「……ちなみに未早。俺は曖昧な約束とか、名前のない関係ってのがモヤモヤして嫌いなんだ。ここではっきりさせておきたい。俺はお前と付き合ってもいいけど、お前は俺と付き合う覚悟はあるか?」
「あります。関係を解消する時は、どちらかが死ぬ時だけだと思ってます。そして多分俺よりは先輩が先に死ぬと思ってます」

なるほど……重いけど、それは一理ある。
じゃねえよふざけんな。絶対俺よりお前が先に死ね。

ていうか何でこんな喧嘩腰で話してんだろう。普通、告白した後ってお互いキュンキュンする展開になるよな。わぁ嬉しい~、ラ〇ン交換しよ~ってなってイチャイチャするよな。
でもこいつを普通の基準で考えちゃいけない。ここは先輩として、無理やりそっちへ持っていくか。
「未早、俺のこと好き?」
「えぇ。まぁ」
「まぁって何だよ! 好きなの? 好きじゃないの!?」
「まぁまぁ大好きです」
「どういうこと……!?」
くそ、ツッコミが追いつかん。相変わらず彼の“好き”の基準がハッキリしないが……さっきよりは確実に距離が縮まってる。間接的な意味じゃなくて、かなり直接的な意味で。
何故なら、未早は今俺に寄りかかって全体重を預けてるから。手のひら返し早すぎだ。
「おーい……ほんとに、俺でいいんだな?」
「何回訊くんですか」
彼は笑って、猫みたいに背中を反らせて伸びをする。俺と同じ目線になってから、ゆっくり背中に手を回した。

「先輩がいいんです。付き合ってください」

今度は打って変わってまともな告白だ。何のひねりもない、テンプレな……。

それでも嬉しいなんて、告白ってのは不思議なもんだな。

「あぁ。俺も、お前がいい」

彼の唇に触れた────そのとき、ドアをノックする音が響いた。
「未早くん? お待たせ! 鞄乾いたわよ」
ドアを開けて入ってきたのは母さん。なんてタイミングの悪い。というか心臓に悪い。
俺と未早は反射的に、部屋の角まで離れた。
「二人ともどうしたの。そんなに壁に張り付いて」
「あ、最近流行ってるんだ、壁に張り付くの」
俺の咄嗟の言い訳に未早は神妙な表情だったけど、問題ない。
「あら、そうなの。今の子はそんなことが面白いのね」
こんな嘘に簡単に騙されるのがウチの母さんだから。笑顔で頷いてる母さんを、未早はまた神妙な顔で見ていた。
「はい、未早くん」
「あ、本当にありがとうございます!」
すっかり泥も落ちて綺麗になった鞄を母さんから受け取り、未早も笑顔を浮かべた。
「それにしても皐月、さっき自分のせいで鞄が汚れたって言ってたわよね? 一体どういうこと?」
「あ、それは……」
俺が強行に及んだ末の事件。正直に話そうと思ってると、未早は手を前に出して首を振った。

「違うんです。あれは俺がうっかり水たまりに落としちゃっただけで……紅本先輩は全然関係ないんです」