でも、俺も最初はそうだった。
非を認めるのが嫌なわけじゃない。指摘やアドバイスは素直に嬉しい。しかし伝え方が問題なのだ。もうちょい思いやり……もとい、歳上に敬意を持って言えばいいものを、未早は容赦ない言葉でざっくり切り捨てる。揚げ足取りで刺々しいから誤解されやすい。
そうだ、未早含め先輩を敬わない後輩は基本地獄に落ちろ。堅苦しい伝統も時には必要だと思い知らせるんだ。
心の中でありったけの呪詛を唱え、楽譜を最初まで捲って戻す。その合間に隣からか細い声がぼそぼそと聞こえてきた。
「七瀬も最後のB♭が高かった……」
「……後、走ってる。絶対メトロノーム聴いてない」
「はい。大変申し訳ありませんでした。以後気をつけます」
耳を澄ましてないと聞こえない声量の彼らに、未早は見るからにイラついてる様子だ。俺のパートは不和。そこから不協和音が生じている。
「ま、まぁまぁ……それぞれ今言われたことを意識して。皆、もう一回最初からやるぞ」
「はい」
「…………」
「…………」
────という感じで今日もお通夜が終わり、部活も終わった。幸い、先生からどこも指摘されずに帰れたから良かったけど。

「……何なんですか、あの人たちは!」

学校を出て、寄り道に店でジュースを飲んでる間も、未早の怒りは治まらなかった。

「何で返事しないんですか!? 俺を無視するのはいいとして、紅本先輩の言うことにも返事しないとか! 先輩を何だと思ってんですか! どう考えても敬う気ゼロですよ、アレ! 信じらんない!」
「うんうん、その通りだ。今の台詞を二週間前のお前に聴かせてやりたい」
二週間前はお前も俺のことを散々ディスってた。
人のこと言えないからな。オイ、気付いてるか?
「それに毎回ボソボソ喋って何言ってんのか分からないんですよ! 俺は最近彼らの唇を読んでます」
「ははは……でも楽器の音はよく通るし、良いんじゃない? デカければ良いわけじゃないけど、あいつらの音はすごく安定してて芯がある」
「えぇえぇ、さすが、上手いと思いますよ。でも俺だったらその内どっかで爆発しますね! 紅本先輩は前年の先輩が卒業した後、よく独りで耐えられましたね。素直に敬服します」
やっぱまだディスってるよな……。
ヤンキーみたいに周りに当たり散らす彼を宥めて、俺はポテトを食べた。

「しょうがないんだよ。ウチ、二年生少ないだろ? 何か仲悪くて辞める奴が多かったけど……あいつらは辞めずにここまで頑張ってくれたから、そこは感謝してるんだ」
「そんなん当たり前ですよ。やる気ない奴は褒めても辞めます。やる気ある奴は罵倒しても残ります」
「ああ、お前の言うことは一理ある。でもな……ちょっと話が逸れるけど、切磋琢磨できる環境は良いと思う。俺は高校入ってからお前と同じで、パートの中に同期がいない。それだと張り合いがないだろ。誰がソロをやるかって競い合ってた中学時代が懐かしかった」