情報収集の結果わかったけど、俺が会いたい先輩の教室は三年二組らしい。
「失礼します。あの、紅本皐月先輩はいますか?」
「お? なに、きみ一年生?」
廊下から軽く覗くと、近くにいた一人の先輩が笑顔でやってきた。
「紅本なら研究室に行っちゃったよ」
「あ、ありがとうございます。でもすいません、その……研究室はどこですか?」
「俺も今行くところ! 何なら一緒に行こ」
「ありがとうございます」
優しそうな先輩で良かった。彼の後を追い、研究室とやらへ向かう。
「俺は明野。君は?」
「七瀬未早っていいます。一年生です」
「未早君ね~。確か今日から体験入部始まるんだよね。どこも行かなくていいの?」
彼の言葉にどう返そうか考えていると、明野先輩はハッとした顔で大袈裟に手を叩いた。
「そうか? もしかして君、ウチに入りたくて来たの?」
「はい?」
ウチ?
話が掴めないまま手を引かれる。彼は目的の部屋の前に立ち止まると、鍵をあけて扉をゆっくり開けた。
「もう研究会の存在を知ってる一年生がいるなんて、正直ビビったよ。一応ウチは非公開だから下手に情報バラまかれると困るけど。入りたいなら話は別! しかも君みたいにイケメンな子は歓迎するよ!」
「すいません、俺何のことか分からないんですけど。……何の研究会ですか?」
一人で盛り上がってる先輩には悪いけど、何の部活か全く分からない。それより先に部屋の中の光景が目に飛び込んできた。訊くまでもなく、そこが何の為の場所なのか理解した。
壁中に貼られた無数のポスター。それにはやたらと美化された全裸の男二人が抱き合う姿が描かれている。
レイアウトされた本棚には多数のBL漫画が、表紙からでかでかと見やすく飾られていた。
「ここにある漫画や小説は、好きに読んでいいからね。毎月会長が自腹で買うんだ。あと雑誌も」
「……」
何だこの空間……。
隅に置かれているCDコンポからは、学校という場にはあまりに相応しくない喘ぎ声が聞こえる。
「紅本先輩が……ここにいるんですか?」
「多分いると思うよ。紅本~」
本棚で囲われた、さらに奥のスペースに連れてかれる。まさか、とは思ったけど。
「君……?」
聞こえた声も、姿も、俺が捜し求めていたあの人。
紅本先輩が大きな机の前で、A3用紙に男同士のベットシーンを描いていた。
「……もしかして、未早?」