晴れて未早と恋人同士になった。
めでたい、記念すべき一日目の朝だ。窓から射し込む朝陽もきらきら輝いて俺を祝ってくれてるようだ。
スマホの時計を確認し、皐月は足早に学校の廊下を歩いた。
現在の時刻、朝の六時。今日は部活の練習も生徒会の運動もない。……なのにどうして、こんなに登校時間が早いのか?
それはある目的の為だった。この曜日、この時間なら早い職員が来て校門の鍵を開ける。それを知っていた為こっそり校内に侵入し、一年生の教室を目指した。
中へ入ったのは未早が所属する一年一組。ここからが大変だ。時間が勿体ないから早く取り掛からないと。
俺の目的────それは目の前の三十個ほどある机の中から、未早の机を探し当てること。

今度こそ、俺が書いたあの小説を回収する。ミッション開始だ!

出席番号順ならある程度推し量ることができたけど、残念ながらこのクラスはランダムっぽい。仕方ないから端から覗いていった。
非常に疲れる作業だった。前もって同じクラスの一年に訊いてれば楽だったけど、この機を逃したら未早はもう学校に置くなんてことしなくなるだろう。
今しかない。今しかあの小説を奪い返すことはできない。人の机の中を物色するという犯罪行為を必死に続けた。それも全て平和な生活を送るため。
例え信じていても、恋人同士だとしても、彼の手元にあの小説があるのは落ち着かない。
極限の緊張状態の中、着実に机の中を確認し、十九個目にしてようやく未早の机を見つけた。
よし! どこだ!?
数学、英語、現国……たくさんの教科書やノートを順に確認する。脅威の置き勉率……それはまぁいいが、愕然とした。

小説が……無い。

なんてことだろう。
未早の机の中に俺の小説は入ってなかった。念の為もう一回確認してみたけど、やっぱり無い。何回確認しても無いもんは無い。
「まじか……」
俺の努力を嘲笑うかのように、ノートや教科書には落書きばかり。あいつは真面目に授業受ける気があるのか。
またしても徒労に終わった。絶望感からその場へ崩れ落ちる。

あいつマジで俺の小説をどこにやったんだよ。
教室の個人ロッカーかとも思ったけど、パッと見体操着とかばっかで本を入れてる感じはなかった。さすがの未早も、あんな丸見えの場所に俺の本は置かない。……と思う。