廊下へ出て、また場所を移った。普段生徒が訪れることのない屋上階段に連れてこられ、壁に強く押し付けられる。
「せ、先輩痛い……」
思わず口に出すと、先輩は黙って手を離した。
「お前も男だもんな。エロいの読みたい気持ちはよく分かるよ。でも一度は俺と約束したじゃん。それはどうでも良かったの?」
「どうでも良いわけないです。ただ、今回は欲望に負けました。好奇心旺盛ボーイなもんで! 痛い!」
結構容赦ないデコピンをされた。
「また読んで、また勃ったとして。他の奴が来たらどうするつもりだったんだよ。俺はお前のそんな所、死んでも見られたくない」
「ご、ごめんなさい……」
それは確かに、考えてなかった。二回目以降は多少エロい絵を見ても何とか堪えることができていたから、平気で研究室で読んでいたけど。
先輩の気持ちは分かる。それが有り難いし、……申し訳ない。

俺達は今“恋人”なんだ。俺ばっかり意識してると思ってたけど、先輩も同じぐらい意識してくれていたんだ。
だからこそ、どうしても気になってしまう。
「あの、話変わってすいません。前にも訊いたことありますけど、紅本先輩は何でエッチなシーンを読んでも勃たないんですか? 俺が告白しただけで失神したでしょ」
「何回も言ってるだろ。創作だって割り切ってるからだよ」
「え。じゃあ何に勃つんですか、二次元以外で……」
同じことのエンドレス。本や動画をオカズにしないならマジで分からない。
すると大袈裟なため息が聞こえ、熱い何かが唇に触れた。視界が見えにくい。息が、熱い。
あ。
激しい。激しいキスがしばらく交わされた。
「……分かんない?」
ようやく解放されたけど、息苦しさは続く。……もうずっと。

「お前のことを考えたら、いつの間にか勃ってる。理性とか全部ぶっ飛んじまうぐらい、今はお前に犯されてんだよ……!」

紅本先輩の必死な表情から目が離せなかった。
もう恐怖や自責の念はどこかへ姿を消して、全身が火照った。
「うわああぁぁ!」
「急に何!」
「先輩が可愛すぎて……うっ、俺もう死んでもいい……」
床に崩れ落ちて、溢れる涙を袖で拭う。

「俺は中学の時、先輩に毎日抱かれる妄想をしてました。あの頃はこんな世界知らなかったけど、この恋は絶対叶うはずないって……そう思っていたのに」