「で、紅本先輩。ここら辺のBL作品は全て処分してもいいんですよね?」
「はぁ!? だめに決まってんだろこの鬼畜野郎!」「別にいいじゃないですか。小説の中の俺も言ってましたけど、こんな腐ったモンばっか読んでるからただでさえ軽い先輩の脳みそがプカプカ浮いちゃうんですよ」
「未早、お前ちょっと表出ろ」
さすがに怒りがこみ上げてきたけど、深呼吸して冷静さを取り戻す。そしてさっきの小説を手に取った。
「あ~ぁ。ほんとに……紅本先輩、大好きです! って言われたい……18禁見せてくださいって頼んできたら喜んで見せるのに……!」
「先輩、ほんとに頭大丈夫ですか? UFO呼んでもう少し正常なマイクロチップを埋め込んでもらいましょうか」
「うるさいこのオカルトマニア!」
ひとしきり彼に罵詈雑言を浴びせて研究室を出て行こうとしたけど、何故か今度は袖を引っ張られる。

「なんだよ、部活に戻るんだろ?」
「えぇ。でも、ソレは俺が預かりますよ」

一瞬の隙をついて、未早は俺の書いた小説を奪い取った。
「こら、返せ! 気持ち悪いから嫌なんだろ!?」
「はい、気持ち悪いです。この小説、タイトルあるんですか?」
「タイトルはまだないよ。ある意味リアル版夢小説みたいなもんだからな」
「ふぅん……」
俺がそう吐き捨てると、未早はあからさま馬鹿にした顔で本を見ていた。そしてなんて事ない様子で自分の鞄に仕舞う。
「何すっ……まさか燃やす気か!? いくらなんでもそれは…!」
「燃やしませんよ。でも没収します。俺はやたらと喘ぐわ叫ぶわ、先輩はやたら美化されてるわ……有り得ないでしょ、こんなの」
憎たらしい顔であっかんべーした後、彼は勢いよく研究室の扉を開けた。

「こんなやらしー小説、童貞の紅本先輩には未だ早いでしょ?」

また乱暴に閉じられる扉。
ひとり取り残された研究室で、拳を震わせた。

「ム……ムカつく……!!」

高校三年、最後の年。部活も生徒会も研究会も完璧にこなしていた俺の前に現れた、ウザすぎる後輩。
創作と違って、現実はずいぶんと違う。だから余計に脚色なんかしてしまうんだけど。

────少なくとも、俺が知ってる七瀬未早はああいう奴だ。