最近謝ってばかりだ。でもどうしようもなく大事なこと。そして、ずっと言いたかったことを……今こそ伝えないと。

「いつもありがとう、泉名。俺はお前のことが大好きなんだよ。お前がいない高校生活なんか考えられない」
「…………念の為に訊くけど、BL的な告白じゃないよね?」
「違う。親友として好きなんだ」

はっきり言い切ると、泉名は安堵のため息をもらした。
「良かった……久しぶりに尋常じゃない鳥肌が立った」
「俺に告白されたらそんな嫌なのかよ!?」
「嫌だよ。だって紅とは普通に友達でいたいもん」
これから先、卒業してもずっと。
“親友”の立ち位置は誰にも盗られたくないと彼は言った。それは同感で、何も返さないでおいた。
泉名もしばらく黙っていた。
友達になって初めて、くだらないことも本音でぶつけ合えたと思う。
何となく思ったのは、
泉名は喧嘩するきっかけが欲しかったんじゃないか、ということ。……それも俺の勝手な推測だけど。
今は、喧嘩できて良かったと思える。彼の、ずっと知らなかった本当の顔が見られたから。
「泉名は何で……何に焦ってんの? 受験? コンクール?」
ずっと押し殺していた悩みや不安を打ち明ける機会になる。
「全部だよ、全部。努力して賞を取っても、模試の結果が良くても、……どれだけ楽しい思い出をつくっても、来年の今頃は忘れちゃってるかもしれない。こんなに大事なことも風化してくのかと思ったら、何か怖いんだ。仕方ないことだけど、卒業したくない」
瞳の中の小さな灯りが揺れている。普段は気丈で完璧な、彼の本心を垣間見た。慰めの言葉は中々思いつかない。ただただ驚いた。
彼が普通よりも繊細な悩みを持つ、普通の少年だったことに。
「そりゃいつかは絶対忘れる。でもこうして悩んだことも忘れると思うぜ? そんでふとした時に思い出すんだ。今俺に言った弱音の数々、超恥ずかしい、死にたい、いっそ殺して、ってのたうち回る未来のお前が見える」
「黒歴史か。俺達が高校で創作していたことも?」
「いや。それは多分、大人になっても続けてんじゃない?」
「長い黒歴史だなぁ。てか進行形は痛いよ」
泉名の言うおとり、もしそうなっていたら困った大人だ。
完全に茶化して言ったのだけど、彼はひたすら楽しそうに笑った。
俺はやっぱり、彼の笑った顔が一番好きだ。怒った顔は中々新鮮だったけど、最後は一緒に笑ってふざけたい。
「俺さ、ちょっと前にこっそり書いたBL小説があるんだ。深い事情があってそれは読ませられないけど、お前も登場してるんだよ」
「うわっやだ……俺の性描写はないよね?」
「お前のセッ……はないよ。モブキャラだもん」
俺が後輩のオナッを手伝う描写はあるけどな。それは黙っておこう。
「ははっ。もう……紅は本当に気持ちわるい。でも、俺もそんな紅が好きなんだって気付いた。根拠の無い自信とか、口開けて寝るところとか、本当に嫌いだけど……やっぱり俺の悩みを笑って聞いてくれるのは、紅だけだ」