未早と初めてエッチなことをしてから、早くも一週間が経った。
あの感じならもっと激しい続きをしていてもおかしくない気がするけど……俺達の仲は、あれからまっっったく進展してない。
むしろ今は部活の練習に必死だった。早くも夏に向けたコンクールと、野球部の夏大の応援と、直前に迫った演奏会のため常に目まぐるしく楽譜を捲っている。
自分の時間すら確保できないのだ。当然、未早とイチャつく暇もない。
それが不安でもあり、不満でもある。頭の片隅でもやもや考えていると、未早がひょっこりやってきた。
「紅本先輩、そろそろパート練習の時間ですよ」
「もうそんな時間か。じゃ下の教室借りて練習しようか」
「はい。あの、先輩……今日は一緒に帰れますか?」
「えっ?」
振り返ってよく見ると、彼は少し気まずそうに俯いていた。どうしたんだろ。
「今日は帰れると思うよ。泉名に捕まる前にちゃっちゃと帰っちゃえば」
「そうですか……!」
未早はホッとしたように顔を上げた。何だよ。可愛い。
彼の反応が気になったものの、その場は一旦練習に取り掛かった。

「碧川ー、重井。パート練始めるぞ」
「……はい」
「…………はい」

今日も安定の暗さだ。
教室へ移動する前に、同じパートの二年生二人に声を掛ける。彼らは蚊の鳴くような声で返事すると、トラべレーターに乗ってるかのような動きでスッと後ろにやってきた。
彼らは無駄な会話を一切しない。最初こそ戸惑いもしたけど、やる事はちゃんとやるし、間違いに気付けば正す努力をする。だから俺は彼らのことが普通に好きで、問題なく付き合ってきた。
けど、どっかの誰かさんはそうでもなく。
「……はい、とりあえずここまで。皆で合わせる時はもう少し抑えて吹いた方が良いかもしれないな。他、何か意見ある?」
「…………」
「…………」
沈黙。まるでお通夜のような空間。それがここ一年間の、俺のパートの日常風景だ。
正直この無音に慣れてきていた。ところが今年は……違う。決定的に空気感を変える存在がいた。
「碧川先輩、重井先輩。BからDの辺り全体的にピッチ高かったかと」
未早は億せず進言する派だ。さすが強豪でやってきただけはある。個人的には活気があるし、意見をバンバン言ってくれるのは嬉しいけど、二年の彼らは違った。
「…………」
反応がない。どうも未早と彼らは反りが合わないみたいだ。
未早は良かれと思って言ってるんだろうけど、それが良い方に捉えてもらえるとは限らないからなぁ……。