「“完”……?」

持ってる本の次のページをめくると、そこはもう真っ白だった。空白の紙面は清々しいまでに物語の終焉を表している。

「はい、終わり。どうだよ未早。中々いい締め方だったろ?」
「…………」

例えようのない虚無感に支配されている。
気だるけに椅子にもたれ掛かる少年、七瀬未早は本を片手に深い深いため息をついた。

今日は土曜日。休日だが吹奏楽部の練習が午前にある為学校へ来ていた。早めに部活へ行こうと音楽室へ向かう道中、彼はある人物に捕まってしまい現在に至る。
全裸の男のポスターが壁一面に貼られた異様な研究室で、約一時間。
「……紅本先輩」
部活が一緒の(だけの)先輩に拘束され、彼が書いたという二十七頁のくっ……だらない小説を延々と読ませられた。

「えー……そうですね。感想? 言いたいことは色々あります。まず、ほとんど捏造ですよね。俺の入学理由や友人関係なんか先輩が知ってるわけないし。俺も紅本先輩も吹奏楽部なのは間違いじゃないけど、別に同じ中学じゃないし」
「そ、そうだな」
「おまけにBL研究会なんか俺は入ってない。俺がずーっと先輩にベタ惚れしてるみたいな設定で書かれてるけど、冗談でも無理です。あとちょくちょく俺を助けててカッコいいみたいな描写もありましたけど、鳥肌が立ちました。心から笑えた箇所はひとつもありませんでした」
「そう……か。……そうだよな、すまん」

未早と相対する黒髪の少年、紅本皐月はすっかり勢いをなくして作り笑いを浮かべた。その心中は落胆そのものだが、決して罪悪感ではない。
滔々と不満を述べる後輩、……未早は無表情だけど、恐らく怒ってる。ガチ切れだ。この小説、彼の反応さえ良かったら名前だけ変えて自費出版したかったんだけどなあ。無理か。
「紅本先輩の為に言いますよ。いい加減腐った世界から卒業したらどうですか」
「ふん、お前が俺に優しくなったら卒業するよ。お前の態度が冷た過ぎて、悲しいからこの小説を書いたんだ。あ~あ、現実のお前もこれぐらい俺にメロメロで、可愛かったらいいのになぁ」
思うままに叫ぶと、近くにあったBL本のカドで殴られた。
「いったいな! お前本は鈍器と一緒だぞ!」
「馬鹿なことばっかやってないで音楽室に行きますよ! コンクール近いのに全然練習してないんだから!」
そう言って怒る彼の顔は赤い。やっぱり怒りのせいかもしれない。
俺の二つ下。まだ一年の後輩、七瀬未早はこういう奴だ。とにかくツンツン、“デレ”がない。

冗談を言っても笑わないし、先輩の俺に対してとにかく生意気。ムカつくから、今回こいつと俺を題材にして小説を書いた。BL研究会副会長としては面白い取り組みだったと思う。
未早はBLを読まない。むしろ大嫌いだと豪語してるから、この小説でちょっと考え方を変えたりしないか期待してたんだけど……こまで掘り下げて書くには時間が足りなかったし、フィクションとはいえちょっと喘がせ過ぎた。