして頷いておいた。
とりあえず吹っ切れてくれたみたいだ。俺のことをディスってるような気がしなくもないけど、今回だけは水に流そう。俺も今まで散々彼に迷惑をかけた。
「思い出はこれからもたくさん作れる。絶対なくなったりしないよ」
「うん」
「あと、忘れたくても忘れられないように、俺がずっと一緒にいるから。……心配すんな」
泉名の肩を掴み、こちら側に向かせる。それが何だか告白シーンみたいでドキドキした。別に下心はない。確かに泉名は平均よりは上の顔面偏差値だけど……いや、でも……。
もうちょっと近くで顔が見たい。一歩だけ前へ進み、彼の頬に触れようとした。……その直後、勢いよく扉が開かれて心肺停止しそうになる。
「泉名部長、紅本先輩! 先生がそろそろ練習切り上げて、音楽室の鍵を返せって言ってました!」
扉の前にはぞっとするほど綺麗な笑みを浮かべる未早が立っていた。指先が震える。実際はいつから居たのか分からなくて寒気立った。
「あっあぁ! もう帰ろう! 俺達は充分練習した。な、泉名!」
「うん……うん、ありがとう」
苦し紛れに覗き込んだものの、泉名の顔はもう明るかった。ホッとしながら別れの挨拶をした。ちゃんと寝て、明日は必ず研究会に顔を出すよう念押しして。
「皐月、泉名部長に熱い告白してたね。皐月の仲直りって相手を口説くことだったの? 心配しながら待ってた自分が馬鹿みたいだな。薄汚い感動をありがとう」
俺達の会話を終始聴いていたらしい未早の怒りを買い、その誤解を解くのに二週間近くかかるという黒歴史を生み出した。