「じゃあ詳しいことはまた今度ね。会長や他のメンバーにも伝えておくから」
「はい、よろしくお願いします!」
一年らしい無邪気な笑顔を浮かべ、リョウは嬉しそうに帰っていった。
いやぁ、あんな良い子なら大歓迎だ。研究会断絶も免れそうだし。
こちらも嬉しくてニヤけていると、殺気にも似た視線を感じ背筋が凍った。振り返ると、冷ややかな目で腕を組んでいる未早が。
「紅本先輩、嬉しそうですね。リョウと腐ったBL談義をすんのが楽しみなんでしょ
おや。
やや棘のある言い方。これは確実に拗ねてる。こっちはこっちで本当に困ったワガママボーイだ。
「いやいや、お前には感謝してるよ。まだ一年が誰も入ってなくてさ、次の代で研究会は終わっちゃうな、寂しいなーって明野と話してたから」
「あれ、明野さんって実在してたんですか」
「するよ。俺、あの本実在してる奴を登場させたもん」
しかも全員実名だから、本当に危ない作品を作ってしまったと今さらながら猛省してる。個人情報だだ漏れだ。訴えられたら勝てない。勝てる気がしない。

「ま、だからさ、お前も研究会に入ったら? 心配しなくても怖い先輩なんていないよ」
「何度も言ってますけど、俺は入る気はありません!」

からかって言ったわけじゃないんだけど、未早はかなり強い調子で言い返してきた。
「何だよ、そんな怒ることないだろ。俺はただ、お前も一緒に楽しめたらって思って」
……だからって、強要するつもりはないけど。それをしたらもっと嫌われるかもしれないことを知ってるから。
心配になってると、未早は聞き取るのにやっとの小さな声で呟いた。

「……俺が好きなのはBLじゃなくて、紅本先輩なんです」
「え」
「それに、もしそういう本読んでエッチな気分になっちゃったら、先輩に申し訳ないし」
「マジで!? そういうもんなの!?」

彼の言葉に、雷が落ちたかのような衝撃を受けた。
マジか────恋人がいる身でエロ本読んだらダメなんですか。てことは俺も、未早がいるのにR指定を読んだらダメってこと? そんなの知らない。そんな法則は初めて聞いた。
でも、たまにめっちゃエロい話もあるし……勃たない保証はない。
じゃあ、未早は恋人の俺に遠慮してBLを読むことを拒んでいたのか。オイオイどんだけ健気なんだよ。
それに引き換え俺は、彼がいるのにこれからもBL(もちろんR指定)を楽しむ気でいた。

「ごめん、未早! それなら俺も、もうBLから足を洗うよ! お前がいんのに、いつまでも二次元に恋してちゃダメだもんな……」